第六章 期間の計算
(期間の計算の通則)
第百三十八条 期間の計算方法は、法令若しくは裁判上の命令に特別の定めがある場合又は法律行為に別段の定めがある場合を除き、この章の規定に従う。
(期間の起算)
第百三十九条 時間によって期間を定めたときは、その期間は、即時から起算する。
第百四十条 日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。
(期間の満了)
第百四十一条 前条の場合には、期間は、その末日の終了をもって満了する。
第百四十二条 期間の末日が日曜日、国民の祝日に関する法律 (昭和二十三年法律第百七十八号)に規定する休日その他の休日に当たるときは、その日に取引をしない慣習がある場合に限り、期間は、その翌日に満了する。
(暦による期間の計算)
第百四十三条 週、月又は年によって期間を定めたときは、その期間は、暦に従って計算する。
2 週、月又は年の初めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の週、月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。ただし、月又は年によって期間を定めた場合において、最後の月に応当する日がないときは、その月の末日に満了する。
第七章 時効
私たちが社会生活を送っていると、時々耳にする時効という言葉。時効制度は、法律が定める一定の期間、ある事実状態が続いた場合に、その事実を保護する制度です。
例えば、他人にお金を貸した場合、そのまま放っておくと、10年間過ぎると返してもらう権利は消滅してしまいます(消滅時効)。また、この逆に一定時間過ぎると権利を得ることができる時効もあります(取得時効)。
今回は、①時効の概念、②時効の中断、③時効の種類――と順に解説していきます。
Ⅰ.時効の概念
時効とは、一定の財産権について、占有とか権利不行使という事実状態が一定期間継続した場合に、この事実に即して新たな権利関係を形成する制度のことです。
時効が完成するには、一定の時の経過が必要です。その起算点は、取得時効においては事実状態の開始する占有開始時、消滅時効においては権利不行使の開始する権利行使可能時とされています。
ただし、一定の期間が過ぎたからといって、法的に時効が完成するわけではありません。時効が適用されるためには、一定期間継続した事実状態のほかに、時効による利益を受ける人が、その利益を受けるという意思表示を行う必要があります。この意思表示を時効の援用と言い、権利変動を確定させるための停止条件でもあります。
また、時効の援用の趣旨は、時効の利益を受けることを潔としない当事者の意思を考慮することですから、時効の利益を受ける人が、時効が完成してもその利益を放棄することもできるのです。
次に時効の援用を行える人(援用権者)を表にまとめますが、内容として、後に各論で説明する内容が多く含まれるので、一通り民法の学習が済んでから、読み直しすることをお勧めします。
Ⅱ.時効の中断
冒頭で例に挙げた他人にお金を貸した場合、10年が過ぎ、借主が時効の援用を行うと権利は消滅してしまうのですが、貸主がこれを阻止することは可能なのでしょうか?
時効の完成を阻止するための手段に、貸主が貸金の返還を求める裁判を起こすことがあります。これにより、それまでの時の経過は無かったことになり、権利の消滅を避けることができます。この場合の裁判を起こす行為は、時効の中断事由と呼ばれますが、中断とは一時的な中断ではなくて、その続きが再開されることはない中断です。サッカーで言えば、雷雨が来たので時計を止めて一時的な中断を行い、雨雲が去れば試合再開する中断ではなく、止みそうもない豪雨に、その試合はなかったことにして翌日、初めから再試合をすることです。
時効中断の事由には、次の4つがあります。
①請求
②差押え・仮差押え・仮処分の請求
③承認
④破産手続き参加など
Ⅲ.時効の種類
ある事実状態が一定期間継続して、権利を所得する場合が取得時効、権利不行使の状態が一定期間継続して権利を失う場合が消滅時効とお話ししましたが、例えば、他人の土地を時効取得するのはどんな場合でしょうか?
1)所有権の取得時効
民法の規定を読むと、所有の意思を持って平穏・公然に他人の物を占有した者は、その占有開始時に善意・無過失の場合には10年、悪意または過失のある場合には20年の経過によって、時効が完成するものとしています。
取得時効の要件として、取得時効の適用には必ず所有の意思が必要です。ですから、土地について所有者と利用契約を結び、その上に家を建てて20年以上住んでいても、その土地を時効取得することはできません。なぜなら、その土地の占有は利用契約によるものであって、所有の意思ではないからです。この所有の意思は、占有者の心の中で思っているだけでは足りず、占有の事情(この場合は利用契約)などから客観的に判断されます。
また、民法で言っている善意とは、例では土地の所有者が自分でないことを知らない場合を言い、悪意とは知っている場合を言います。このことは、占有開始時点で判断されるので、占有している途中で悪意となっても10年の経過で時効が完成します。
占有の事実とは完全に支配していること指し、例えば、固定資産税を納めているなど周囲から見るとその人の所有物に見えるような場合のことで、総合的に客観的に判断されます。
2)所有権以外の取得時効
所有権以外の財産権にも取得時効が適用され、時効期間は所有権と同じく、善意・悪意でそれぞれ10年、20年と定められています。
取得時効の対象となり得る権利は、地上権、永小作権、地役権などの用益物権や質権等占有を要素とする権利で、財産権でも抵当権のように占有を要素としない権利や、解除権のように権利行使の継続が予定されていない権利には、取得時効の適用はありません。
債権も一般的には取得時効の適用外ですが、判例では、賃借権は占有を要素としている点で、取得時効の適用があるとしています。
3)消滅時効
取得時効とは反対に、一定の時の経過とともに権利を失う場合を消滅時効と言います。権利不行使の状態が続けば、消滅時効の適用が考えられますが、所有権については沿革的な理由もあって、消滅時効の適用はないとされています。
したがって、所有権に付随した所有権に基づく物権的請求権も消滅時効にはかかりません。また、被担保債権に従属する質権・抵当権も被担保債権と別個独立に消滅時効にかかることはないとされています。
次に、消滅時効までの期間を表にしてまとめましたので参考にしてください。
第一節 総則
(時効の効力)
第百四十四条 時効の効力は、その起算日にさかのぼる。
(時効の援用)
第百四十五条 時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。
(時効の利益の放棄)
第百四十六条 時効の利益は、あらかじめ放棄することができない。
(時効の中断事由)
第百四十七条 時効は、次に掲げる事由によって中断する。
一 請求
二 差押え、仮差押え又は仮処分
三 承認
(時効の中断の効力が及ぶ者の範囲)
第百四十八条 前条の規定による時効の中断は、その中断の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。
(裁判上の請求)
第百四十九条 裁判上の請求は、訴えの却下又は取下げの場合には、時効の中断の効力を生じない。
(支払督促)
第百五十条 支払督促は、債権者が民事訴訟法第三百九十二条 に規定する期間内に仮執行の宣言の申立てをしないことによりその効力を失うときは、時効の中断の効力を生じない。
(和解及び調停の申立て)
第百五十一条 和解の申立て又は民事調停法 (昭和二十六年法律第二百二十二号)若しくは家事事件手続法 (平成二十三年法律第五十二号)による調停の申立ては、相手方が出頭せず、又は和解若しくは調停が調わないときは、一箇月以内に訴えを提起しなければ、時効の中断の効力を生じない。
(破産手続参加等)
第百五十二条 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加は、債権者がその届出を取り下げ、又はその届出が却下されたときは、時効の中断の効力を生じない。
(催告)
第百五十三条 催告は、六箇月以内に、裁判上の請求、支払督促の申立て、和解の申立て、民事調停法 若しくは家事事件手続法 による調停の申立て、破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加、差押え、仮差押え又は仮処分をしなければ、時効の中断の効力を生じない。
(差押え、仮差押え及び仮処分)
第百五十四条 差押え、仮差押え及び仮処分は、権利者の請求により又は法律の規定に従わないことにより取り消されたときは、時効の中断の効力を生じない。
第百五十五条 差押え、仮差押え及び仮処分は、時効の利益を受ける者に対してしないときは、その者に通知をした後でなければ、時効の中断の効力を生じない。
(承認)
第百五十六条 時効の中断の効力を生ずべき承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力又は権限があることを要しない。
(中断後の時効の進行)
第百五十七条 中断した時効は、その中断の事由が終了した時から、新たにその進行を始める。
2 裁判上の請求によって中断した時効は、裁判が確定した時から、新たにその進行を始める。
(未成年者又は成年被後見人と時効の停止)
第百五十八条 時効の期間の満了前六箇月以内の間に未成年者又は成年被後見人に法定代理人がないときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その未成年者又は成年被後見人に対して、時効は、完成しない。
2 未成年者又は成年被後見人がその財産を管理する父、母又は後見人に対して権利を有するときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は後任の法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その権利について、時効は、完成しない。
(夫婦間の権利の時効の停止)
第百五十九条 夫婦の一方が他の一方に対して有する権利については、婚姻の解消の時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
(相続財産に関する時効の停止)
第百六十条 相続財産に関しては、相続人が確定した時、管理人が選任された時又は破産手続開始の決定があった時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
(天災等による時効の停止)
第百六十一条 時効の期間の満了の時に当たり、天災その他避けることのできない事変のため時効を中断することができないときは、その障害が消滅した時から二週間を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
第二節 取得時効
(所有権の取得時効)
第百六十二条 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
(所有権以外の財産権の取得時効)
第百六十三条 所有権以外の財産権を、自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と行使する者は、前条の区別に従い二十年又は十年を経過した後、その権利を取得する。
(占有の中止等による取得時効の中断)
第百六十四条 第百六十二条の規定による時効は、占有者が任意にその占有を中止し、又は他人によってその占有を奪われたときは、中断する。
第百六十五条 前条の規定は、第百六十三条の場合について準用する。
第三節 消滅時効
(消滅時効の進行等)
第百六十六条 消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。
2 前項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を中断するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。
(債権等の消滅時効)
第百六十七条 債権は、十年間行使しないときは、消滅する。
2 債権又は所有権以外の財産権は、二十年間行使しないときは、消滅する。
(定期金債権の消滅時効)
第百六十八条 定期金の債権は、第一回の弁済期から二十年間行使しないときは、消滅する。最後の弁済期から十年間行使しないときも、同様とする。
2 定期金の債権者は、時効の中断の証拠を得るため、いつでも、その債務者に対して承認書の交付を求めることができる。
(定期給付債権の短期消滅時効)
第百六十九条 年又はこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権は、五年間行使しないときは、消滅する。
(三年の短期消滅時効)
第百七十条 次に掲げる債権は、三年間行使しないときは、消滅する。ただし、第二号に掲げる債権の時効は、同号の工事が終了した時から起算する。
一 医師、助産師又は薬剤師の診療、助産又は調剤に関する債権
二 工事の設計、施工又は監理を業とする者の工事に関する債権
第百七十一条 弁護士又は弁護士法人は事件が終了した時から、公証人はその職務を執行した時から三年を経過したときは、その職務に関して受け取った書類について、その責任を免れる。
(二年の短期消滅時効)
第百七十二条 弁護士、弁護士法人又は公証人の職務に関する債権は、その原因となった事件が終了した時から二年間行使しないときは、消滅する。
2 前項の規定にかかわらず、同項の事件中の各事項が終了した時から五年を経過したときは、同項の期間内であっても、その事項に関する債権は、消滅する。
第百七十三条 次に掲げる債権は、二年間行使しないときは、消滅する。
一 生産者、卸売商人又は小売商人が売却した産物又は商品の代価に係る債権
二 自己の技能を用い、注文を受けて、物を製作し又は自己の仕事場で他人のために仕事をすることを業とする者の仕事に関する債権
三 学芸又は技能の教育を行う者が生徒の教育、衣食又は寄宿の代価について有する債権
(一年の短期消滅時効)
第百七十四条 次に掲げる債権は、一年間行使しないときは、消滅する。
一 月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権
二 自己の労力の提供又は演芸を業とする者の報酬又はその供給した物の代価に係る債権
三 運送賃に係る債権
四 旅館、料理店、飲食店、貸席又は娯楽場の宿泊料、飲食料、席料、入場料、消費物の代価又は立替金に係る債権
五 動産の損料に係る債権
(判決で確定した権利の消滅時効)
第百七十四条の二 確定判決によって確定した権利については、十年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、十年とする。裁判上の和解、調停その他確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利についても、同様とする。
2 前項の規定は、確定の時に弁済期の到来していない債権については、適用しない。