会社法
(平成十七年七月二十六日法律第八十六号)
最終改正:平成二八年六月三日法律第六二号
(最終改正までの未施行法令)
平成二十八年六月三日法律第六十二号 (未施行)
会社の概念と株式会社の設立
今回から、商法の特別法である会社法に入ります。まず、会社法上の会社の概念をつかみ、会社の代表格である株式会社とその設立について学ぶことにします。
メニュ―は①会社の概念、②社員と会社の種類、③株式会社の設立――です。
Ⅰ.会社の概念
会社法3条、5条を読むと、会社は、会社法の規定によって設立された、営利を目的とする法人であると定義できます。
そして、会社法によって設立される会社は、
①株式会社
②合名会社
③合資会社
④合同会社――の4種類に分けることができます。
どの種類の会社でも、会社と呼べるための要件は、
①法人性
②営利性
③社団性――です。
1.法人性
法人とは、民法で学習したように自然人でない権利・義務の帰属の主体となり得る地位を有するものです。そして、会社は法人とされます。
権利や義務の帰属主体となる地位を法人格と言いますが、会社に法人格を認めることによって、団体名で権利を有し義務を負うことが認められます。しかし、自然人ではないので、所得できる権利や義務に次の3つの制限があります。
①性質による制限
②法令による制限
③定款所定の目的による制限
まず、①の性質による制限とは、会社は自然人ではないので、当然ながら自然人に特有な生命・身体に関する権利や親族・相続上の権利は取得できないということです。
次に②の法令による制限は、会社に法人格を与えたのは、法令なので、当然必要があれば法令で制限を加えることができるということです。
そして③の定款所定の目的による制限については、少し補足します。
まず、定款(ていかん)とは、会社の組織や活動を定めた会社の根幹となる規則のことです。
具体的には、定款には会社の目的(営業内容)が記載され、会社への出資者は、この定款目的達成のために自己資金を提供しているわけです。そこで、会社は定款所定の目的以外の行為は行えないのです(民法34条)。定款目的以外の行為で出資者が予想しない不利益を被ることを防ぐことが目的です。
2.営利性
営利性とは、一般的に言えばお金儲けのことですが、法的に言うと、会社は営利を目的とする団体であり、対外的な活動で収益の増大を図り、収益を構成員に分配することが必要――ということになります。
つまり、対外的な活動で利益を得ていても、その利益を出資者に分配していなければ営利性はなく、会社とは言えないことがここでのポイントです。
出資者は、社員と言い、株式会社なら株主を指しますが、株主に対する①剰余金配当請求権、②残余財産分配請求権――の全部を与えないという定款の定めは効力を有しない――と会社法105条2項に規定されているのは、営利性の現れと言えます。
3.社団性
会社は、構成員が団体との間の社員関係により団体を通じて間接的に結合する団体(=社団)です。
もっとも、社員が1人となることは会社の解散原因とはならず、社員が1人である一人会社(いちにんがいしゃ)の設立や存続も認められています。
Ⅱ.社員と会社の種類
先ほども述べましたが、社員とは出資者のことです。ここでは従業員=社員でないことに注意が必要です。
社員には、
①会社の債務を完済できないときに、社員が連帯して会社債権者の対して直接弁済の責任を負う直接責任
②社員が会社債権者に直接責任を負わない間接責任――の2つの形態があります。
また、社員の責任が
①一定額に限定される有限責任
②限定されない無限責任――に分けることもあります。
次に、会社法上の会社は、
①株式会社
②持株会社――の2つの類型に分けることができます。
さらに、持株会社には、
a合名会社
b合資会社
c合同会社――の3つの類型があります。
①の株式会社の特徴は、社員である株主は、間接有限責任社員ということです。つまり、株主の責任は、その有する株式の引受価額を限度として(有限責任)、会社債権者に対しては直接弁済の義務を負いません。
また、株式会社では、所有と経営の制度的分離が図られ、株主は原則として業務執行には参加しないものとされています。そこで、すべての株式会社には、株主によって構成される株主総会と、株主総会の決議によって選定される取締役が置かれます。
さらに典型的な株式会社では、取締役によって構成される取締役会が、会社の業務執行に関する意思を決定し、取締役会の決議によって選定される代表取締役が、取締役会によって決定された意思に基づいて現実に業務を執行し、対外的には会社を代表します。
また、一定の会社では、株主総会の決議で選定された監査役が、取締役の職務の執行を監査します。
aの合名会社は、社員の全員が直接無限責任社員からなる会社です。
社員各自が会社債務の全額について、会社債権者に対して直接に弁済の義務を負う直接無限責任社員です。
また、定款に別段の定めがない限り、全社員が業務執行権をもち、業務執行社員各自が会社を代表する権限を有します。
bの合資会社は、直接無限責任社員と直接有限責任社員からなる会社です。
有限責任社員は、その出資の価額の内の履行の済んでいない価額を限度として、会社債権者に対して直接に弁済の義務を負います。合資会社でも、定款に別段の定めがない限り、全社員が業務執行権を持ち、業務執行社員各自が会社を代表する権限を有します。
cの合同会社は、持分会社の類型に属しますが、間接有限責任社員からのみなる会社です。
合同会社における社員の出資については、会社設立時までに出資財産の全額払込みまたは全額給付をしなければならず、社員が直接責任を負うことはありません。
合同会社でも、定款に定めがない限り、全社員が業務執行権を持ち、業務執行社員各自が会社を代表する権限を持ちます。
以上4種類の会社の基本的な違いを下表で確認しておいてください。
Ⅲ.株式会社の設立
会社法の中心は株式会社です。ここでは、株式会社設立の流れと、発起設立と募集設立の違いをはっきりとつかむようにしましょう。
株式会社は次の4つの要件を満たすことで実体が形成され、設立の登記によって法人格を取得し成立します。
①団体の根本規則である定款の作成
②社員の確定
③出資履行による会社財産の形成
④団体の活動の基礎である機関の具備
会社を設立する際に、会社の設立の企画者として定款に署名又は記名押印(電子署名)した者を発起人と言いますが、発起人は、その会社の設立を主宰する者で、設立準備から完了までの責任を負います。発起人の資格に制限はなく、法人や制限行為能力者がなることもできます。また、その員数は1人でも認められます。
実際に行動した人でも、定款に署名捺印していなければ、法律上発起人と見なされません。逆に、実質的に設立に関与していなくても、発起人として定款に記載された人は、発起人ということになります。
設立の方法には、
①発起設立
②募集設立――の2種類があります。
①の発起設立とは、発起人が設立に際して発行する株式の全部を引き受ける設立方法です。
一方、②の募集設立とは、発起人が設立の際に発行する株式の一部だけ引き受け、残りを発起人以外の人が引き受ける設立方法です。この場合、発起人は、設立時発行株式を必ず1株以上引き受けなければなりません。
1.設立の手続き
定款は会社の組織・活動に関する根本規則とお話ししましたが、発起設立・募集設立いずれの場合も設立の最初の手続きは、発起人による定款の作成です。定款は書面に記載するか、電磁的記録として記録することにより作成され、発起人全員が署名または記名押印(電子署名)しなければなりません。また、公証人による認証も必要です。
定款の内容には、
①絶対的(必要的)記載事項
②相対的記載事項
③任意的記載事項――がありますので、それぞれを下表で確認してください。
上表の相対的記載事項中の変態設立事項について補足します。
変態設立事項とは、
①現物出資
②財産引受け
③発起人の報酬その他の特別の利益
④設立費用――の各事項のことです。
変態事項はいずれも会社の財産的基礎が害される危険性が高いので、その効力を生ずるためには一定の内容が定款に記載されていなければなりません。また、発起人は、変態設立事項を調査させるために、原則として裁判所に対し検査役の選任の申立てを行う必要があります。この結果、変態設立事項が不当なときは、裁判所で、募集設立の場合はさらに創立総会で、変更することができます。
①の現物出資とは、金銭以外の財産でする出資をいい、設立時については発起人にのみ認められます。
②の財産引受けとは、発起人が会社のために会社成立を条件として特定の財産を譲り受ける契約のことで、譲渡の目的財産、その価額、譲渡人の氏名・名称を定款で定めなければなりません。
なお、現物出資と財産引受けは、次の条件のもとでは、検査役の調査が不要です。
a目的物の価額の総額が500万円以下の場合
b目的物が市場価格のある有価証券である場合
c目的物について価額が相当であることについて弁護士などの証明を受けた場合
さて、次は、株式発行事項の決定です。設立時発行株式に関する事項のうち、
①発起人が割当てを受ける設立時発行株式の数
②①の設立時発行株式と引換えに払い込む金銭の額
③成立後の株式会社の資本金および資本準備金に関する事項――は、
発起人の全員の同意により定めなければなりません。
株主の引受けと出資の履行について、発起設立の場合は、設立時発行株式は発起人がすべて引き受け、引き受け後遅滞なく、金銭の全額を払込みます。現物出資をする発起人は、金銭以外の財産の全部を給付しなければなりません。発起人は、この出資の履行をすれば、会社成立時に株主となります。
次に、発起人は、出資の履行が完了したら、遅滞なく設立時取締役その他の機関設計と設立時役員などを選任します。選任は、発起人の議決権の過半数で決定します。また、定款で設立時役員などを定めていた場合には、発起人の出資の履行が完了したときに、設立時役員などに選任されたと見なされます。
設立時取締役は、選任されたら遅滞なく出資の履行が完了しているかなどの調査をします。調査の結果、法令・定款に違反していたり、不当な事項があった場合、発起人にその旨を通知しなければなりません。
一方、募集設立の場合は、まず発起人が設立時発行株式の一部を引受けます。そして、残りの株式について、発起人は株主を募集します。設立時募集株式の引受けの申込みをする人は、発起人に対して、一定の事項を記載した書面等を交付し申込みます。発起人は、株式を申込んだ人に割当て、これにより株式申込人は、株式引受人となり、払込みをする義務を負います。
引受人は、発起人が定めた払込期日または払込期間内にそれぞれ全額の払込みをしなければなりません。払込みがなかった場合には迅速な設立を認めるため、失権が認められます。つまり、払込みがあった分だけで会社の設立をしてよいということです。引受人は、出資の履行をすれば、会社成立時に株主となります。
設立時募集株式の払込期日または払込期間が経過したら、発起人は遅滞なく設立時株主によって構成される創立総会を招集しなければなりません。
創立総会では、まず発起人による経過報告が行われ、機関設計に合わせて設立時取締役などが選任されます。そして、設立時取締役による出資の履行が完了しているかなどの調査の結果が創立総会に報告されます。
なお、創立総会により、変態設立事項などの定款内容を不当と判断したときは、定款の変更をすることができます。創立総会では、議決権を行使することができる設立時株主の議決権の過半数の出席で、かつ出席した当該設立時株主の3分の2以上の多数をもって決議されます。
以上の手続き後、設立登記を、本店の所在地において行うことで、会社は法人格を取得します。煩雑な手続がいろいろ出てきましたので、下図でおさらいしましょう。
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2.設立中の会社の法律関係
設立中の会社の法律関係をお話しします。
会社は、設立の登記をして初めて法人格を取得するので、登記前には権利能力を有していません。しかし、設立登記前でも、発起人の行為の効力は成立後の会社に帰属すべきものと言えます。そこで、設立中の会社という概念を用いて、発起人が会社設立のために取得し負担した権利義務は実質的には設立中の会社に帰属し、会社が成立したのちは、当然に会社に帰属することとしています。
では、発起人が行った行為の効果のどこまでが設立中の会社に帰属し、会社の成立によって会社に帰属するのでしょう?
発起人には、会社の設立を直接の目的とする行為や設立のために経済上必要な行為をする権限があることは認められますが、設立後の事業に属する行為をする権限までは認められていません。つまり、会社が成立後すぐ事業を行えるように、使用人と雇用契約をしたり、原材料の仕入れルートを確保したりする開業準備行為をする権限はないとされています。もっとも、財産引受けも開業準備行為に該当しますが、判例は、原始定款に記載され、その他厳重な法定要件をみたした財産引受けは例外的に許されるとしています。
3.設立無効および会社不成立
設立登記によって会社が成立しても、設立の過程に違法な点があれば、本来はその会社の設立は無効なはずです。しかし、それでは、会社を巡る法律関係が混乱し、法的安定性を害することになることから、会社法では設立無効の訴えという制度を設けて、無効の主張や効果を大幅に制限しています。
設立無効の訴えは、会社の成立の日から2年以内に、株主等によってのみ提起することができます。また、無効事由は、定款の絶対的記載事項を欠いている場合や、定款の認証がない場合など、客観的かつ重大な瑕疵に限られます。また、株式会社では、設立に参加した個々の社員の意思無能力・制限行動能力、意思表示の瑕疵・欠缺などの主観的原因は、設立無効原因になりませんが、持分会社では主観的無効原因も認められています。
また、会社の実態形成手続は開始されたのに、設立登記まで至らなかった場合を会社の不成立と言い、誰でもいつでも会社が存在しないことを主張することができます。
4.設立関与者の責任
会社を健全に設立するため、会社法には設立に関しての厳重な罰則規定が定められています。また、発起人や設立時取締役・設立時監査役などの設立の関与者に対しても、次のような重い民事責任も課しています。
現物出資または財産引受けの対象となった財産の価額が、定款に記載された価額より著しく低いときは、発起人および設立時取締役は、株式会社に対して、連帯してその不足額を支払う義務を負います。
もっとも、発起設立では、
a検査役の調査を経た場合
b発起人および設立時取締役がその職務を行うについての注意を怠らなかったことを証明した場合――には、免責されます。
これに対して、募集設立では、a検査役の調査を経た場合のみ免責されます。
なお、現物出資または財産引受けを実際に行った発起人は免責されません。
さらに、発起人・設立時取締役・設立時監査役は、株式会社の設立について任務倦怠があれば、会社に対して連帯して損害賠償責任を負い、任務倦怠について悪意・重過失があれば、第三者に対しても連帯して損害賠償責任を負います。
最後に、設立関与者の責任を表にまとめ今回の講義は終わります。
資金調達
株式会社は、営業行為をするためには多額の資金を必要とします。資金調達の方法は、後日返還の必要性のない自己資本と、後日返還の必要性がある他人資本――の2つに大きく分かれます。さらに、自己資本は募集株式の発行等と利潤の社内留保、他人資本は社債の発行と借入金――に分かれます。
これらの手続きには、共通点が多いので、比較しながら勉強することが大切です。
では、①募集株式の発行等、②募集株式の発行等に関する瑕疵、③新株予約権、③社債の発行――と順に詳しく勉強しましょう。
Ⅰ.募集株式の発行等
募集株式の発行とは、株式引受人を募集することによって、新たに株式を発行することです。新たな株式の発行と自己株式の処分は、どちらも株式引受人を募集し、引受人から金銭等の払込みを受けて、引受人が株式を取得するという点で共通しているため、会社法では、両方の手続きを一体化して規定しています。
また、授権資本制度と言って、定款によって、将来会社が発行する予定の株式数を決め、その授権の範囲内で会社が適宜株式を発行することのみが認められていますが、これにより、市場の状況などに応じた機動的な株式の発行が可能となりました。
株式は、株式会社の社員の地位を表すものですから、新株の発行をすることにより、当然、会社の社員が増加します。また、新株を発行することによりそれに見合う対価が会社に入るため、会社資金も増加します。つまり。新株の発行により、人的・物的に会社が拡大します。
募集株式発行の方法には、次の3つがあります。
①公募
②株主割当
③第三者割当
①の公募とは、広く一般から株主を募集する方法で、会社で募集するa直接募集と、証券会社に委託して募集するb間接募集――があります。
②の株主割当とは、発行予定の株式を既存の持株数に比例的に割り当てて発行することで、株主に募集株式を優先的に引き受ける引受権を与える方法で行われます。つまり、発行済株式を1000株と500株持っている2人の株主がいた場合には、新株を、その持株割合に応じて2対1の割合で割り当てます。
③の第三者割当とは、募集株式を既存の株主の持株数に比例的に割当てるのではなく、特定の第三者、例えば、会社の取締役や従業員、取引先、連携先――などに割当てることです。ここで、気を付けなければならないのは、株主に割当てるのでも、持株数に比例的に割当てるのでなければ、第三者割当になることです。
次に、募集株式を発行した場合の影響をお話しします。
まず、既存株主が被る不利益は、主に2つ、①持株比率の低下と②保有株式価格の下落――です。
新たな募集株式の発行により、既存の株主以外に新株が発行されると、当然、既存株主は持株比率が相対的に低下するので、会社に対する支配力が弱まります。
このような持株比率の低下を防ぐには、既存株主に募集株式の引受権を与えて、株主割当の方法によることになります。
また、既存株主以外の者に、市価を下回る価額で募集株式を発行すれば、すでに存在する株式の価格は下落するので、既存株主は経済的損失を被ります。このような保有株式の下落を防ぐには、やはり、株主割当の方法によることです。
つまり、募集株式の発行によって既存株主が被る不利益を回避するには、株主割当の方法で募集株式の発行を行うしか方法はありません。しかし、株主割当の方法に限定してしまうと、会社が有利に資金調達を行う利益を損なうおそれが出てきます。その理由は、募集先を株主に限定させるより、広く公募した方が、割当引受価格が高くなる可能性があったり、企業結合の場合では、提携先などの第三者割当の必要性が高かったりするからです。
そこで、募集株式の発行は、既存株主の保護と会社の資金調達の便宜という対立する利益を調整しながら、行うことになります。そして、その調整は、会社の規模や公開性によって方法が異なり、会社経営の手腕によるとも言えます。
1.募集事項の決定
では、実際に、会社の種類別株式の募集事項の決定はどのようになっているのでしょう?
非公開会社の場合には、会社の資金調達の便宜よりも、既存株主の保護が重要です。株式には譲渡制限が付けられているので、既存株主は株式を譲渡することで不利益を回避することが不可能だからです。
そこで、非公開会社の場合、募集事項の決定で原則となる手続きは、株主総会における特別決議です。通常の発行の募集事項は、①募集株式数、②募集株式の払込金額、③現物出資の場合は、内容・価額、④払込・給付期日、⑤株式を発行する場合は、増加する資本金・資本準備金――です。
なお、例外として、株主総会決議で募集事項の決定を取締役・取締役会に委任する場合があります。
次に、公開会社の場合は、既存株主の保護よりも、会社の資金調達の便宜の方が優先されると言っていいでしょう。公開会社には、大規模会社が多く、大規模会社では有利な資金調達の要請が大きいし、既存株主には株式譲渡という不利益の回避の方法があるからです。
公開会社の募集事項の決定についての手続きは、原則として取締役会決議で足ります。ここが、非公開会社との大きな違いで、これが授権資本制度です。授権資本制度とは、会社は、定款所定の発行可能株式総数の範囲内では、株主総会の決議によることなく、取締役会の決議だけで募集株式を発行できるとした制度です。本来、株主総会の決定事項である、会社の重要事項の募集株式の発行を取締役会の決定だけで行えるとした理由は、株主総会の決定では迅速な意思決定が行えず、必要なときに必要な資金調達ができなくなるからです。会社設立時に発行する株式の総数は、発行可能株式総数の4分の1以上でなければならないとされています。残りの分の発行については、取締役会が随時決定できるというわけです。
なお、通常の発行の場合の、取締役会で決議される募集事項は、①募集株式数、②募集株式の払込金額(ただし、市場価格ある株式の引受人を募集する場合は、金額を決定しなくてもよい)、③現物出資の場合は、内容・価額、④払込・給付期日、⑤株式を発行する場合は、増加する資本金・資本準備金――と、非公開会社の株主総会による決議と、ほぼ同様です。ただし、④については、払込給付期日の2週間前までに、株主に対して募集事項を通知または公告しなければならないことになっています。
また、公開会社の場合にも、有利発行という方法があります。
有利発行とは、株主以外の第三者に特に有利な金額で募集株式を発行することです。株主以外の者に市価を下回る価額で募集株式を発行すれば、既存株主は株価の下落による経済的損失を被りますが、会社の資金調達の必要性などから、このような募集株式の発行をする場合があります。
しかし、株主には、有利発行による募集株式の発行を認めるかどうかを慎重に判断する機会を与えなければなりません。そこで、公開会社・非公開会社を問わず、取締役は株主総会でその必要性を説明したうえ、株主総会の特別決議を経なければならないとされています。
2.申込みから出資まで
申込みの際には、まず、
①会社は申込者に対して、a会社の商号、b募集事項、c払込みの取扱いの場所、d法務省令で定める事項
――を通知しなければなりません。
②通知を受けた申込者は、a氏名・名称・住所、b引受ける募集株式の数――を記載した書面を会社に交付しなければなりません。なお、株主割当の場合に、期日までに株主が申込まない場合は、当然権利を失います。
次に、
③会社は、割当てる募集株式の数を申込者に通知します。割当数に応じて、申込者は引受人となります。
そして、
④引受人は、払込期日またはその期間内に、会社が定めた払込みの取扱い場所に全額を払込まなければなりません。現物出資の場合は、現物全部を会社に給付しなければなりません。出資を履行しなかった引受人は、当然に失権します。また、引受人は、会社に対する債権を有していても、出資をする債務との相殺を行うことはできません。
そして、
⑤出資の履行をした日に株主となります。
Ⅱ.募集株式の発行等に関する瑕疵
募集株式の発行等の手続き等に法令または定款違反がある場合、その効力はどうなるのでしょう?
この場合、募集株式の発行等の効力が発生する前後に応じて、事前の手段として①募集株式の発行等の差止め、事後の手段として②新株発行・自己株式処分無効の訴え・不存在確認の訴え――という救済の手段があります。
①の募集株式の発行等の差止めとは、会社が、法令・定款違反または著しく不公正な方法で募集株式を発行したり自己株式を処分した場合に、株主が会社に対して発行等の差止めを請求することです。
②の新株発行・自己株式処分無効の訴え・不存在確認の訴えは、募集株式の発行等が効力を生じた後にその効力を否定しようとする場合の手段です。募集株式の発行等の効力が発生した後には、法律関係安定等の観点から、無効の訴え・不存在確認の訴えという方法でしか、その効力を否定することはできません。
新株発行等の無効の訴えは、提訴権者は、新旧両株主・取締役・監査役等に限られ、提訴期間は、公開会社で効力発生日から6カ月間、非公開会社で効力発生日から1年間で、被告は会社です。判決の効力は、対世効はありますが、遡及効はありません。
新株発行等の不存在確認の訴えについては、株主でない者には新株発行が存在しないことの確認を求める利益はないとしているので、訴えを提起できるのは、株主のみです。また、出訴期間の制限はありません。
また、取締役や執行役と通じて、不公正な払込金額で株式を引受けた者は、会社に対して公正な価額との差に相当する金銭を支払わなければなりません。現物出資した者の現物出資財産の価額が決定価額に著しく不足する場合にも、原則として、会社に対して当該不足額を支払わなければなりません。
Ⅲ.新株予約権
新株予約権とは、新株予約権者が会社が新株発行をしたときに、会社から株式の交付を受ける権利のことです。その発行は、有償の場合と無償の場合があります。新株予約権の行使で、株式が交付されるので、新株予約権の発行は、潜在的な募集株式の発行と言え、募集株式の発行と類似した規制が設けられています。
新株予約権の発行の目的は、①敵対的買収に対する防衛策、②取締役等に対するインセンティブ報酬――のほか、新株予約権付社債として③社債とともに発行する場合、④将来行う第三者割当による新株発行の払込金額を確定させる場合――のように資金調達を果たすことも考えられます。
新株予約権の発行手続きは、募集株式の発行の場合と同様です。ただし、申込者は、払込みを待たず、割当日に新株予約権者になります。ただし、払込期日までに全額の払込みをしない場合は、募集新株予約権の行使が行えず、その新株予約権は消滅します。
また、新株予約権者は、当該新株予約権を行使した日に、当該新株予約権の目的である株主となります。新株予約権は、原則として自由に譲渡することができますが、募集する新株予約権が新株予約権付社債に付されたものである場合、新株予約権のみの譲渡はできません。
Ⅳ.社債の発行
社債とは、会社法の規定により会社が行う割当てにより発生する当該会社を債務者とする金銭債権であって、会社法676条各号に掲げる募集事項についての定めに従い償還されるもののことです。
社債と株式の大きな違いは、社債はあくまで負債であり、社債権者はあくまで債権者にすぎませんが、株式は会社の構成員、つまり株主としての地位を有するということです。具体的には、利益・利息の配分、残余財産の分配、払込金の払戻し、経営参与権――などが異なります。
社債の発行は、取締役会非設置会社においては取締役の決定により、取締役会設置会社では取締役役会決議により行います。社債権者を保護するため、原則として社債管理者を設置し、弁済の受領等の社債の管理を委託しなければなりません。社債管理者は、銀行、信託会社などで、社債権者の利益を確保するために、一切の裁判上または裁判外の行為をすることができます。さらに、裁判所の許可あるときには、社債発行会社の業務・財産の状況を調査することもできます。
一方、社債管理者の義務は、社債権者に対する、①公平誠実義務と②善管注意義務――です。社債管理者が義務に違反して債権者に損害を与えたときは、社債権者に対して損害賠償責任を負います。
また、社債権者は社債の期限が到来したときに償還を受け、それまでの間は発行時に定められた内容の利息の支払いを受ける権利を有します。
会社が社債を発行するには、発行のつど募集事項を決定しなければなりません。社債の発行は、借入れという業務執行行為の一つですから、取締役・取締役会で決定します。
申込みをしようとする者に対して会社は、会社の商号・募集事項等を通知し、募集社債の引受けの申込みをしようとする者は、氏名・名称・住所等を記載した書面を会社に交付して申込みます。
会社は申込人の中から任意の者に対して社債を割当てることができます。
社債にも株式における株主名簿に相当する社債原簿が存在します。会社は、社債を発行した日以降、遅滞なく社債原簿を作成しなければなりません。社債原簿は本店に置かれ、営業時間内であれば、社債債権者はいつでも閲覧・謄写できます。なお、社債原簿への記載には、資格授与的効力、免責的効力、確定的効力が、株主名簿同様に認められます。
また、社債にも株式における株券のような社債券があり、社債券が発行される場合と発行されない場合があります。社債券が発行されない場合の社債の譲渡は、当事者間の意思表示のみで行えます。会社や第三者への対抗要件は、社債原簿の名義書換です。
一方、社債券が発行されている場合の社債の譲渡には、当事者間の意思表示と社債券の交付が必要です。会社に対する対抗要件は、社債原簿の名義書換、第三者に対する対抗要件は、社債券の継続占有です。
社債権者には、株主における株主総会に相当する社債権者集会があります。社債権者集会は、会社法に規定のある事項や社債権者の利害に関する事項についてのみ決議することができます。社債権者集会の決議は、裁判所の認可を受なければ効力が生じません。裁判所の認可を受けた社債権者集会の決議は、社債債権者に対して効力を有し、社債管理者または代表者債権者が執行します。