社会保障と社会福祉
今回から社会分野について勉強します。この分野では、社会福祉と環境問題などが重要点です。それでは、今日のテーマ、①社会保障 、②社会福祉――から始めます。
Ⅰ.社会保障
社会保障制度とは、何らかの社会的事故で所得を得ることができなくなったときなどに保険制度に基づいて所得を保障していく制度のことです。
社会保障の分類には、保証の内容によって、①金銭を給付する年金保険や雇用保険などの所得保障、②医療・福祉サービスなどのように財やサービスを給付する社会サービス保障――に分類する方法や、保険料の拠出によって、③拠出が不要の公的扶助、④保険料の拠出が給付の条件となる社会保険――に分類する方法などがあります。
③の公的扶助の一つに生活保護があります。生活保護は、自力で生活できない生活困窮者に対して経済的援助などを与えるもので、生活保護法を根拠として実施され、費用は原則として国と地方公共団体の公費によって負担されています。
生活保護の制度には、a最低生活保障の原理、b生活困窮に陥った理由は問わないという無差別平等の原理、cまずは個人の努力が前提とする補足性の原理、d自立助長の原理、e必要即応の原理――の5つの基本原理があります。
また、生活保護法には、民法上の扶養義務が優先するという原則もあります。某お笑いタレントの話題が、お茶の間を賑わしたことがありましたね。
④の社会保険は、日本の社会保障制度の中でも中心となる制度です。社会保険とは、何らかの社会的事故により所得を得ることが中断したり不可能になったときに保険制度に基づいて所得を保障していく制度で、a医療保険、b年金保険、c雇用保険、d労働者災害補償保険、e公的介護保険――の5つがあります。
aの医療保険は、疾病や怪我などによる短期的な経済的損失に対する保険給付で、医療費用を現物支給で支払います。医療保険は公的年金における基礎年金制度のような全国民共通の保険制度は存在しませんが、全国民はいずれかの医療保険に必ず加入することとされます。
医療保険の類型は次のとおりです。
上表の被用者保険の一つである健康保険は、主に被保険者とその被扶養者の業務外の傷病、死亡、出産について保険給付を行うものです。保険料は報酬(所得)に比例し、事業主と被保険者が折半で負担します。医療費の一部負担金制度は1984年から導入され、被保険者の自己負担割合1割でしたが、2003年4月から原則として70歳未満が3割に引き上げられました。なお、製造業などの適用業種で常時5人以上の従業員を使用する個人事業所、または国、地方公共団体、法人の事業所で常時1人以上使用する事業所は強制加入とされています。
国民健康保険は、1961年から強制加入性になったことにより、健康保険などの医療保険制度と相まって国民皆保険が実現しました。現在では、国民の約4割が国民健康保険に加入していますが、農業者や自営業者の割合が低下し、無職者の割合が増大傾向にあります。つまり、高齢者や低所得者の割合が増大し、保険者(市町村)の財政難や保険料の地域間格差の拡がりと、保険料未納者の徴収――などの問題が出てきているのです。
また、高齢化社会に伴う医療給付費の膨張の抑制などを目的に医療制度改革が行われ、2008年4月から前期高齢者(65~74歳)の医療費に係る財政調整制度、後期高齢者(原則として75歳以上)を対象とした後期高齢者医療制度(長寿医療制度)を実施しています。
cの雇用保険とは、失業保険を中心とする雇用に関する総合的な機能を持つ保険制度のことです。
dの年金保険とは、老齢・障害などによる労働能力の長期的喪失または生計維持者の死亡に対して、本人または遺族の生活を保障する長期的保険制度で、所得保障が中心です。年金保険制度の概要を下表で確認しましょう。
以上のような公的年金の支給は、支給開始年齢に達すれば自動的に開始されるわけではなく、受給権者の請求に基づいて厚生労働大臣が裁定を行います。現在日本では、年金額の調整方式としてマクロ経済スライド制が採用されていますが、一定の条件をみたすまで、その発動は凍結されています。
次に、近年の主な年金改革を見ていきましょう。なお、2012年8月、被用者年金制度の一元化法案を含む、社会保障と税の一体改革関連法案が成立しました。同年9月には、厚生年金基金の廃止も伝えられています。年金関連については、今後の動向から目を離さないようにしましょう。
Ⅱ.社会福祉
日本の社会福祉を考えたとき、大きな問題となっているのは少子高齢化です。日本の高齢化問題は、高齢化を率として見た場合には欧米諸国に比べて突出しているわけではありませんが、進行の速度は、7%から14%の倍になるまで、たったの24年間と群を抜いています。理由としては、①出生率の低下による少子化も同時に進行しているので、全人口に占める65歳以上の人口比率が相対的に上昇すること、②栄養摂取量の向上や医療技術の進歩による平均寿命の伸長――などが挙げられます。なお、65歳以上の全人口に占める比率が7%を超えた社会を高齢化社会(日本は1970年に突入)、14%を超えた社会を高齢社会(日本は1994年に突入)と言います。
一方、出生率は1947年4.59であったのが、1973年2.14、2007年1.34を底に2010年は1.39です。出生率の低下は、男女の晩婚化による未婚率の増大や、女性の社会進出による仕事と育児の両立の困難さ、教育費の負担増大――などが要因と考えられています。
そこで、政府は、少子化対策のため2003年9月少子化社会対策基本法を施行しました。少子化社会対策基本法には、①育児休業制度や多様な就労機会の確保など雇用環境の整備、②保育サービスの充実、③地域社会における子育て支援体制の整備、④母子保健医療体制の充実、⑤将来の親となる若者の自立支援――などが定められています。
また、少子化対策のために国、地方公共団体、事業主、国民――にそれぞれ責務を負わせています。まず、国の責務は、少子化に対処するための施策の総合的な策定と実施です。具体的には、内閣総理大臣を会長とする少子化社会対策会議が内閣府に設置されています。次に、地方公共団体の責務は、少子化に対処するための施策に関し、国と協力しつつ、当該地域の状況に応じた施策を策定し実施することです。そして、事業主の責務は、国または地方公共団体が実施する少子化に対処するための施策に協力するとともに、必要な雇用環境の整備に努めることです。最後に、国民の責務は、家庭や子育てに夢を持ち、かつ安心して子供を産み、育てることができる社会の実現に資するよう努めることです。
1.児童福祉
子育ての話が出たところで、子供に関する①児童福祉法、②児童虐待防止法、③児童手当、④児童扶養手当――について解説します。
①の児童福祉法とは、児童福祉対策の中心法です。貧窮者の児童や保護者のいない児童などを含むすべての児童の健全な精神的・肉体的育成を目的としています。市町村に対しては、子育て支援事業が着実に実施されるよう必要な措置の実施に努めることや、児童福祉施設長による地域住民に対する養育相談などの実施――などが規定されています。2011年に、親権の停止制度が新設され、法人または複数の未成年後見人の選任が認められるなど、民法および児童福祉法の改正がありましたので、ポイントを下記にまとめます。
①親権喪失・管理権喪失に加え、親権停止制度の導入
②未成年後見人は、法人または複数でもよい複数でもよい
③親権喪失等を家庭裁判所に請求することができるのは、従来の子の親族および検察官に加えて、子、未成年後見人、未成年後見監督人である
④児童相談所長は、親権喪失、親権停止、管理権喪失の審判ならびに審判の取消しを家庭裁判所に請求することができる
⑤児童相談所長は、里親委託中および一時保護中の児童の親権者がいない場合は、親権を代行する
次に②の児童虐待防止法とは、a児童に対する虐待の禁止、b児童虐待の予防および早期発見、c児童虐待を受けた児童の保護および自立支援のための措置――などを規定しています。この法は、近年、両親などによる児童の虐待が増加していることを受け、児童虐待の防止などに関する施策を促進し、児童の権利利益の擁護のために2000年に施行されました。虐待というと暴力などの攻撃的な印象ですが、ネグレクトといって、無視・保護の怠慢・教育放棄――なども含みます。また、保護者以外の同居人による児童虐待行為も、保護者によるネグレクトの一類型と見なされます。なお、対象となる児童は18歳未満の者です。
③の児童手当は、児童手当法に基づき、父母その他の保護者が子育てについての第一義的責任を有するという基本的認識の下に、児童を養育している者に児童手当を支給することにより、家庭等における生活の安定に寄与するとともに、次代の社会を担う児童の健やかな成長に資することを目的として、児童を養育する父母などに手当を支給する制度です。
2010年、民主政権は、従来の児童手当を子ども手当にかえ、中学校終了までの子供1人につき月額13,000円を父母に支給していましたが、2011年8月4日に年度内で子ども手当を廃止し、2012年4月からは児童手当に所得制限を税引き前年収960万円を新たに盛り込んだものに移行しました。支給額は、現行の一律月額13,000円の子ども手当から、3歳未満に月額15,000円、3歳~中学生に月額10,000円になり、第三子以降の(3~12歳)は月額15,000円です。ここで、注意したいのは、子ども手当に変更される前の児童手当とは、内容がまったく異なることです。
④の児童扶養手当は、児童扶養手当法に基づき、原則として父または母と生計を同じくしていない児童などが育成される家庭の生活の安定と自立を助けるために、児童の父または母、およびそれに代わってその児童を養育している者に手当を支給するものです。所得制限はありますが、支給額は、全部支給で1人当たり月額41,720円です。2002年の母子寡婦福祉法の改正によって、児童扶養手当を5年以上受給してきた世帯は、2008年からは最大半額を減額される場合があることになりました。
2.老人福祉
子供があれば、次は老人福祉、老人福祉の核となるのが介護保険制度です。介護保険制度は、介護保険法に基づき、各被保険者の個別的な事情に応じて介護サービス給付がされる制度で、2000年4月から実施されています。具体的には、各被保険者が介護されるべき状態に応じて自立、要支援(2段階)、要介護(5段階)――に分類され、在宅または施設におけるサービスを受けることができます。
介護保険の仕組みは、下表のとおりです。
介護保険の近況は、2000年4月に218万人だった要支援・要介護認定者は、2010年4月には487万人と10年間で約269万人増加しています。それを受けて2011年に介護保険法が改正され、社会的包摂(social inclusion)の理念を志向し、地域包括ケアというシステムを提示しました。
地域包括ケアを実現するために、次の5つの視点での取組みが包括的、継続的に行われることが必須とされています。包括的とは、利用者のニーズに応じた下の①~⑤の適切な組合せによるサービスの提供のことで、継続的とは、入院→退院→在宅復帰と通じて切れ目のないサービス提供のことです。
①医療との連携強化
・在宅医療について24時間対応を可能にし、訪問看護や訪問リハビリテーションを充実強化する。
・痰の吸引などの医療行為を介護職員が行えるようにする。
②介護サービスの充実
・特別養護老人ホームなどの介護拠点を緊急に配備する。
・在宅サービスを強化する(24時間対応の定期循環・臨時対応サービスの創設など)。
③予防の推進
・できる限り要介護状態とならないための予防に取組み、自立支援型の介護を推進する。
④見守り、配食、買い物など、多様な生活支援サービスの確保や権利擁護など
・独居世帯、高齢夫婦のみの世帯の増加、認知症の増加を踏まえて、さまざまな生活支援サービスを推進する。具体的には、見守り、配食などの生活支援や財産管理などの権利擁護サービスを内容とする。
⑤高齢期になっても住み続けることのできる高齢者住まいの整備
・一定の基準を満たした有料老人ホームと高齢者専用賃貸住宅を、サービス付き高齢者住宅として高齢者住まい法に位置づける。