第三章 親子
私たちの生活で夫婦関係と並んで重要な関係が親子関係です。法律上の親子関係には①自然血族としての実親子関係と、②法定血族関係の養親子関係があります。そして実親子関係は、さらに父母が法律上の夫婦である嫡出親子関係と、法律上では夫婦でない場合の非嫡出親子関係に区別されます。
今回は、①嫡出子とその認否、②認知と準正、③子の氏――についてお話しします。
Ⅰ.嫡出子とその認否
1)嫡出子と嫡出性の推定
嫡出子とは、法律上の婚姻関係にある男女を父母として生まれた子のことです。父母が婚姻関係にあるか否かは、懐胎のときが基準で、その時に父母が婚姻していれば、たとえ子の出生の際に離婚していても、父母の両方と嫡出親子関係が生じます。
しかし、実際には懐胎の時期や子の父親を厳密に立証することには困難を伴うことも少なくありません。そこで、民法は、婚姻成立の日から200日後、または婚姻解消もしくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したと推定し、さらに妻が婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定するものとしています。
つまり、この2段階の推定により、婚姻成立の200日以降、婚姻の解消または取消しの日から300日以内に生まれた子は、母の夫の子であると推定されることになります。
ただし、この推定は過去の経験的な通常の夫婦に基づいた推定なので、当然、当てはまらない場合も存在します。例えば、夫婦が2年以上事実上の離婚状態の場合などで、このような状況で出生した子は推定の及ばない子と呼ばれます。
なお、離婚後300日以内の再婚相手との間の子の妊娠が明らかな場合は、再婚相手の子として出生届が受理されることも可能です。
2)嫡出否認の訴え
前述の嫡出性の推定は非常に強い効力を持ちます。妻の産んだ子が自分の子ではないと主張したい夫は、とても厳格な要件が必要な、嫡出否認の訴えを家庭裁判所に提起して親子関係を争うことになります。
夫が、嫡出否認の訴えの提起権を失えば、その子の実の父親がほかに存在しても、子は夫の嫡出子としての地位が法律上確定します。
一方、嫡出子の推定を受けなければ、親子関係不存在確認訴訟で、いつでも争うことが可能です。
3)推定を受けない嫡出子
推定を受けない嫡出子とは、婚姻成立後200日以内に生まれた子を指します。この場合は嫡出の推定を受けられませんが、婚姻に先だって内縁関係が存在することが多いので、非嫡出子となってしまうのは現状に一致しません。そこで、判例や戸籍事務の場面では、このような場合も嫡出子として扱っています。
Ⅱ.認知と準正
非嫡出子とは、法律上の婚姻関係にない男女を父母として生まれた子です。非嫡出子は、相続の場面で、嫡出子に比べて相続分が2分の1になるなどの不利益な扱いが行われる場面があります。
1)認知
婚姻関係にない男女間の子は、母との関係は当然に嫡出子としての親子関係が成立しますが、父とは嫡出子としての親子関係が生じるためには、認知という手続きが必要です。
認知とは、非嫡出子について父との間に意思表示または裁判で子の出生まで遡って親子関係を発生させる制度です。
認知には2つの種類があり、
①父の意思表示でなされる認知が任意認知
②裁判によってなされる認知が強制認知――です。
認知任意では、父が未成年者や成年後見人でも、親権者や後見人の同意がなくても、父の意思表示は身分上の法律行為として認められ、認知できます。子の承諾は原始的には不要ですが、子が成年の場合は子の意思を尊重して子の承諾も必要です。また、子が胎児であるときは、母の名誉を尊重して母の承諾が必要です。
強制認知は、訴訟という手段で強制的に父子関係を確定する制度です。父が死亡した後でも3年以内なら、検察官を被告として訴訟を提起することが可能です。これを死後認知と言いますが、これらの認知訴訟も調停前置主義の適用を受けますので、まずは家庭裁判所での話合いが行われます。
2)父子関係の証明
認知訴訟での最大の争点は、父子関係の証明です。戦前では、この証明として母親に他の男性との性交渉のなかったことまで証明する要求をした不貞の抗弁が認められていましたが、原告側に負担がかかりすぎるとの考えから、戦後はさまざまな事実を総合的に考慮して判断することになっています。特に現在では、遺伝子レベルでのDNA鑑定が取り入れられ、証明が確実になりました。
3)準正
準正とは、非嫡出子について、父の認知や母との婚姻を要件として、嫡出子の地位を生じさせる制度です。準正による嫡出子を準正嫡出子と呼び、生来嫡出子と区別することもあります。
準正による嫡出子は、父の認知と父母の婚姻との前後関係により
①婚姻準正
②認知準正――に分かれます。
嫡出子の身分取得は、認知後に婚姻がなされる婚姻準正の場合は婚姻時です。婚姻後に認知がなされる認知準正の場合も、認知により効果が遡り、婚姻時が身分取得のときとなります。
Ⅲ.子の氏
人の姓名は、社会生活においては、個人を特定する手段や、呼称として機能していますが、法律上ではどんな効果があるのでしょう?
1)氏の取得と変動
親子同性の原則が適用されることから、嫡出子は父または母の氏を称し、非嫡出子は母の氏を称します。
また、養子縁組を行った場合は、養子は養親の氏を称しますが、婚姻によってすでに氏が変更された人が養子になった場合は、養親の氏を名乗る必要はありません。
両親の離婚により、父または母が氏を元の氏に戻し、子が父または母と氏を異にすることになった場合、子は、父母が婚姻中に限り届出によって父母の元の氏を称することができます。
2)氏と戸籍
出生から死亡に至るまでの人の重要な身分関係の変動は戸籍に記載されます。戸籍制度は夫婦と親子で構成される家族単位で作成され、通常、その家族は同じ氏を称する人のみが入ることになります。これを同一戸籍同一氏の原則と言います。
また、出生した子の名は命名により定まります。命名は子のために行う親権の一つですが、以前、親が子に悪魔という命名しようと届出を出した際に、命名権の濫用として、戸籍事務管掌者が届出受理を拒否した事件がありました。判例では、戸籍事務管掌者の届出拒否を認めました。
戸籍法は正当な事由があれば、家庭裁判所の許可で名の変更ができると規定していますが、名は氏に比べて社会的影響が少ないと言えるので、ここでいう正当な事由は氏の変更の事由に比べ、緩い内容になっています。
第一節 実子
(嫡出の推定)
第七百七十二条 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2 婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
(父を定めることを目的とする訴え)
第七百七十三条 第七百三十三条第一項の規定に違反して再婚をした女が出産した場合において、前条の規定によりその子の父を定めることができないときは、裁判所が、これを定める。
(嫡出の否認)
第七百七十四条 第七百七十二条の場合において、夫は、子が嫡出であることを否認することができる。
(嫡出否認の訴え)
第七百七十五条 前条の規定による否認権は、子又は親権を行う母に対する嫡出否認の訴えによって行う。親権を行う母がないときは、家庭裁判所は、特別代理人を選任しなければならない。
(嫡出の承認)
第七百七十六条 夫は、子の出生後において、その嫡出であることを承認したときは、その否認権を失う。
(嫡出否認の訴えの出訴期間)
第七百七十七条 嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から一年以内に提起しなければならない。
第七百七十八条 夫が成年被後見人であるときは、前条の期間は、後見開始の審判の取消しがあった後夫が子の出生を知った時から起算する。
(認知)
第七百七十九条 嫡出でない子は、その父又は母がこれを認知することができる。
(認知能力)
第七百八十条 認知をするには、父又は母が未成年者又は成年被後見人であるときであっても、その法定代理人の同意を要しない。
(認知の方式)
第七百八十一条 認知は、戸籍法 の定めるところにより届け出ることによってする。
2 認知は、遺言によっても、することができる。
(成年の子の認知)
第七百八十二条 成年の子は、その承諾がなければ、これを認知することができない。
(胎児又は死亡した子の認知)
第七百八十三条 父は、胎内に在る子でも、認知することができる。この場合においては、母の承諾を得なければならない。
2 父又は母は、死亡した子でも、その直系卑属があるときに限り、認知することができる。この場合において、その直系卑属が成年者であるときは、その承諾を得なければならない。
(認知の効力)
第七百八十四条 認知は、出生の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者が既に取得した権利を害することはできない。
(認知の取消しの禁止)
第七百八十五条 認知をした父又は母は、その認知を取り消すことができない。
(認知に対する反対の事実の主張)
第七百八十六条 子その他の利害関係人は、認知に対して反対の事実を主張することができる。
(認知の訴え)
第七百八十七条 子、その直系卑属又はこれらの者の法定代理人は、認知の訴えを提起することができる。ただし、父又は母の死亡の日から三年を経過したときは、この限りでない。
(認知後の子の監護に関する事項の定め等)
第七百八十八条 第七百六十六条の規定は、父が認知する場合について準用する。
(準正)
第七百八十九条 父が認知した子は、その父母の婚姻によって嫡出子の身分を取得する。
2 婚姻中父母が認知した子は、その認知の時から、嫡出子の身分を取得する。
3 前二項の規定は、子が既に死亡していた場合について準用する。
(子の氏)
第七百九十条 嫡出である子は、父母の氏を称する。ただし、子の出生前に父母が離婚したときは、離婚の際における父母の氏を称する。
2 嫡出でない子は、母の氏を称する。
(子の氏の変更)
第七百九十一条 子が父又は母と氏を異にする場合には、子は、家庭裁判所の許可を得て、戸籍法 の定めるところにより届け出ることによって、その父又は母の氏を称することができる。
2 父又は母が氏を改めたことにより子が父母と氏を異にする場合には、子は、父母の婚姻中に限り、前項の許可を得ないで、戸籍法 の定めるところにより届け出ることによって、その父母の氏を称することができる。
3 子が十五歳未満であるときは、その法定代理人が、これに代わって、前二項の行為をすることができる。
4 前三項の規定により氏を改めた未成年の子は、成年に達した時から一年以内に戸籍法 の定めるところにより届け出ることによって、従前の氏に復することができる。
第二節 養子
親族についてお話ししたときに、養子について少し触れたと思いますが、今回は、その養子制度を詳しく見ていきます。養子制度は、縁組後も実父母やその他の実方との親戚関係を維持できる普通養子縁組と、実方との関係が終了する特別養子縁組があります。
今回は、まず①普通養子縁組について、次に②特別養子縁組についてお話しします。
Ⅰ.普通養子縁組
普通養子縁組を行うためにはいくつかの要件を満たす必要があります。
普通養子縁組の要件は、大きく
①実質的要件
②形式的要件――に分けることができます。
実質的要件とは、縁組の意思の合致と縁組の障害の不存在――です。縁組意思とは、戸籍の届出をするという届出意思と、社会通念上真に親子と認められるような関係を設定しようとする意思が、当事者双方にあることが必要です。
また、縁組障害とは、縁組を拒む事由のことで、養親となる人が未成年であったり、養子となる人が尊属・年長者などの場合がその例です。当然ですが縁組障害がある縁組の届出は受理されません。もし誤って受理された場合は、その縁組も一応有効に成立し、取消しができる縁組ということになります。
1)代諾縁組
身分法上の行為は代理を行うことは認められていませんので、縁組の意思表示も本来は意思表示ある本人が行うべきものであるはずです。でも、これでは、小さな子を普通養子とすることができなくなってしまうため、例外を規定しています。
例外の場合とは、養子となる者が15歳未満であるときのことで、この場合、法定代理人が代わって縁組の承諾をすることが認められています。
ここで、普通養子縁組ができるための条件をまとめると、次のようになります。
①縁組意思があること⇒養子が15歳未満のときは親権者・後見人が代わりに承諾しなければなりません。
②養親は満20歳以上であること⇒養子がおじ・おばなどの目上の者や年長者でないことです。
③養子が満20歳にならないときは家庭裁判所で審判をしてもらうこと
④夫婦が未成年者を養子にするときは共同で行うこと
⑤養親または養子に配偶者がいる場合はその同意があること
⑥養親が後見している者を養子にするには家庭裁判所の許可
⑦市町村長・区長に養子縁組の届出を提出すること
2)普通養子縁組の効果
養子は縁組の日から、養親の嫡出子である身分を取得し、原則として養親の氏を称します。しかし、普通養子は実方の親戚関係を縁組後も続けられます。
また、縁組によって、養子は養親と養親の血族との間においても縁組の日から親族関係で結ばれますが、養子の血族と養親の血族間には親族関係は発生しません。
3)普通養子縁組の解消
いったん完全に成立した養子縁組が解消する場合には、
①離縁
②特別養子縁組を行う場合――があります。
縁組当事者一方の死亡は、縁組の解消には直接つながりません。ただし、死亡後に行う死亡離縁によって縁組の解消を行うことは可能です。
離縁には、婚姻と同じように、
①当事者間の協議で行う協議離縁
②協議が調わず、裁判によって離縁が行われる裁判離縁――とがあります。
また、普通養子がさらに他人の特別養子となった場合は、普通養子関係は終了しますが、単に普通養子縁組の転縁組を行った場合は、従前の普通養子縁組関係は終了しません。
Ⅱ.特別養子縁組
家庭に恵まれない子に手を差し伸べるために、昭和62年に特別養子縁組制度が作られました。特別養子縁組制度は、養子と実方の血族との親族関係を終了させる点が普通養子縁組と大きく異なります。
1)特別養子縁組の要件
特別養子縁組制度は、恵まれない子に家庭を提供することを目的としているので、縁組に際しては、普通養子縁組に比べ、極めて厳格な要件が付されている上に、家庭裁判所の審判を経なければ、縁組を行えません。
特別養子縁組の要件は次の5つです。
①養親となる者は配偶者ある者が夫婦そろっての共同縁組を行わなければならない
②特別養子となる子は家庭裁判所に審判を請求する時点で6歳未満でなければならない
③従前の父母による監護が著しく困難または不適用でなければならない
④養子となる子の父母の同意が必要である
⑤原則として審判請求時から6カ月以上のお試し期間の前置が必要である
①の夫婦の共同養子とする理由は、養子となる子に両親の揃った普通の家庭を与える必要があるからです。
②の養子となる子が6歳に達していないとする理由は、養親と実親子間と同様の年齢差を設ける必要と、就学前の幼少時に養親の家庭に馴染ませようとする目的です。
③のことを要保護要件と言いますが、そもそも特別養子縁組制度が、家庭に恵まれない子を対象とした制度であることによる要件です。
④において養子の子となる子は特別養子縁組によって従前の親子関係が終了するためで、ここでいう父母は実父母のほか、前の養親も含まれます。
⑤の要件の理由は、養親の適格性や養親子間の相性を確認するためです。
2)特別養子縁組の効果
特別養子縁組が成立すると、特別養子と実方の父母及びその血族との親戚関係は原則終了します。例外として、夫婦共同縁組を必要としない連れ子養子の場合は、実方の血族との親戚関係が継続します。
3)特別離縁
特別養子縁組においては、原則としては離縁は認められていません。つまり協議離縁、裁判離縁はありません。
特別に特別離縁が認められるのは、次の3つの要件がそろった場合です。
①養親の虐待がある
②実父母の相当の監護が期待できる
③養子の利益から離縁の必要性がある――以上の要件が揃った場合に、家庭裁判所の審判によって離縁が認められれば、特別離縁が成立します。