民法 521条-554条/1044条 契約

 

第二章 契約

 

契約とは、通常二人以上の当事者が合意することによって、権利義務関係を作り出すことで、私たちの社会生活の中の法律行為の中でも最も重要なものです。
今回からは、この契約についていろいろお話ししていくわけですが、初回は、①契約の分類や②契約の成立について解説します。

Ⅰ.契約により権利義務関係が発生する
契約は、例えば、「売ろう」という意思表示と「買おう」という意思表示が合致した時に成立します。そして、契約は、最も重要で一般的な債権の発生原因なので、民法では、他の債権の発生原因である事務管理や不当利得、不法行為に先立って、多くを割いて規定しています。

1)契約自由の原則
民法の目的が社会生活のルール作りで、個人の意思を尊重して意思表示実現のための手助けという私的自治の原則については、以前お話ししましたが、契約の行為においては、このことを尊重し、当事者間の合意で自由な権利義務関係を作れるという契約自由の原則をとっています。
しかし、現代社会でこの原則をそのまま認めると、社会的強者が社会的弱者に対して、不公平な契約を強制することになりかねません。そこで、今日では、借地借家法や労働基準法などの特別法によって、契約自由の原則に制限を設けています。

2)契約の分類
契約は効果や態様などの観点からさまざまに分類できます。
まず、最初に効果に着目して分類すると、
①双務契約
②片務契約――に分類できます。
双務契約とは、契約の効果として当事者双方が契約の本体的な、つまり対価的な意味がある債務を負う契約で、売買契約、賃貸借契約がその例です。
一方、片務契約とは、贈与や無償寄託のように、当事者一方のみが本体的債務を負担する契約です。後に解説する同時履行の抗弁権、危険負担の有無で重要になる分類です。
次に、契約により負担する本体的債務が相互に対価的に有償であるか無償であるかによる分類が、
①有償契約
②無償契約――です。
「双務契約であれば有償契約である」と言えますが、その逆に「有償契約であれば双務契約である」とは言えません。例えば、利息付消費貸借契約は有償・片務契約です。有償契約の場合は、売買の規定が準用されます。
さらに、契約成立の要件に着目した分類に
①諾成契約
②要物契約――があります。
諾成契約とは、意思表示の合致のみで成立する契約、要物契約は、意思表示のほかに物の引渡しその他の給付が必要です。売買、賃貸借、贈与は諾成契約で、消費貸借、使用貸借、寄託は要物契約です。
ほかに、民法の規定のされ方による分類として
①典型契約
②非典型契約――に分けることもできます。
典型契約は有名契約とも言い、民法に規定する贈与、売買、交換、消費貸借、使用貸借、賃貸借、雇用(雇傭)、請負、委任、寄託、組合、終身定期金、和解――の13種の契約のことです。
無名契約とも言われる非典型契約は、13種以外の契約のことで、リース契約、クレジット契約のように実務では重要な位置を占めている契約もあります。

Ⅱ.契約の成立
契約は、例えば「売ろう」と「買おう」の意思表示の合致で成立することは先ほどお話ししたとおりですが、正式には申込みの意思表示と承諾の意思表示の合致があって成立することになります。
例で言えば、「売ろう」が申込みの意思表示、「買おう」が承諾の意思表示になります。

1)申込み
申込みは、相手方とある特定の内容の契約を締結しようという意思を持って行う一方当事者の申し出と言えます。
申込みに似ていて非なるものに申込みの誘因があります。
例えば、「急募! アルバイト店員求む」の貼り紙があったときに、これを申込みとみなした誰かが「私が働きます」と申出ると、これが承諾の意思表示になり、試験もなしに契約は成立してしまうのでしょうか? この場合の貼り紙は申込みの誘因、つまり、相手方に申込みさせようとする意思の通知と考えなければなりません。
申込みは、その意思表示が相手に到達したときに効力を発生します。申込みの発信後、到達前に申込者が死亡したような場合、その申込到達時の効力には影響がないのが意思表示をする場合の原則ですが、契約では、相手方が到達前に申込者死亡の事実を知っていた時には申込みの効力は発生しません。申込みの効力を否定しても、相手方に不測の損害を与えることはないからです。
申込みも意思表示である以上、いったん効力が発生すれば、撤回できないのが原則ですが、申込みに承諾期間が定められていない場合は、永遠に申込みに効力を認めるのは申込者にとって不利なので、承諾の意思表示が到達するのに必要な期間経過後は撤回できると定められています。

2)承諾
承諾は、契約を成立させることを目的として特定の申込みに対して行われる意思表示です。契約は、承諾の意思表示を発信したときに成立すると民法では規定しています。この規定を見ますと、承諾の意思表示に限っては例外的に発信主義をとり、発信の時に効力を生じるように見えます。
しかし、承諾期間を設けた申込みに対しては、その承諾期間内に承諾が到達しない場合、申込みはその効力を失うという規定もあります。
この規定には矛盾を感じるので、学説では前提の一部を修正して合理的な説明を試みていますが、まだ、はっきりとした多数意見は出てきていません。

 

第一節 総則
第一款 契約の成立
(承諾の期間の定めのある申込み)
第五百二十一条  承諾の期間を定めてした契約の申込みは、撤回することができない。
2  申込者が前項の申込みに対して同項の期間内に承諾の通知を受けなかったときは、その申込みは、その効力を失う。
(承諾の通知の延着)
第五百二十二条  前条第一項の申込みに対する承諾の通知が同項の期間の経過後に到達した場合であっても、通常の場合にはその期間内に到達すべき時に発送したものであることを知ることができるときは、申込者は、遅滞なく、相手方に対してその延着の通知を発しなければならない。ただし、その到達前に遅延の通知を発したときは、この限りでない。
2  申込者が前項本文の延着の通知を怠ったときは、承諾の通知は、前条第一項の期間内に到達したものとみなす。
(遅延した承諾の効力)
第五百二十三条  申込者は、遅延した承諾を新たな申込みとみなすことができる。
(承諾の期間の定めのない申込み)
第五百二十四条  承諾の期間を定めないで隔地者に対してした申込みは、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない。
(申込者の死亡又は行為能力の喪失)
第五百二十五条  第九十七条第二項の規定は、申込者が反対の意思を表示した場合又はその相手方が申込者の死亡若しくは行為能力の喪失の事実を知っていた場合には、適用しない。
(隔地者間の契約の成立時期)
第五百二十六条  隔地者間の契約は、承諾の通知を発した時に成立する。
2  申込者の意思表示又は取引上の慣習により承諾の通知を必要としない場合には、契約は、承諾の意思表示と認めるべき事実があった時に成立する。
(申込みの撤回の通知の延着)
第五百二十七条  申込みの撤回の通知が承諾の通知を発した後に到達した場合であっても、通常の場合にはその前に到達すべき時に発送したものであることを知ることができるときは、承諾者は、遅滞なく、申込者に対してその延着の通知を発しなければならない。
2  承諾者が前項の延着の通知を怠ったときは、契約は、成立しなかったものとみなす。
(申込みに変更を加えた承諾)
第五百二十八条  承諾者が、申込みに条件を付し、その他変更を加えてこれを承諾したときは、その申込みの拒絶とともに新たな申込みをしたものとみなす。
(懸賞広告)
第五百二十九条  ある行為をした者に一定の報酬を与える旨を広告した者(以下この款において「懸賞広告者」という。)は、その行為をした者に対してその報酬を与える義務を負う。
(懸賞広告の撤回)
第五百三十条  前条の場合において、懸賞広告者は、その指定した行為を完了する者がない間は、前の広告と同一の方法によってその広告を撤回することができる。ただし、その広告中に撤回をしない旨を表示したときは、この限りでない。
2  前項本文に規定する方法によって撤回をすることができない場合には、他の方法によって撤回をすることができる。この場合において、その撤回は、これを知った者に対してのみ、その効力を有する。
3  懸賞広告者がその指定した行為をする期間を定めたときは、その撤回をする権利を放棄したものと推定する。
(懸賞広告の報酬を受ける権利)
第五百三十一条  広告に定めた行為をした者が数人あるときは、最初にその行為をした者のみが報酬を受ける権利を有する。
2  数人が同時に前項の行為をした場合には、各自が等しい割合で報酬を受ける権利を有する。ただし、報酬がその性質上分割に適しないとき、又は広告において一人のみがこれを受けるものとしたときは、抽選でこれを受ける者を定める。
3  前二項の規定は、広告中にこれと異なる意思を表示したときは、適用しない。
(優等懸賞広告)
第五百三十二条  広告に定めた行為をした者が数人ある場合において、その優等者のみに報酬を与えるべきときは、その広告は、応募の期間を定めたときに限り、その効力を有する。
2  前項の場合において、応募者中いずれの者の行為が優等であるかは、広告中に定めた者が判定し、広告中に判定をする者を定めなかったときは懸賞広告者が判定する。
3  応募者は、前項の判定に対して異議を述べることができない。
4  前条第二項の規定は、数人の行為が同等と判定された場合について準用する。
第二款 契約の効力

 

前回、契約は申込みの意思表示と承諾の意思表示で成立することをお話ししましたが、今回は、①成立した契約の効力と、いったん成立した②契約を解除できるのか?――についてお話ししたいと思います。

Ⅰ.契約の効力
契約で発生した権利と義務の関係には特別の性質があります。ここでは、Xさん所有の甲建物をYさんに売却する売買契約を例に解説していきます。

1)同時履行の抗弁権
売主であるXさんが買主であるYさんに対して、甲建物の引渡しをしないで売買代金の請求をしてきたらどうなるでしょう? 当然、Yさんは、甲建物の引渡しを受けるまで、代金支払いを拒むことができます。
売買のような双務契約では、双方の債務は互いに対価的関係にあるので、双方の負担する債務は引換えに履行することが公平です。上記の場合にYさんが自分の債務を拒絶できる権利を同時履行の抗弁権と言います。
一方が同時履行の抗弁権を有している場合は、その履行拒絶は違法ではなく、相手方は自己の債務の弁済を提供するまでは、債務不履行による契約の解除や損害賠償請求はできません。

2)原始的不能
では、Xさん・Yさん間の売買契約の目的物である甲建物が、実は契約成立以前に土砂災害で倒壊していたとしたら契約はどうなるのでしょう? この場合意思表示の目的物が存在していないわけですから、Xさんの引渡債務は、もともと実行することができません。そこで、対価関係にある代金請求権も発生しないとすれば、公平になります。
この場合、Xさんの引渡債務は原始的不能であると言い、原始的不能を目的とする契約は無効(契約自体が効力を生じない)とされます。

3)危険負担
もし、土砂災害による甲建物の倒壊が契約の成立後で、履行期前だったらどうなるのでしょう? この場合もXさんの引渡債務は不能により消滅しますが、代金債務も同時に消滅するかについては微妙な問題をはらんでいます。
つまり、契約成立後の債務消滅リスクを負うのはXさんかYさんかという危険負担の問題が発生するのです。
危険負担には
①債権者主義
②債務者主義――の2つの考え方があります。
債権者主義とは、買主であるYさんが危険負担をし、代金支払義務は消滅しないという考え方です。
一方、債務者主義とは、Yさんの代金支払義務も同時に消滅し、売主であるXさんが危険負担をするという考え方です。
まったく逆の結果ですが、我が国の民法は原則では債務者主義としつつ、特定物に関する物権の設定、移転を双務契約の目的とした場合には、例外的に債権者主義が適用されることになっています。つまり、上記例では債権者主義がとられ、Yさんの代金支払義務は消滅しません。
実際の場面で危険負担が問題となるのは、多くの場合で上記例のように民法でいう例外に該当します。皮肉なことに、民法上は例外とされる債権者主義が、実際には原則的形態になっています。
もっとも、実際の取引きにおいては「移転登記の際に危険が移転する」というような特約を付けて、問題の発生を未然に防いでいるようです。

4)第三者のためにする契約
契約内容に第三者に利益を与える特約が含まれる場合があります。上記の場合に、Yさんが代金を第三者のZさんに支払うといった特約を付けるような契約です。

Ⅱ.契約の解除
契約には、契約の解除という当事者の一方が、一方的な意思表示で契約の効力を契約時に遡って消滅させる制度があり、契約の解除には、
①合意解除
②法定解除
③約定解除――の3種類があります。
合意解除とは、当事者の合意により解除することができる場合、法定解除とは法律規定によって解除の権利が生じる場合、約定解除とは契約により解除の権利生じる場合です。

1)債務不履行による解除
法定解除権が発生する各種の契約に共通の解除原因に債務不履行解除があります。
債務不履行には、①履行遅滞、②履行不能、③不完全履行――の3形態があることは以前お話しましたが、解除権発生の要件は、それぞれの形態ごとに定められています。
履行遅滞、不完全履行による債務不履行の解除の要件は、
①相当の期間を定めて催告する
②その期間内に履行がない――ことです。
相手方に再度履行の機会を与えるのが妥当と考えられているからです。
履行不能による債務不履行解除の場合、履行の機会はもはやまったくないわけですから、履行不能と同時に解除権が発生します。

2)解除の効果
解除の効果は、契約関係の遡及的消滅です。解除の効果が、契約の遡及的無効をもたらすとの考え方を直接効果説と言い、判例や実務で採用されています。
解除は、契約関係が遡及的に消滅してしまうので、解除前に債務の全部または一部の履行があった場合には、元と同じ状態にもどす必要が出てきます。これを原状回復義務と言います。
しかし、代金として200万円の支払いを受けた人が、すでに150万円使ってしまった場合はどうなるのでしょう? 契約の解除があった場合は、200万円に利息を付けて返金する必要があります。不当利得の場合、残った額だけ(この場合50万円)返還すればよかったのと、ずいぶん違いますね!

3)解除と第三者
Xさんから甲建物を買受けたYさんが、さらにこれをZさんに転売した場合を考えてみましょう。YさんがXさんに代金を支払っていない場合は、XさんはYさんに対して債務不履行により契約解除を行うことができますが、そうした場合甲建物の所有権はXさん、Zさんのどちらになるでしょうか?
判例によれば、YZ間の売買が解除の前であるなら、登記具備を要件にZさんに所有権が認められます。YZ間の売買が解除の後の場合は、XさんとZさんは先に登記をした人が所有権を有することになります。

 

(同時履行の抗弁)
第五百三十三条  双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。
(債権者の危険負担)
第五百三十四条  特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。
2  不特定物に関する契約については、第四百一条第二項の規定によりその物が確定した時から、前項の規定を適用する。
(停止条件付双務契約における危険負担)
第五百三十五条  前条の規定は、停止条件付双務契約の目的物が条件の成否が未定である間に滅失した場合には、適用しない。
2  停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰することができない事由によって損傷したときは、その損傷は、債権者の負担に帰する。
3  停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰すべき事由によって損傷した場合において、条件が成就したときは、債権者は、その選択に従い、契約の履行の請求又は解除権の行使をすることができる。この場合においては、損害賠償の請求を妨げない。
(債務者の危険負担等)
第五百三十六条  前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。
2  債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
(第三者のためにする契約)
第五百三十七条  契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。
2  前項の場合において、第三者の権利は、その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。
(第三者の権利の確定)
第五百三十八条  前条の規定により第三者の権利が発生した後は、当事者は、これを変更し、又は消滅させることができない。
(債務者の抗弁)
第五百三十九条  債務者は、第五百三十七条第一項の契約に基づく抗弁をもって、その契約の利益を受ける第三者に対抗することができる。
第三款 契約の解除
(解除権の行使)
第五百四十条  契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは、その解除は、相手方に対する意思表示によってする。
2  前項の意思表示は、撤回することができない。
(履行遅滞等による解除権)
第五百四十一条  当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。
(定期行為の履行遅滞による解除権)
第五百四十二条  契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したときは、相手方は、前条の催告をすることなく、直ちにその契約の解除をすることができる。
(履行不能による解除権)
第五百四十三条  履行の全部又は一部が不能となったときは、債権者は、契約の解除をすることができる。ただし、その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
(解除権の不可分性)
第五百四十四条  当事者の一方が数人ある場合には、契約の解除は、その全員から又はその全員に対してのみ、することができる。
2  前項の場合において、解除権が当事者のうちの一人について消滅したときは、他の者についても消滅する。
(解除の効果)
第五百四十五条  当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
2  前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
3  解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。
(契約の解除と同時履行)
第五百四十六条  第五百三十三条の規定は、前条の場合について準用する。
(催告による解除権の消滅)
第五百四十七条  解除権の行使について期間の定めがないときは、相手方は、解除権を有する者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に解除をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、その期間内に解除の通知を受けないときは、解除権は、消滅する。
(解除権者の行為等による解除権の消滅)
第五百四十八条  解除権を有する者が自己の行為若しくは過失によって契約の目的物を著しく損傷し、若しくは返還することができなくなったとき、又は加工若しくは改造によってこれを他の種類の物に変えたときは、解除権は、消滅する。
2  契約の目的物が解除権を有する者の行為又は過失によらないで滅失し、又は損傷したときは、解除権は、消滅しない。
第二節 贈与

 

前回までは、契約についての一般的・全体的なお話をしましたが、今回から、それぞれの契約について見ていくことにします。今回は、贈与契約の内容と問題点をお話しします。

贈与契約とは、自己の財産権を無償で相手方に与える契約のことです。民法上、贈与も契約なので、当事者間の意思表示の合致が必要です。「●●を贈与するよ」と相手に言っただけでは贈与契約は成立せず、相手方が承諾して初めて贈与契約が成り立ちます。
贈与契約の当事者は、贈与者(贈り主)と受贈者です。このうち、贈与者の中心的債務は、自己の財産権を受贈者に与えることで、受贈者には中心的債務は発生しません。

1)贈与契約の性質
以上のようなことから、贈与契約は贈与者側のみが債務を負う片務契約であるとともに、受贈者側が無償で利益を得る無償契約とも言えます。また、当事者間の意思表示の合致のみで成立するので、諾成契約とも言えます。

2)贈与契約の効力
贈与者は、目的となった財産権を与える債務を負担しますが、この内容としては目的となった財産を引渡すことだけでなく、目的物が不動産であれば受贈者に移転登記し、第三者対抗権を具備させるところまで協力して、受贈者が完全にその目的物を支配できるまでにする義務があることになっています。
贈与の目的財産権に瑕疵があった場合の贈与者の責任は、贈与契約が無償契約であることから、売買契約などに比べて軽減されています。瑕疵または欠缺(欠けていること)を知っていながら受贈者に告げなかった場合にのみ、責任が課されます。

3)書面によらない贈与
一般的には無償の契約は、その成立を明確にするため、諸外国では要式契約とされることが多いのですが、我が国の民法では、贈与契約の成立自体は意思表示の合致のみで成立できるとし、ただし、書面によらない贈与は、履行の終了前の段階では当事者が撤回することができるとしています。
この規定によって、我が国の贈与も結局のところ、要式契約とはそれほど違っていないのが現状です。

4)特殊の贈与
Xさんが、Yさんに「私が死んだらこの腕時計をあげる」という約束をした場合は、Xさんの死亡によって贈与の効力が生じるので死因贈与と呼ばれています。
一方、XさんがYさんとの約束でなく、一方的に遺言書の中で「私が死んだらYさんに腕時計をあげる」としておくことを遺贈と言います。
死因贈与はあくまで契約であるのに対し、遺贈は単独行為である点で契約ではありません。でも、死亡による無償の財産嫌の移転という点では、共通しているので死因贈与は遺贈のルールに従うものとされています。
次に贈与の種類をまとめておきますので、参考にしてください。

 

 

(贈与)
第五百四十九条  贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。
(書面によらない贈与の撤回)
第五百五十条  書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。
(贈与者の担保責任)
第五百五十一条  贈与者は、贈与の目的である物又は権利の瑕疵又は不存在について、その責任を負わない。ただし、贈与者がその瑕疵又は不存在を知りながら受贈者に告げなかったときは、この限りでない。
2  負担付贈与については、贈与者は、その負担の限度において、売主と同じく担保の責任を負う。
(定期贈与)
第五百五十二条  定期の給付を目的とする贈与は、贈与者又は受贈者の死亡によって、その効力を失う。
(負担付贈与)
第五百五十三条  負担付贈与については、この節に定めるもののほか、その性質に反しない限り、双務契約に関する規定を準用する。
(死因贈与)
第五百五十四条  贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与については、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する。

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