憲法 53条-64条/103条 国会

第五十三条  内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。

 

 

第五十四条  衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の総選挙を行ひ、その選挙の日から三十日以内に、国会を召集しなければならない。
2  衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。但し、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる。
3  前項但書の緊急集会において採られた措置は、臨時のものであつて、次の国会開会の後十日以内に、衆議院の同意がない場合には、その効力を失ふ。

 

第五十五条  両議院は、各々その議員の資格に関する争訟を裁判する。但し、議員の議席を失はせるには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。

 

今回は国会に与えられた権限を、①資格争訟裁判権、②役員選任権・議員規則制定権・懲罰権、③国政調査権、④大臣の出席要求権、⑤弾劾裁判権――と順番に見ていきます。

Ⅰ.資格争訟裁判権

憲法55条にある「議員の資格」とは、44条に基づいて法律で定められた議員になり得る要件のことです。
具体的には、
①被選挙権があること
②議員と兼職することが禁じられた職に就いていないこと――です。
この議員の資格の有無を問う争訟のことを「議員の資格争訟」と言います。
議員の資格の有無についての争いは、本来、裁判所の権限に属する事項ですが、55条は議院の自律性を尊重して、議員の資格争訟は各議院が自ら行うとしているのです。
ただし、国会法や公職選挙法で、例えば、議員が被選挙資格を失ったときには、その日直ちに退職者となると規定されていたり、議員が他の議院の議員となったときには当然に退職者となるとも規定されているので、実際に議員の資格の有無が問題となることはほとんどないと言っていいでしょう。現に、日本国憲法施行後、資格争訟の裁判が行われたことはありません。
さて、資格争訟裁判の審理についてですが、議員に資格がないとして議席を失わせるには、出席議員の3分の2以上の多数による議決が必要です。資格争訟を提起された議員は、弁明の機会は与えられますが、議決権はありません。そして、議席を失った議員はさらに裁判所に救済を求めるなどの行為はできないことになっているので、議院における資格争訟の結果がすべてということになります。

 

第五十六条  両議院は、各々その総議員の三分の一以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない。
2  両議院の議事は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、出席議員の過半数でこれを決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。

 

第五十七条  両議院の会議は、公開とする。但し、出席議員の三分の二以上の多数で議決したときは、秘密会を開くことができる。
2  両議院は、各々その会議の記録を保存し、秘密会の記録の中で特に秘密を要すると認められるもの以外は、これを公表し、且つ一般に頒布しなければならない。
3  出席議員の五分の一以上の要求があれば、各議員の表決は、これを会議録に記載しなければならない。

 

第五十八条  両議院は、各々その議長その他の役員を選任する。
2  両議院は、各々その会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定め、又、院内の秩序をみだした議員を懲罰することができる。但し、議員を除名するには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。

 

Ⅱ.役員選任権・議員規則制定権・懲罰権

58条1項は、役員の選任権を規定しています。ここでの「その他の役員」とは、副議長、常任委員長などが国会法で規定されています。
58条2項の前段は、各々その議員における会議の手続や内部規律に関する規則(議員規則と言います)を定める権利を規定しています。この議員規則制定権は、議院が国民を代表し、独立して活動する機関であることから当然に認められる権利と考えられています。
議員規則は、議院の内部事項についての規則ですが、議員以外の人も拘束できます。国民の社会生活に関する内容でないため、法律のように正式に公布されませんが、官報などで広く国民に知らされるのが通例です。
58条2項の後段で、議員懲罰権も、議員規則制定権と同じく、議院の自律性を保つために認められています。ここでいう「院内」とは、国会議事堂という建物を指すのではなく、組織としての議院の内部のことです。つまり、国会議事堂の外で行った議員としての活動も懲罰の対象です。
懲罰の種類は国会法で次の4つが定められています。
①公開議場における戒告
②公開議場における陳謝
③一定期間の登院の禁止
④除名
④の除名については、出席議員の3分の2以上の多数の議決がなければ行えません。

 

第五十九条  法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。
2  衆議院で可決し、参議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の三分の二以上の多数で再び可決したときは、法律となる。
3  前項の規定は、法律の定めるところにより、衆議院が、両議院の協議会を開くことを求めることを妨げない。
4  参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。

 

 

第六十条  予算は、さきに衆議院に提出しなければならない。
2  予算について、参議院で衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院の可決した予算を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて三十日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。

 

 

第六十一条  条約の締結に必要な国会の承認については、前条第二項の規定を準用する。

 

 

第六十二条  両議院は、各々国政に関する調査を行ひ、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる。

 

Ⅲ.国政調査権

62条では、両議院に「国政に関する調査を行う」権利=国政調査権を与えることを規定しています。
国政調査権は、国民の代表者である議員から成る国会・議院が、法律の制定や予算の議決などの憲法上の権限はもとより、広く国政(行政)を監督しコントロールする権限を実効的に行うために必要な調査を行う目的で定められたものです。
国政調査を行う場合には必要に応じて「承認の出頭及び証言並びに記録の提出を要求すること」ができると謳っていますが、その実効性を確保するために、要求に応じない者に対しては法的制裁を科すことも許されることになっています。このことは、『議員における証人の宣誓及び証言等に関する法律』という法に、出頭を求められたのに正当な理由なく出頭しなかった証人に対しては禁錮または罰金が科されるなどの制裁が規定されています。
ただし、捜索や押収、逮捕といった手段をとることまでは許されないと理解されています。

また、国政調査の性質については、古くから2つの説があります。
①国権を統括するための独立の権能であるとする独立権能説
②議員が有する様々な権限を実効的にするための補助的に認められた権能であるとする補助的権能説
これは41条の国権の最高機関に関する統括機関説と政治的美称説の2つからそれぞれ導かれたものです。
この2つを語る事件に、親子心中を図り3人の子供を殺したが自分は死にきれず、自首した母親に対して浦和地裁が執行猶予付きの判決を下したことに対し、参議院法務委員会が「量刑が軽すぎる」としてその当否を調査した「浦和事件」があります。
この事件で、参議院法務委員会が①の独立権能説から調査の正当性を主張したのに対し、最高裁判所は②の補助的権能説の立場をとって、参議院の国政調査権の濫用を主張しました。そして、最高裁の採った補助的権能説が現在でも通説となっています。

次に国政調査権は、①司法権との関係、②行政権との関係、③人権との関係――で、制限がかけられます。
1)司法権との関係での制限
判決や訴訟手続などに関する事項であっても、それが立法や予算審議のために必要である限りは、国政調査権の対象になり得ます。しかし、その調査の方法については、司法権の独立を侵害することがないよう十分に注意される必要があります。例えば、ある特定の個人が有罪か無罪かの追究を主目的とする調査や、現に審理が行われている訴訟についての裁判官の訴訟指揮や判断を対象にした調査は許されていません。

2)行政権との関係での制限
司法権と異なり、行政権についてはもともと議院内閣制の下、国会には行政に対する監督・統制が求められていますから、一般の行政権については全面的に議院の国政調査が認められています。ただ、行政権の内の検察権については裁判と密接な関連があるので、司法権に準じた配慮が必要です。例えば、起訴・不起訴の判断は検察官の専権ですが、その判断に政治的圧力を加えることと目的とする調査や、起訴された事件に直接関連する事項や公訴の内容を対象とする調査、捜査の続行に重大な事象を来すような方法による調査は、許されません。

3)人権との関係での制限
人権の保障と実現が憲法の基本的な理念である以上、国政に関する様々な制度もそれに仕えるべきで、国政調査も国民の権利・自由を侵害するような目的・方法でなされてはならないことは当然と言えます。例えば、議院での証言が、証人本人に処罰をもたらすおそれがある場合には黙秘権が38条に保障されています。また、思想・良心の自由や信教の自由、学問の自由などを侵害するような質問に対しては、証言を拒むことができます。

第六十三条  内閣総理大臣その他の国務大臣は、両議院の一に議席を有すると有しないとにかかはらず、何時でも議案について発言するため議院に出席することができる。又、答弁又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない。

 

Ⅳ.大臣の出席要求権

63条前段では、内閣総理大臣やその他の国務大臣は、議院について発言するためであれば、その議院に議席がなくても、いつでも議院に出席することができることを規定しています。これは、議員内閣制の下で、行政権の行使につき議院に対して責任を負う国務大臣に、議院に出席して発言する機会を与えたものです。
63条後段では、逆に、内閣総理大臣やその他の国務大臣は、答弁や説明を求められた時には、その議員に議席がなくても議院に出席しなければならないことを規定しています。この規定は、議院内閣制の下で、行政権を監督する国会に、国務大臣から直接答弁や説明を聞く機会を与えたものです。

 

 

第六十四条  国会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける。
2  弾劾に関する事項は、法律でこれを定める。

 

Ⅴ.弾劾裁判権

裁判官は、原則として公の弾劾によらなければ罷免されません(憲法78条)。これは、裁判官の職権の独立を確保するために裁判官の身分を保障する趣旨ですが、この公の弾劾がなされた裁判官は、国会が設置する64条の弾劾裁判所で裁判を受けることになります。
弾劾裁判所は、両議院の議員のみによって構成されます。詳細は国会法と弾劾裁判法に規定されていますが、弾劾裁判所を構成する裁判員は、各議院から7名ずつ任命されることになっています。また、国会に設置されていますが、国会の機関ではないので、国会の閉会中でも活動することができます。
弾劾裁判の手続は、一定の罷免事由が存在する認められる裁判官を、両議院の議員から各10名選ばれる訴追委員会が訴追しますが、一定の罷免事由とは、次の2つです。
①職務上の義務に著しく違反し、又は職務を甚だしく怠った場合
②職務の内外を問わず、裁判官として威信を著しく失うべき非行があった場合
弾劾裁判は公開の法廷で行われますが、憲法82条で定められた普通の裁判所には含まれないと理解されています。
審理の結果、裁判員の3分の2以上の多数の意見によって罷免が相当であるとされた場合には、その裁判官は罷免されます。また、不服がある場合には、規定上では、弾劾裁判所に対して資格回復の裁判の請求ができるとされていますが、不服を訴えることはできません。

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