情報通信の現状~その1
現代社会は急速なIT化が進み、高度情報通信ネットワーク社会へと変貌を遂げつつあります。インターネットの爆発的な普及によって、私たちは家に居ながら膨大な情報を手に入れられることができたり、商品を購入できる時代になりました。利便性は格段に向上し、生活スタイルそのものも大きく変化しています。
しかし、一方その裏では、官庁や大企業による個人情報漏えい事件、悪意を持った不正アクセスやサーバーテロなどの、新たな問題も急増してきています。
そこで、この社会で暮らす私たちは、情報通信と個人情報保護の両面の知識を身に着ける必要があると言えます。このことは、行政書士の仕事を考えた場合も同様です。例えば、オンライン申請や電子定款、事務所のホームページの開設など、情報通信に関する知識は必須です。また、お客様のプライバシーにかかわることの多い仕事の一つですから、個人情報保護は最優先事項となります。
こうしたことから、行政書士試験でも情報通信に関する出題が増しています。勉強すれば確実に点数になる分野ですので、しっかりポイントを押さえて自分のものにしましょう。
学習のポイントは、情報通信の分野は用語を覚えることが第一歩です。それは、行政書士試験の問題は用語の意味が理解できていることが前提だからです。用語の意味が分かっているだけで正解できる問題もあります。深い知識というよりは、一定の知識を幅広く覚えるようにしましょう。また、比較的新しい時事的な内容が出題される傾向もあります。新聞などのチェックも必要です。
個人情報保護の分野は、個人情報保護法、行政機関個人情報保護法という法令の条文をしっかり押えましょう。一般知識の中でも学習の範囲が絞れるので、短期間の学習で得点につながります。
では、今回は、情報通信の現状について、①我が国のIT政策、②暗号化技術、③私人間通信の高度化――と話をすすめます。
Ⅰ.我が国のIT政策
急速な高度情報化に対応するため、2001年1月、高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(IT基本法)が施行されました。IT基本法の目的は、高度情報通信ネットワーク社会の形成に関する施策を迅速かつ重点的に推進することです。高度情報通信ネットワーク社会とは、インターネットその他の高度情報通信ネットワークを通じて自由で安全で多様な情報または知識を世界的規模で入手して共有し、または、発信することで、あらゆる分野において、創造性があり活力のある発展が可能となる社会のことです。
IT基本法の主な内容は、①利用の機関等の格差の是正、②電子商取引等の促進、③高度情報通信ネットワークの安全性の確保等――で、本部長を内閣総理大臣とする行動情報通信ネットワーク社会推進戦略本部が内閣府に置かれています。
我が国では、IT基本法の制定に伴って、e-Japan戦略の策定を行い、IT戦略本部のもと、5年以内に世界最先端のIT国家になることを目標に、IT革命への本格的な取組みを開始しました。その結果、日本は最先端のマーケットと技術環境を有する世界最先端のIT国家になったと言えます。
次にIT政策の大まかな流れを記します。
★e-Japan戦略/2001年1月
重点政策分野として、①超高速ネットワークインフラの整備、②電子商取引のルールと環境整備、③電子政府の実現、④IT関連の人材育成――が掲げられました。
★e-Japan戦略Ⅱ/2003年7月
e-Japan戦略の当初の目標は達成されつつあるという認識のもと、医療、食、生活、中小企業金融、知、就労・労働、行政サービスの7分野における先導的取組みが提案されました。
★IT新改革戦略/2006年1月
2010年までに、いつでも、どこでも、誰でもITの恩恵を実感できる社会の実現を目指すものです。
★i-Japan戦略2015/2009年7月
国民が主役のデジタル安心・活力社会の実現を目指して、2015年の我が国の将来ビジョンとそれを実現するための戦略が立案されました。戦略の柱は、①電子政府・電子自治体、②医療・健康、③教育・人財――で、このほか、産業・地域の活性化、新産業の育成、デジタル基盤の整備――も掲げられています。
次はさらに進んだユビキタス・ネットワーク社会についてお話しします。ユビキタス・ネットワーク社会とは、机上のパソコンだけでなく、携帯電話をはじめとするテレビなどの家電製品にいたるまでのあらゆるものがネットワークで結ばれている社会のことです。
その実現のためには、①ブロードバンド、②常時接続、③モバイル(移動体通信)、④バリアフリーインターフェイス、⑤インーネットアドレスを拡張するIPv6――の5つが整備されることが必要です。
我が国では、このユビキタス・ネットワーク社会の実現に向け、次世代のIT戦略構想・ユビキタスネット・ジャパン(u-Japan)を策定し、基盤づくりに必要な高度の技術者の養成を目指しています。
Ⅱ.暗号化技術
暗号化技術とは、誰でも判読可能な文章である文を一定の計算式に変換(暗号化)し、変換した暗号文を元の文に再変換(復号)する技術のことです。特に公開鍵暗号方式の応用で、電子申請や電子商取引の際の本人確認や内容の真正性の証明を行うことができます。暗号化する理由は、インターネット上の取引や申請の場合、第三者による内容の改ざんや不正な成りすましが行われることが容易であるので、その防止を図ることが重要になるというわけです。
暗号化の種類には、①共通鍵暗号方式、②公開鍵暗号方式(非対称鍵暗号方式)――があります。
①の共通鍵暗号方式は、暗号化するときと復号するときに同じ鍵を用いる方式です。暗号化・復号化の速度が速いので、社内での通信や個人対個人での通信のように限定された通信の保護に適しています。しかし、鍵が盗まれるとその鍵で復号されて情報が盗まれてしまうことや、受信者の数だけ鍵が必要になるので煩雑であることがデメリットです。
②の公開鍵暗号方式では、通信当事者は秘密鍵と公開鍵と呼ばれる一対の鍵を生成します。この一対の鍵は、秘密鍵で暗号化したものはそれに対応する公開鍵によってしか復号できず、公開鍵で暗号化したものはそれに対応する秘密鍵によってしか復号できない関係にあります。
暗号化鍵と復号鍵が異なるため、当事者間ごとに鍵を作成する必要がなくなり、1つの公開鍵を公開すればいいので、不特定多数者間の取引に適しています。しかし、暗号化・復号の速度が遅いというデメリットがあります。
公開鍵暗号化方式の応用に電子署名があります。電子署名とは、インターネット経由で契約書を交わすという電子商取引や役所への申請の電子化などを可能にするため、押印や手書きの署名と同等の効力を持つもののことです。電子署名では、公開鍵が本人のものであるという証明を行うため、認証機関は公開鍵の持ち主について証明する電子的な証明書(電子証明書)を発行します。電子署名を行った者が、取引相手に電子証明書を添付して送信することにより取引の相手方は再生者を確認することができます。ただし、電子署名の方法を用いても、送信を受けた相手方にとっては、他人がそのものに成りすますという危険性は残っています。
Ⅲ.私人間通信の高度化
現在では、電子署名についての法整備をし、インターネットを活用した電子商取引等ネットワークを通じた社会経済活動の円滑化を図るため、電子署名法が施行され、電子署名を手書きの署名や押印と同様に通用させる法基盤が整備されました。電子署名は、電磁的記録に記録された情報について作成者を示す目的で行われる暗号化等による措置で、過程で改変が行われていないか確認できるものです。電子署名法は、主として公開鍵暗号方式による電子署名のシステムを想定したものと言えます。そして、情報を表すために作成された電磁的記録は、本人による一定の電子署名が行われているときは、真正に成立したものと見なされます。
電子署名に関係する業務で覚えてほしいものに、認証業務があります。認証業務とは、自らが行う電子署名についてその業務を利用するものなどの求めに応じ、その利用者が電子署名を行ったということを確認するために用いられる事項が、本当に利用者本人が行ったということを証明する業務です。
電子署名のうち、その方式に応じて本人だけが行うことができるものとして主務省令で定める基準に適合するものの承認業務、つまり、高度な暗号化方式を利用指定などの認証業務を特定認証業務と言い、国が認定した認証局のみが行える業務です。
また、電子商取引とは、インターネットなどコンピュータのネットワーク上で電子的に行われる取引のことです。その特徴は、①ペーパーレス化、②非対面性・匿名性、③距離的・時間的な制約の解消――などです。電子商取引の種類は、①B to B(企業間の取引)、②B to C(オンラインショッピングのような企業と消費者間の取引)、③C to C(ネットオークションのような消費者間の取引)――の3種類です。
こうした電子商取引の発展に伴い、民事規範の重視、国際的な調和、中立性の確保――などを図るために法整備も行われています。主なものは、次のとおりです。
①2001年:消費者契約法、電子署名法、IT書面一括法、電子消費者契約法
②2002年:特定電子メール送信適正化法
③2005年:e-文書法
IT書面一括法とは、書面の交付等を義務付ける50の法律を一括改訂し、書面の代わりに電磁的方法を用いることができるようにする法律です。
特定電子メールとは、電子メールの送信をする者が自己または他人の営業について広告や宣伝を行うための手段として送信する電子メールのことです。この特定電子メールの送信の適正化を図るため、特定電子メール送信適正化法が成立しました。なお、より実効性の高い迷惑メール対策のため、2008年5月に改正法が成立しています。主な改正内容は、下記の5点です。
①送信者に対する、送信者の氏名または名称等の事項の表示の義務付け
②受信に同意した者以外の者への送信の禁止(オプトイン方式)
③架空電子メールアドレスによる送信の禁止
④送信者情報を偽った電子メールの送信者に対し、電気通信事業者の電子メール通信役務提供の拒否
⑤送信者が上記①~③までを遵守していないと認める場合の内閣総理大臣の措置命令
(違反者には1年以下の懲役または100万円以下の罰金、法人の場合は3,000万円以下の罰金)
e-文書法とは、民間における文書・帳簿の電磁的な保存を容認することを定めた法で、民間事業者などが行う書面の保存などに要する負担軽減を通じて国民の利便性、生活の向上、国民経済の健全な発展――への寄与を目的とするものです。電磁的記録による文書の保存は、書面による保存と同じと見なされ、本来の書面による保存等に対して適用される規定と同様の個別法令の規定が適用されます。
e-文書法の内容は、大きく、①電磁的記録による保存の容認、②電気的記録による作成、縦覧等および交付等の容認――の2つです。①の電磁的記録による保存の容認は具体的には、民間業者等に対して書面により保存が義務付けられている事項を、主務省令の定めがあれば電磁的記録による記録に代えられることです。②の電磁的記録による作成・縦覧等および交付等の容認は具体的には、民間事業者は保存に附随して行われる書面の作成、縦覧等や交付等のうち、法令で書面によることが定められている事項について、主務省令(政令)の定めがあれば電磁的記録に代えられることです。
また、電子商取引の発展により、電子マネーという貨幣に代わる媒体が登場しました。電子マネーとは、ICカードやパソコンにあらかじめ現金や預金と引換えに電子的貨幣価値を入力し、経済活動の際に同貨幣価値のやり取りを通じて代価の支払いをするものです。電子商取引においては、決裁の主流になると見込まれています。
では、電子マネーの現状はどうかというと、電子マネーは決済情報の送信がないため、少額の決裁に用いられることがほとんどです。近年は、非接触型ICカードの発達によって端末間の情報交換速度が高速化し、円滑な決済が可能になったこと、低コストでの全国展開が可能となったこと――などによりプリペイド型電子マネーの普及が進んでいます。なお、非接触型ICカードとは、アンテナが内蔵され、外部の読取装置が発信する弱い電波を利用してデータを送受信するICカードのことで、例えば、Suica、PASMO、ICOCA――などです。