第四編 親族
これから、9回にわたって民法の親族編を学んでいきます。親族編では、いわゆる家族を民法的に捉えて解説しますが、婚姻、親子、親権、後見、扶養――といった身内のことの話なので、理解しやすい内容と言えます。
親族編1回目は、親族という概念をつかみましょう。
私たちが普通に生活していく上で、基盤となっているのは家庭、家族、そして親戚です。民法では、こうした家族や親戚関係についてのルールを定めて、万が一、紛争が起こった場合の解決の基準を示しています。
1)民法における親族とは
親族の定義は、
①6親等内の血族
②配偶者
③3親等内の姻族――です。
②の配偶者は比較的使い慣れた名称で、夫や妻のことと分かりますが、血族、姻族、親等は日常ではあまり使わない名称ですね。
まず、血族とは、父、祖父、兄弟などのように親子関係を辿るとつながる関係です。
血族には、
①出生による親子関係でつながっている自然血族
②養親子関係を含める法定血族――の2種類があります。
次に姻族とは、
①自分の配偶者の血族
②自分の血族の配偶者――のことです。
そして、親等とは自分とどれだけ離れた関係にあるかを表す単位です。1つの親子関係を1単位として捉えます。
例えば、父や母、子は1つの親子関係なので1親等、兄弟の場合は共通の親から2つの出生で生まれた関係なので2親等――という具合になります。
一方、夫と妻の両親どうしや、兄弟の妻どうしなどの関係は、日常的には交流があっても親族には含まれません。
2)親族関係の効果
親族であることによる効果はいろいろあります。夫婦や親子などの親族の中でも特別近い関係は後述することとし、ここでは、一般的な親族関係の効果についてお話しします。
親族一般の権利は主に3つ、
①親族の婚姻・養子縁組の取消請求権
②親権等の喪失・取消請求権
③後見人等の選任・解任請求権――です。
そのほか、親族の中でも一定の範囲の人に与えられる権利があります。
例えば、子・直系尊属・兄弟姉妹(けいていしまい)・配偶者の相続権です。一番重要であり、紛争の元となったりする権利ですね。
第一章 総則
(親族の範囲)
第七百二十五条 次に掲げる者は、親族とする。
一 六親等内の血族
二 配偶者
三 三親等内の姻族
(親等の計算)
第七百二十六条 親等は、親族間の世代数を数えて、これを定める。
2 傍系親族の親等を定めるには、その一人又はその配偶者から同一の祖先にさかのぼり、その祖先から他の一人に下るまでの世代数による。
(縁組による親族関係の発生)
第七百二十七条 養子と養親及びその血族との間においては、養子縁組の日から、血族間におけるのと同一の親族関係を生ずる。
(離婚等による姻族関係の終了)
第七百二十八条 姻族関係は、離婚によって終了する。
2 夫婦の一方が死亡した場合において、生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときも、前項と同様とする。
(離縁による親族関係の終了)
第七百二十九条 養子及びその配偶者並びに養子の直系卑属及びその配偶者と養親及びその血族との親族関係は、離縁によって終了する。
(親族間の扶け合い)
第七百三十条 直系血族及び同居の親族は、互いに扶け合わなければならない。
第二章 婚姻
親族関係の中でも、婚姻によって成立する夫婦は親子と並んで人々の生活の中心です。婚姻は両性の合意によって成立すると憲法24条に規定されていますが、細かい規定は民法で定められています。
今回は、①婚姻の要件、②婚姻の効力と夫婦財産制――についてお話しします。
Ⅰ.婚姻の要件
婚姻の要件は大きく分けて
①積極的要件
②消極的要件――に分けることができます。
そして、積極的要件は、さらに
❶実質的要件
❷形式的要件――に分けることができます。
❶の実質的要件とは、婚姻の意思の合致です。婚姻の意思には、夫婦という実際の形を作ろうという実質的な意思と、戸籍の届け出をしようという形式的な意思があり、両方の意思が合致しなければなりません。
ですから、例えば、日本国籍を得たい外国人女性が、日本人男性と偽装結婚したような場合には、実質的意思が欠如しているので婚姻は無効となります。
❷の形式的要件は戸籍法上の届出、つまり婚姻届を出すことです。届出を行わないと、いくら夫婦として実際に一緒に生活を営んでいても、法律上の婚姻関係は不成立で、両者の関係は内縁関係にとどまります。
また、②の婚姻の消極的要件とは、婚姻成立を拒む事由がないこと、つまり婚姻の障害となるものがないことです。婚姻の障害となるものは、次の5つです。
①婚姻年齢に達していない
②重婚である
③女子の再婚禁止期間である
④近親婚である
⑤未成年者の婚姻に対する父母の同意がない
逆に、結婚成立の条件は、次のとおりです。
①男は18歳、女は16歳に達していること
②二重結婚でないこと
③女は夫と死別、離婚、結婚の取消し後6カ月過ぎること
④直系血族及び3親等以内の傍系血族でないこと
⑤直系姻族の間でないこと
⑥養親と養子の関係でないこと
⑦未成年者は親の同意があること
⑧婚姻届を提出していること
①~⑥がみたされていない場合は取消しです。
もし、①~⑥において婚姻届が受理されてしまった場合は一応有効となるので、取消すには、法定の取消権者から裁判所に取消しの請求を行わなければなりません。詐欺や強迫による婚姻についても同様です。
この婚姻の取消しは効果が遡及しないため、取消した場合は離婚に類似します。ただし、離婚には財産分与が伴いますが、取消しには財産分与はなく、婚姻により財産を得た場合は、返還しなければなりません。
これらに対して、⑦の父母の同意のない未成年者の婚姻が誤って受理されてしまった場合は、その婚姻は有効と見なされ、取消しはできません。
また、婚姻が実質的要件を欠き無効となる場合でも、仮装婚姻のようにその欠如した実質的要件が、婚姻の実質的意思である場合には、その無効は初めから何の効力も発生していなかったとして当然無効となりますが、一方が勝手に婚姻届を提出した場合のように、形式的意思の合致である場合には、他方当事者の追認により遡って有効とすることも可能です。
Ⅱ.婚姻の効力と夫婦財産制
婚姻が成立して夫婦となった当事者間の法的な効果を、民法では①身分上の効力と②財産上の効力――に分けて規定しています。
1)身分上の効力
婚姻の身分上の効力は5つあります。
①氏の変動
②同居・協力・扶養義務の発生
③貞操義務の発生
④夫婦間の契約取消権
⑤未成年者の婚姻に適用される成年擬制
①について、婚姻しようとする男女は、合意によりどちらか一方の氏を夫婦の氏として称さなければなりません。これを夫婦同氏の原則と言います。最近では、夫婦別姓や第三の氏を名乗ることなどが議論されていますが、現行法上ではまた認められていません。
②について、配偶者間には夫婦としての共同生活が要請されることから、同居と協力・扶助の義務が生じます。もし、これらを守らない場合、同居については強制できないとされていますが、協力・扶助は経済的要因による間接的な強制が可能とされています。
③の夫婦相互の貞操義務は明文規定されているわけではありませんが、不貞が離婚の原因と認められていることから、貞操義務も認めるとするのが通説です。
④の夫婦間の契約取消権は、夫婦間の契約の履行について法による強制を避ける趣旨によるものです。ですから、婚姻関係が実質的に破たんしている場合には、取消しできないとされています。
⑤について、未成年の人も婚姻することにより、成年と見なされ、制限能力者として付与されていた保護を失います。
2)経済上の効力
婚姻の経済上の効力について、夫婦が婚姻届出以前に別段の契約を結んでいなければ、民法により、
①婚姻の費用の分担
②日常家事債務の連帯責任
③夫婦別産制
④帰属不明財産の共有推定――が定められています。
②の日常家事債務とは、日常家事から生じた生活の必需品の購入、近所との交際、子の教育、医療――など夫婦の共同生活に必要な一切の代金支払いなどの債務です。
また、夫婦財産契約を婚姻届の前に結べば民法の規定に従わないことも可能ですが、登記をしないと第三者への対抗力は発生しません。
3)内縁の効力
内縁とは、婚姻意思をもって共同生活を営みながら、届出を欠くために法律上は夫婦と認められない事実上の夫婦関係です。
内縁は婚姻に準ずる関係として認められ、婚姻に関する規定が可能な限り準用されます。準用される規定は、
①同居・協力・扶助義務
②婚姻費用分担義務
③日常家事債務の連帯責任
④帰属不明財産の共有推定
⑤財産分与――です。
準用されない規定は、
①婚姻関係の発生
②夫婦同氏の原則
③成年擬制
④子の嫡出性
⑤相続権
⑥夫婦間の契約取消権――です。
第一節 婚姻の成立
第一款 婚姻の要件
(婚姻適齢)
第七百三十一条 男は、十八歳に、女は、十六歳にならなければ、婚姻をすることができない。
(重婚の禁止)
第七百三十二条 配偶者のある者は、重ねて婚姻をすることができない。
(再婚禁止期間)
第七百三十三条 女は、前婚の解消又は取消しの日から起算して百日を経過した後でなければ、再婚をすることができない。
2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一 女が前婚の解消又は取消しの時に懐胎していなかった場合
二 女が前婚の解消又は取消しの後に出産した場合
(近親者間の婚姻の禁止)
第七百三十四条 直系血族又は三親等内の傍系血族の間では、婚姻をすることができない。ただし、養子と養方の傍系血族との間では、この限りでない。
2 第八百十七条の九の規定により親族関係が終了した後も、前項と同様とする。
(直系姻族間の婚姻の禁止)
第七百三十五条 直系姻族の間では、婚姻をすることができない。第七百二十八条又は第八百十七条の九の規定により姻族関係が終了した後も、同様とする。
(養親子等の間の婚姻の禁止)
第七百三十六条 養子若しくはその配偶者又は養子の直系卑属若しくはその配偶者と養親又はその直系尊属との間では、第七百二十九条の規定により親族関係が終了した後でも、婚姻をすることができない。
(未成年者の婚姻についての父母の同意)
第七百三十七条 未成年の子が婚姻をするには、父母の同意を得なければならない。
2 父母の一方が同意しないときは、他の一方の同意だけで足りる。父母の一方が知れないとき、死亡したとき、又はその意思を表示することができないときも、同様とする。
(成年被後見人の婚姻)
第七百三十八条 成年被後見人が婚姻をするには、その成年後見人の同意を要しない。
(婚姻の届出)
第七百三十九条 婚姻は、戸籍法 (昭和二十二年法律第二百二十四号)の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる。
2 前項の届出は、当事者双方及び成年の証人二人以上が署名した書面で、又はこれらの者から口頭で、しなければならない。
(婚姻の届出の受理)
第七百四十条 婚姻の届出は、その婚姻が第七百三十一条から第七百三十七条まで及び前条第二項の規定その他の法令の規定に違反しないことを認めた後でなければ、受理することができない。
(外国に在る日本人間の婚姻の方式)
第七百四十一条 外国に在る日本人間で婚姻をしようとするときは、その国に駐在する日本の大使、公使又は領事にその届出をすることができる。この場合においては、前二条の規定を準用する。
第二款 婚姻の無効及び取消し
いったん有効に成立した婚姻が終了する場合には、前回お話しした婚姻の取消しのほかで、婚姻成立後に生じた事由で終了する場合に婚姻の解消があります。婚姻の解消原因は、①夫婦の一方の死亡と②離婚――です。
今回は、①離婚の効果と②離婚の種類についてお話しします。
Ⅰ.離婚の効果
離婚は、成立の仕方によって
①協議離婚
②調停離婚
③審判離婚
④裁判離婚――に分かれます。
①協議離婚とは、双方が離婚に合意し、離婚届を提出することによって成立する離婚です。
②調停離婚とは、話合いで離婚の合意ができない場合に、家庭裁判所に申立てを行い、調停の場で話合いが付けば調停証書が作成され、成立する離婚です。
③審判離婚とは、調停成立の実質があるにもかかわらず、調停が成立しない場合に、家庭裁判所で調停に代わる審判で離婚を決定する離婚です。
④裁判離婚とは、調停が不成立に終わった場合に、家庭裁判所で離婚判決を確定して成立する離婚です。ただし、離婚するためには離婚原因の立証が必要です。
このほか、訴訟中の和解離婚、認諾離婚もあります。
離婚の効果はどれも同様で、最大の効果はもちろん婚姻関係の解消ですが、それに伴って身分上、財産上にいくつかの効果が派生します。
1)離婚の身分上の効果
離婚の身分上の効果は、
①婚姻関係の解消のほかに、
②姻族関係の終了
③氏の変動
④子の親権者・監護者の指定
⑤祭祀財産の承継者の指定――があります。
②の夫婦の一方と他方の血族との姻族関係は、離婚によって当然終了します。同じ夫婦関係の終了の場合でも、一方が死亡した場合は、姻族関係の終了の意思表示が行われて初めて姻族関係が終了するのと異なり、必然的に終了します。
また、婚姻によって氏を改めた夫または妻は、離婚によって婚姻前の氏に復します。これを復氏の原則と言います。ただし、離婚の日から3カ月以内に届出をすることで、婚姻中の氏を称することもできます。夫婦一方の死亡による婚姻解消の場合は、生存配偶者が復氏の届出をすることによって初めて婚姻前の姓に戻り、届出をしないと、婚氏のままになりますので、離婚と死別では原則と例外がまったく逆になります。
未成年の子がいる場合、離婚の際には親権者をどちらか一方の定めることが必要です。離婚協議で話合いが付かないときは、家庭裁判所に申出て決定してもらいます。また、夫婦の一方の死亡による婚姻の解消の場合には、生存配偶者が親権者となるのは当然です。
婚姻によって氏を改めた人が祭祀に関する権利を承継した後に離婚する場合、承継者を指定する必要があります。これは、今までの慣習や国民感情に沿った規定と理解されています。
2)離婚の財産上の効果
離婚の財産上の効果として、当事者間の財産関係の清算の性質を持つ財産分与が最も重要となってきます。財産分与とは、夫婦が作りだした財産を離婚に際して分けることで、まずは、当事者間の協議によって決められますが、これが調わないときは、家庭裁判所に協議に代わる処分の請求を行います。また、財産分与には分かれて生活が困難になる者への扶養料も含まれるとされています。
次に離婚に伴う精神的な打撃に対する償金である慰謝料についても問題が生じますが、通常、離婚原因を作った側が支払い、協議離婚の場合、どうしても別れたいと思う側が多額の慰謝料を支払うこともあります。
財産分与と慰謝料請求権は、法的に問題となることが多いのですが、判例では、財産分与請求権と慰謝料請求権とは性質が異なるとしながらも、慰謝料に相当する額も含めて柔軟に財産分与の額を決定できるとしています。
このほか、養育費として、養育をする側は、他方に養育費の請求ができます。
Ⅱ.離婚の種類
離婚はその成立の仕方で、協議離婚や調停離婚、審判離婚、裁判離婚に分かれることは前述しましたが、それぞれを詳しく見ていくことにします。
1)協議離婚
協議離婚の要件は
①実質的要件として離婚の意思の合致
②形式的要件として離婚の届出――です。
離婚意思も婚姻意思と同様に、届出をしようという形式的意思と、真に夫婦としての生活協同体を解消しようという実質的意思から成立します。
仮装離婚のように実質的意思が欠けた場合に離婚が成立するかが問題となりますが、判例では、生活保護受給継続の方便として協議離婚の届出をした場合は、離婚を有効としています。
婚姻の場合に仮装婚姻は無効とした判例が、仮装離婚は有効としたのですから、その整合性が気になりますが、離婚の場合の実質的意思の欠如は、法律上の夫婦関係から内縁関係への移行なので、離婚の一形態として認めてよいとの見解によるものと理解されています。
また、夫婦間に未成年の子がいるときは、一方を親権者とする必要がありますが、どちらにするか指定をしない限り離婚はできないので、協議が調わない場合は、家庭裁判所に協議に代わる審判を求めることになります。
2)裁判離婚
夫婦間で離婚の協議が調わず、それでもなお離婚を望む当事者は、裁判所に離婚の手続きを申立てることになります。この場合、当事者はいきなり離婚訴訟の提起を行うことはできず、まず、家庭裁判所に離婚調停の申立てを行います。
このことを調停前置主義といいますが、その理由は、離婚に際し、まず第三者である調停委員の仲介により紛争を解決する方法を試みるべきとの配慮です。調停で離婚が成立すれば、調停証書に離婚判決と同等の効力が認められます。
もし、調停の話合いも不調となったときは、職権による家庭裁判所での離婚審判に付されない限り、次の段階は家庭裁判所での離婚訴訟提起です。
離婚訴訟で離婚判決が下されるためには、
①不貞行為
②悪意の遺棄
③3年以上の生死不明
④回復の見込めない強度の精神病
⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由――などの理由が必要です。
⑤のその他婚姻を継続し難い重大な事由とは、姑との不仲、長期の別居、性格の不一致、性行為の拒絶――などが該当します。
以前は、自己の側に責任のある有責配偶者からの離婚請求は認められなかったのですが、最近では、責任の所在を問わず、婚姻関係の破たんという事実があれば、離婚を認めるという破たん主義への意向が見受けられます。