第五編 相続
さて、民法の勉強もいよいよ大詰めです。今回から、相続法について、6回に分けて解説します。
相続法1回目の今回は、①相続の開始、②法定相続人――についてです。
Ⅰ.相続の開始
自然人が死亡すれば、その人が持っていた権利能力を当然失うので、その権利や義務は持ち主のいない権利義務となってしまいます。ところが民法では、それを認めず、生前に有していた権利義務は一定の範囲の親族に承継することとしました。
この制度が相続制度で、亡くなった人を被相続人、一定の範囲の親族を相続人と呼んでいます。この相続の制度は、旧来より慣習的に行われていたものを是認して法制度として整えたものです。
相続とは狭い意味では、人が死亡した場合にその死者と一定の親族関係にある人が財産上の法律関係を、当然にかつ包括的に承継することを指しますが、遺言による財産の処分を含めて、人が死亡した場合にその人の財産上の法律関係が他の人に移転することを指した広い意味の相続として用いられることもあります。遺言による財産の処分を遺贈と言われることは覚えていますか?
1)相続の開始
民法では、相続は死亡によって開始するとの規定がなされています。この規定は、死亡により相続が開始するという文字通りの意味のほか、「死亡以外に相続の開始原因はない」ということも意味します。ただし、失踪宣告による死亡と見なされる場合も含まれます。
この規定は、相続開始は人が死亡したその瞬間で、被相続人の財産はその死亡と同時に相続人に移転し、権利や財産に持ち主が存在しない状態は、存在しないことになります。
つまり、相続人が被相続人の死亡を知らなかった場合でも、本人の知らないうちに権利義務を承継していることになります。
また、この死亡と同時に権利義務が継承されることは、その時に生存している人だけが相続人になれるということであり、代襲相続などで重要なポイントとなりますので、しっかり覚えておいてください。
相続開始の場所は、被相続人の住所です。被相続人の住所が相続に関する訴訟の管轄裁判所の基準となります。
2)相続回復請求権
相続回復請求権とは、真正相続人と呼ばれる本当の相続人が、表見相続人と呼ばれる権利のないのに相続人のふりをしている人の侵害を排除して相続権の回復を請求する権利です。
真正相続人は、表見相続人に対して個別の相続財産一つひとつに権利行使することもできますが、一括して相続財産の回復請求を行うことも可能です。
Ⅱ.法定相続人
相続においては最低限3つを決める必要があります。その3つとは、
①誰が(相続人)
②何を(相続財産)
③どのように(相続分や遺産分割)――承継するかです。
ここでは、相続人について詳しく見ていくことにします。
民法では、一定範囲内の親族を法定相続人として、当然に相続人となることが予定されている人と定めています。
具体的には、
①子
②直系尊属
③兄弟姉妹および配偶者――です。配偶者を除いた①~③の人を血族相続人と呼びます。
血族相続人には、相続の順位が付けられていて、第1順位は子、第2順位は直系尊属、第3順位が兄弟姉妹――です。先順位の人が生存している場合は、後順位の人は相続人にはなれません。つまり、第1順位の子が1人でも生存している場合は、第2順位の直系尊属も第3順位の兄弟姉妹も相続人にはなれません。第3順位の兄弟姉妹が相続人となるためには、子と直系尊属がまったくいない場合に限られるということです。
血族相続人以外の法定相続人である被相続人の配偶者は、常に相続人となります。つまり、血族相続人が存在しているときはその人と配偶者が相続人となり、血族相続人がいない場合は、配偶者のみが相続人となります。
これらを総合すると、
①第1順位者と配偶者への相続
②第2順位者と配偶者への相続
③第3順位者と配偶者への相続
④配偶者の単独相続――の4パターンがあることになります。
1)代襲相続
代襲相続とは、相続人となるべき人が、相続開始時に死亡その他の事由で、相続権を失っている場合に、その人の直系卑属が、その人と同一順位で相続人となることです。
例えば、被相続人の唯一の子がすでに死亡している場合に、すぐに第2順位の直系尊属が相続人となるわけではなく、被相続人の孫に当たる、子の直系卑属がいれば、その子が第1順位の相続人として相続を代襲します。
2)相続欠格、廃除
相続欠格とは、本来なら相続人となれるはずの人が、相続させるには一般人の法感情に反するような場合、法律上当然に、相続人の資格を失わせる制度です。
例えば、被相続人の子が被相続人を殺害した場合、この子は相続欠格者として、相続資格を失います。
一方、相続の廃除とは、被相続人が推定相続人に相続させたくないとき、家庭裁判所に請求してその人の相続権を奪う制度です。この排除請求が認められるのは、推定相続人が被相続人に酷い虐待を行ったり、推定相続人に著しい非行があった場合など、一定の場合に限られます。
前回は、相続の①誰が、②何を、③どのように――の3つの要素のうちの、①誰が――についてお話ししましたが、今回は②の何を――と、③のどのように――について解説します。
Ⅰ.相続の一般的効力
相続の②の要素、何を承継するかについて、民法では原則として、相続人は相続の開始のときから被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継するものと定めています。
財産に属したとあるので、非財産的な権利、例えば扶養請求権などは相続の対象とはなりません。また、被相続人の一身に専属したもの、例えば代理人の地位などは、当事者が死亡すると同時に主体性を失ってしまうことから、当然ですが、相続による継承とはなりません。
次に相続の③の要素、どのように承継するかについてです。
まず、相続人が1人のみである場合を単独相続、2人以上いる場合を共同相続と言います。
単独相続である場合は1人の人が相続財産を包括的に単独で継承することで、何ら問題は発生しませんが、相続人が複数いる共同相続の場合は、少し複雑になってきます。
共同相続の場合、具体的な個々の相続財産は、いったん、全部一括して相続人全員の共有の形をとります。その後、遺産分割の手続きを経て、最終的に各相続人の持分に応じて個々の財産が各人に帰属することになります。
1)権利・義務の承継の割合
前項で各相続人の持分とお話ししましたが、持分とは各相続人の相続分の割合のことで、共同相続の場合、各相続人は持分に応じて被相続人の権利と義務を継承します。
したがって可分債権の場合は、持分に応じて当然に分割されて承継されるのですが、不可分債権の場合は共同相続人全員に債権が帰属します。つまり、相続人は共同でも、一人ひとりでも総債権者(共同相続人全員)のために債務者に対して履行を請求できることになります。
2)相続分の意義
共同相続の場合の各共同相続人の遺産を承継する割合である相続分は、被相続人の遺言による指定がない限り、法律の規定で決められています。これを法定相続分と言います。
各共同相続人の法定相続分の割合は、同順位間では均等であるのが原則ですが、配偶者が同順位で血族相続人とともに相続人となる場合はちょっと複雑です。
前回、相続のパターンを4つ紹介しました。①第1順位者と配偶者、②第2順位者と配偶者、③第3順位者と配偶者、④配偶者の単独相続――でしたね。
まず、①の第1順位者と配偶者への相続の場合、子と配偶者の相続分は2分の1ずつです。配偶者がいない場合は、子が全部を相続します。子が複数いる場合は、2分の1(配偶者がいない場合は全部)を均等割りします。従来、非嫡出子は、嫡出子の持分の2分の1でしたが、平成25年12月に民法が改正され、子であれば、嫡出子・非嫡出子にかかわりなく均等の持分となりました。
次に②の第2順位者と配偶者への相続の場合、配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1の相続権を有します。
③の第3順位者と配偶者の場合は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1です。異父母の兄弟姉妹は、通常の兄弟姉妹の相続分の2分の1とされます。
なお、いずれの場合でも代襲相続が発生する場合、代襲相続人の相続分は、非代襲者の相続分と同じです。
3)相続分の指定
被相続人は、遺言で法定相続人と異なる相続分の割合を指定したり、第三者に指定の委託をしたりできます。この指定によって定まる相続分を指定相続分と言います。
法定相続分や指定相続分をそのまま適用すると、共同相続人間に不公平が生じる場合があります。そういった不公平を調整するために決められているのが、
①特別受益者の相続分
②寄与分――です。
①の特別受益者とは、被相続人の生前に、生計の資本として贈与を受けたような人のことです。この人の相続分は、本来の相続分から受益分を控除して相続分が算定されます。
②の寄与分とは、被相続人の財産の維持または増加に寄与をした共同相続人がいるときは、その人の本来の相続分に一定の加算をして相続分を算定するもののことです。
また、相続分は譲渡することもできます。この場合、譲受人は共同相続人の地位その物を取得することになります。
Ⅱ.遺産分割の方法
遺産分割とは、共同相続の場合に遺産を構成する相続財産を分割して、各相続人の単独所有にすることです。
相続財産は、いったん相続分に応じた遺産共有状態になることをお話ししましたが、民法は、遺産共有状態は過渡的な状態と見ていて、最終的には遺産分割手続きを経て、具体的に個々の財産が各相続人に分配されることで、最終的には相続による継承が終了することを予定しています。
遺産分割は、遺産を構成する相続財産のすべてを一括して分割する手続きで、個々の財産の共有関係を解消する共有物分割ではありません。
1)遺産分割の効力
遺産分割の効力は、相続開始のときに遡って生じます。つまり、各相続人が遺産分割によって取得した財産は、相続開始のときに相続人から直接承継したものとして取扱われるということです。通常の共有物分割は、分割時から将来に向かって持分移転の効力が生じますが、遺産分割の場合は効力が遡及します。
2)遺産分割と第三者
遺産分割の遡及効を認めたことで、第三者との利害関係で調整が必要な場面が生じることがあります。民法では、遺産分割は第三者の権利を害することができないと規定し、遡及前に出現した第三者の保護を図っているのです。
では、遡及後に出現した第三者はどうなるのでしょう?
例えば、X、Yの2人の子が相続人であり、相続財産である建物Aを分割協議でXの単独所有に決まった後に、Yの持分2分の1の権利をZが譲り受けた場合です。Zの所有権は保護されるのでしょうか?
遺産分割の遡及効により、Zは無権利者のYから譲受けたことになり、Aは登記なくしてZに対抗できるようにも考えられますが、判例では、遡及効と言って相続人がいったん取得した権利が分割時に新たな変更を生じたことと、実質的には異ならないので、分割後の第三者に権利取得を対抗するためには登記が必要としています。
第一章 総則
(相続開始の原因)
第八百八十二条 相続は、死亡によって開始する。
(相続開始の場所)
第八百八十三条 相続は、被相続人の住所において開始する。
(相続回復請求権)
第八百八十四条 相続回復の請求権は、相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から二十年を経過したときも、同様とする。
(相続財産に関する費用)
第八百八十五条 相続財産に関する費用は、その財産の中から支弁する。ただし、相続人の過失によるものは、この限りでない。
2 前項の費用は、遺留分権利者が贈与の減殺によって得た財産をもって支弁することを要しない。
第二章 相続人
相続による権利義務の承継は、被相続人の死亡と同時に発生することは理解されたと思いますが、では、相続の承継を相続人の都合で拒絶することはできないのでしょうか?
民法では、相続人の意思も尊重することとし、一定の要件の下で、承継するかしないか、どのように承継するか――を選択する権利を相続人に与えました。今回は、①相続の承認と放棄、②単純承認、③単純承認の回避――のお話をします。
Ⅰ.相続の承認と放棄
相続人に与えられた選択肢には次の3つがあります。
①相続人が被相続人の権利義務を無限定・無条件に承継する単純承認
②承継する積極財産(プラス財産)の限度で相続債務や遺贈を弁済する責任を負うという留保を付ける限定承認
③一切の相続財産の承継を拒否する相続放棄
相続の承認・放棄は、相続という身分法上の行為ですが、財産の承継という財産法的側面も有することから、財産法上の行為能力が必要とされています。つまり、未成年の場合は法定代理人の同意を得るか、法定代理人が代理して履行しなければなりません。
また、承認・放棄できる時期は、原則として自己のために相続の開始があったことを知ったときから3カ月間です。これを考慮期間と言いますが、相続開始前にあらかじめ行われた承認や放棄は無効で、その理由は、被相続人の影響力による強制を排除するためと言われています。
相続人がいったん承認または放棄をしたときは、たとえ考慮期間が経過していなくても、原則として撤回できません。
Ⅱ.単純承認
承認・放棄もしないまま考慮期間が経過すれば単純承認したことになります。相続の場合は承認することが原則なので、放棄する権利を行使しなかったことで放棄権を失うというわけです。
つまり、相続人は何もしなくても単純承認したことになるのですが、積極的に意思表示して単純承認することも可能なのでしょうか? 判例ではこれを肯定しています。
また、相続人が相続財産の一部を処分したような場合、相続人は単純承認したものと見なされます。これを法定単純承認と言います。法定単純承認の要件は、第三者から見て単純承認をしたと思われるような一定の行為が行われたことです。
Ⅲ.単純承認の回避
相続人の意思により単純承認を回避する方法は、
①限定承認
②相続の放棄――の2つです。
この2つの手段は、相続人の意思を尊重することによって、包括的承継という相続の原則を破る行為なので、その成立には家庭裁判所の審判が必要と慎重なものになっています。
1)限定承認
限定承認とは、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務および遺贈を弁済すべきことを留保して承認することです。限定承認も承認の一種として相続人の被相続人に属した一切の権利義務の承継という効果は生じますが、承継した債務の引当となる責任財算が、相続によって得た積極財産の限度に限定されるので、相続人が元来所有していた自らの固有財産には及びません。
相続人にとって、相続財産のうち積極財産と債務などの消極財産のどちらが多いかが判然としないような場合に意味ある制度と言えます。
限定承認をするには、考慮期間中に相続財産についての財産目録を調整して、家庭裁判所に提出して限定承認する旨の申述べをしなければなりません。また、共同相続人が限定承認をするには、相続人全員が共同で行う必要があります。複数の相続人のうち、1人だけの限定承認を許すと、遺産分割の際、その人に消極財産のすべてを承継させることによって相続債権者をいたずらに害することを回避する必要があるからです。
2)相続の放棄
相続の放棄とは、相続の効果を否定する相続人の単独行為のことです。
相続放棄には遡及的効力があり、相続放棄した人は、その相続について初めから相続人にならなかったものと見なされます。第1順位の子が全員放棄した場合は、第2順位への相続となりますし、放棄をした人には、もちろん、遺産分割協議に参加する資格もなくなります。
放棄しようとする人は、考慮期間内に、家庭裁判所に申述を行い、申述受理の審判が下ると相続の放棄が成立し、直ちに効力が発生します。
相続放棄の遡及的効力と第三者の関係について少し見てみることにします。
相続放棄の場合、この遡及的効力は絶対的で、遺産分割と異なり、放棄前の第三者であっても保護されることはありません。
また、相続放棄後の第三者も、無権利者からの権利取得とされ、その他の相続人の放棄で単独所有となった人は登記なしで第三者に対抗できます。
放棄の場合は、遺産分割に比べ第三者の保護が薄いわけですが、放棄は考慮期間が法定され、放棄前の第三者の出現の可能性が低いこと、放棄は家庭裁判所の審判がなされるため、放棄後の第三者は放棄の有無の確認が可能であることなどが理由と言えます。
今回は①相続財産と相続人の固有の財産が混合することを防ぐための財産分離制度、②相続人がいなかったときの財産の行方についてお話しします。
Ⅰ.財産分離制度
相続による財産の承継は、被相続人の債権者のみならず、相続人の債権者にも大きな影響を与えます。
例えば、被相続人AさんからXさんに単独相続が発生したとしましょう。Aさんの債権者Bさんにとっては、債務者がAさんからXさんに代わったことで、債権回収リスクに変動が生じます。また、XさんがAさんのマイナス財産を承継したことで、Xさんが無資力になったとしたら、Xさんの債権者YさんにもXさんに対する債権回収を図れなくなる可能性も出てくることになります。
相続人が限定承認や相続放棄をしない限り、相続財産と相続人の固有の財産が混合し、そのすべてが相続債権者・受遺者と相続人の債権者の責任財産となるのが原則です。でも、このことは、相続人の固有財産が債務超過に陥っている場合には、相続債権者、受遺者にとって不利益であり、相続財産が債務超過に陥っている場合には相続人の債権者にとって不利益です。
そこで、相続債権者や相続人の債権者を保護するために、相続財産と相続人の固有財産を分けて管理・清算する手続きを財産分離と言い、しばしばこの手続きがとられます。財産分離は、相続債権者・受遺者または相続人の債権者の請求によって認められます。そして、財産分離を請求する主体が相続債権者・受遺者である場合を第1種財産分離、相続人の債権者である場合を第2種財産分離と2つに分けられています。
1)第1種財産分離
第1種財産分離とは、相続債権者または受遺者の請求によって行われる財産分離のことです。相続債権者・受遺者は、相続開始のときから3カ月以内に、家庭裁判所に第1種財産分離の請求を行い、審判によって相続財産の管理に必要な処分を行い、相続財産の清算手続きが行われます。
また、第1種財産分離では、不動産については登記をしないと第三者に対抗することができません。つまり、財産分離の審判が行われると相続人は相続財産を処分することができないのですが、不動産については処分の制限を公示しておかないと、相続債権者・受遺者は相続人からの譲受人に対して、分離の効果を主張することができなくなるのです。
2)第2種財産分離
第2種財産分離とは、相続人の債権者の請求によって行われる財産分離です。
相続人の債権者は、相続人が限定承認をすることができる考慮期間、または相続財産と相続人の固有財産が混合しない間は、家庭裁判所に第2種財産分離の請求が行えます。その手続き・効果については第1種財産分離と同様です。
Ⅱ.相続人がいなかったときの財産の行方
ある人が死亡した場合、その人に身寄りがまったくなく、相続人がいない場合もないとは言えません。このような場合、相続はどうなるのでしょうか?
民法では、生前被相続人と生計を同じくしていた内縁関係の妻などのように、被相続人と特別の関係があった人があった場合、その人を特別縁故者と呼び、その請求により家庭裁判所の相続財産分与の審判により、相続財産は特別縁故者に帰属するものと規定しています。
では、この特別縁故者もいなかったら、どうなるのでしょう? この場合も、民法は無主の財産が生じることを嫌い、財産は最終的に国庫に帰属するものとしています。
1)相続人の不存在の手続き
相続人がいないと思われるような場合でも、もしかしたら、被相続人に隠し子がいたりする場合や、兄弟姉妹が内縁関係で子を設けているかもしれません。そこで、被相続人の財産を前述の特別縁故者や国庫に帰属させる場合は、慎重に手続きを進めなければなりません。つまり、民法は相続人のいることが明らかでない場合の手続きについて厳格に規定しています。
相続人不存在の場合、一方では相続人を捜索する必要があります。また、他方ではそれと並行して相続債権者・受遺者などへの弁済を行う手続きをすることも必要です。そこで、相続財産を財団法人化し、家庭裁判所の選任する相続財産管理人を法人の代表者とし、相続人の捜索や相続債権者等への弁済の手続きを行うという仕組みにしています。
具体的な流れは、
①相続開始
↓
②相続財産法人の設立
↓
③相続財産管理人の選任
↓
④待機期間
↓
⑤相続債権者・受遺者に対しての権利の申出をなすべき旨の公告
↓
⑥相続債権者・受遺者への弁済
↓
⑦相続人捜索の公告
↓
⑧相続人の失権
↓
⑨特別縁故者への財産分与
↓
⑩相続財産の国庫帰属――となります。
待機期間、権利申出催告期間、相続人捜索公告期間のいずれかに相続人が現れたときは、相続財産法人は存立しなかったものと見なされます。しかし、取引の安全を保護するために、効力は遡及しないものとし、法人の代表だった相続財産管理人の権限は相続人が相続の承認をした時から将来に向かって消滅し、相続人が出てくるまでに行った行為の効力は妨げられません。