第二章 株式
株式とは~その1
株式は、株式会社における核です。これなくして株式会社はあり得ません。そこで、今日は、①株式と株主、②株式の内容と流通――のお話です。
Ⅰ.株式と株主
1.株式の意義
株式とは、株式会社における出資者である社員(株主)の地位、つまり会社の所有者としての立場を細分化して均等な割合的単位の形にしたものです。
これにより、株主・会社間の集団的法律関係を数量的に簡便に処理することが可能になります。
株式は、2人以上の者が共有することが認められます。この場合は、共有者は共有株式についての権利を行使する者1人を定めて会社にその者の氏名または名称を通知します。通知しなければ、原則として権利を行使することができません。また、共有者は、会社からの通知または催告を受領する者も1人定めて会社にその者の氏名または名称を通知しなければなりません。もし、共有者から通知がない場合には、会社は任意に選定する共有者の一人に対して通知または催告すれば足ります。
株主の権利は総称して社員権と言いますが、下表の
①株主が会社から経済的利益を受けることを目的とする自益権
②株主が会社経営に参加することを目的とする共益権――に分類されます。
また、株主の権利には、
①1株の株主でも行為することができる単独株主権
②発行済み株式総数や総株主の議決権の一定数・一定割合以上を有する株主のみが行使することができる少数株主権
――とがあります。それぞれについては下表にまとめました。
ここで、公開会社と非公開会社の説明をします。
公開会社とは、その発行する全部または一部の株式の内容として、譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない株式会社のことです。
つまり、一部の株式の譲渡だけに株式会社の承認が必要であると定款に定められている場合も会社法では公開会社です。
ここで注意しなければならないのは、公開会社=上場会社ではないことです。証券取引所に上場していなくても、株式に譲渡制限がなければ公開会社です。
次に、非公開会社とは、公開会社ではない会社のことで、会社法上では、「公開会社でない株式会社」と言います。
つまり、非公開会社=公開会社ではない会社=すべての株式に譲渡制限のある会社のことです。やはり注意しなければならないのは、非公開会社=株式を上場していない会社ではないことです。
なお、現在、日本の株式会社の大多数が、この非公開会社という形態をとっていると言われています。
2.株主平等の原則
株主平等の原則とは、株主は、株主としての資格に基づく法律関係については、その保有株式の内容および数に応じて平等に取り扱われなければならないとする原則です。
この原則の意味は、会社は権利内容などの異なる株式の発行は認めるけれど、各株式の内容が同一である限りは株式数に応じて同一の取扱いがなされるべきであるということです。
具体的に言うと、Xさんが1株主、Yさんが2株主だとすると、Xさんに配当が100円なら、Yさんには200円、Xさんの議決権が1票なら、Yさんの議決権は2票というように、持株数に比例した平等です。
株主平等の原則は、株主としての資格に基づくすべての法律関係に適用されます。また、株主平等原則は、①各株式の内容が原則として同一であること、②同一内容の株式は同一の取扱いがなされるべきこと――を具体的内容とします。
つまり、ある株主には50円配当する株式を、ある株主には100円配当する株式を発行するというようなことは原則として許されません。
例外として、非公開会社では、①剰余金配当請求権、②残余財産分配請求権、③株主総会における議決権――について株主ごとに異なる扱いを行う旨を定款で定めることができます。
Ⅱ.株式の内容と流通
株式平等の原則はあくまで原則です。合理的な理由があれば例外が認められるのです。
会社法では、
①すべての株式の内容として特別なものを定めること
②権利の内容の異なる複数の株式を発行すること――を認め、
株式の多様性を認めることで、株式による資金調達の多様化と支配関係の多様化の機会を株式会社に与えようとしています。
①を特別な内容の株式、②を種類株式と言いますが、それらを下表にまとめてみました。
次は、株式会社の社員の地位を表章する株券についてのお話です。
株券は、財産的価値を有する私権を表章する有価証券です。そして、有価証券は、表章する権利の譲渡・行使に証券の交付・所持を要します。言い換えると、株券は株式つまり株主の権利を表した紙ということです。
株主の投下資本回収の手段を保証するために、株式譲渡は自由です(詳しくは後述します)。しかし、株式そのものは目に見えない権利ですから、株式の譲渡が自由であると法律に定めるだけでは、株式の譲渡が活発に行われるようにはなりません。そこで、株式が円滑に取引できるような仕組みが必要になります。
そこで、まず目に見えない権利である株式を目に見えるようにして、株式の移転に関する法律関係を明確にしました。目に見えない物を売ったり買ったりするのは難しいから目に見える株券という形で取引するようにしたのです。
原則では、株式会社は株券を発行しないのですが、株式を発行する旨の定款規定を設けることで株券の発行が可能になります。株券発行の定めがある会社を株券発行会社と言います。そして、株券発行会社は、株式を発行した日以後、遅滞なく株券を発行しなければなりません。もっとも、株券発行会社が非公開会社である場合は、株主からの請求があるまでは株券を発行しなくてもよいとされています。
また、株券に記載される事項は、①番号、②代表取締役・代表執行役の署名、③会社の商号、④表章する株式数、⑤譲渡制限株式であるときはその旨、⑥種類株式であるときはその種類および内容――です。
株券の効力の発生はいつなのか? ここで考えてみましょう。
株券の発行手続きは、①会社が印刷業者に頼んで株券を発行する→②できた株券を株主に郵送する→③株主の手元に到達する――です。さて、①~③のどの時点で株券が有価証券として有効になるのでしょう?
判例・通説では、株券は、株主の手元に到達した③の時点で有価証券となるとしています。
その理由は、株券の発行は会社から株主に対する意思表示と考えると、到達主義が原則だからです。つまり、配達の途中でどこかに紛れ、拾った人がいても、有価証券とはなりません。これで、株主も安心ですね!
ここからは、補足になりますが、平成21年1月5日、上場株式の取引の迅速な決済に対応するために「社債、株式等の振替に関する法律(振替法)」が施行されました。この法により、上場株式については株券の不発行を前提とした株式振替制度が施行され、上場株券は一斉に無効となりました。
この制度は上場株式については紙に印刷された株券をなくし、株式会社証券保管振替機構(通称ほふり)を中核としたコンピュータネットワークで一元管理する仕組みです。いわゆる上場株券の電子化です。
振替法の下では、振替株式に関して、振替口座簿への増加の記載・記録がその移転の効力要件となるなど、会社法の内容とは異なる点がいろいろあります。しかし、行政書士試験の内容としては、会社法重視なので、詳しくは割愛します。
株式とは~その2
今回は、前回の公開会社、非公開会社のところで出てきた株式の譲渡について詳しくお話しします。
では、①株式譲渡自由の原則と制限、②株式の動的安全・静的安全、③株主名簿――です。
Ⅰ.株式譲渡自由の原則と制限
株式譲渡自由の原則とは、株主は株式を自由に譲渡できるという原則です。
その理由は、まず、そうする必要性があるということです。
株式会社では、社員である株主は、間接責任しか負わないため、会社債権者が見当てにできるものは会社財産だけです。そこで、会社債権者保護のために会社財産が重視され、いったんなされた出資の払戻しは認められていません。つまり、株主による投下資本の回収の手段としては、株式を譲渡するしか方法はないのです。
そこで、株式の譲渡を原則として自由にしておく必要性があるのです。
次に、許容性が理由となっている点も挙げられます。
通常、株主同士は面識がなく、同じ会社の社員であるといっても個人的信頼関係があるわけではありません。また、株主は間接有限責任しか負わず、原則として会社経営にも当たらないので、株主の個人財力や経営能力は、会社や会社債権者には関係ありません。
そこで、株主の自由な交代があっても何ら不都合は生じないので、株式の譲渡は原則自由になっています。
それでは、原則自由な株式の譲渡からお話しを始めます。
株券発行会社の場合、株式の譲渡は株券を譲受人に交付することにより行います。株券の交付により株式会社以外の第三者に対抗することができます。会社に対抗するためには譲受人の氏名または名称および住所を株主名簿(後述します)に記載しなければなりません。
株券不発行会社の場合は、当事者間の意思表示のみによって株式を譲渡することができます。会社その他の第三者に対抗するためには、譲受人の氏名または名称および住所を株主名簿に記載しなければなりません。
いずれの場合も、株式の譲渡は自由に行えますが、いくら自由と言ってもそれは原則であって、例外があります。下図のように制限があるのです。
1.権利株譲渡制限
会社成立前の株式引受人の地位を権利株と言いますが、権利株の譲渡は、譲渡当事者間では有効ですが、会社に対して対抗することはできません。その理由は、この時点の会社にとって誰が株主を把握しておく必要があるからです。
また、対抗できないというのは、単に会社に主張できないということであって無効であることとは異なります。
ですから、逆に会社側から権利株の譲渡の効力を認めることは可能です。
2.株券発行前譲渡制限
株券発行会社において、株券発行前になされた株式譲渡は、譲渡当事者間では有効ですが、会社に対する関係では無効です。
その理由は、会社が誰に株券を発行したらよいか分からなくなってしまうからです。権利株譲渡制限と違うのは、無効となる点で、会社は譲受人を株主と認めることができません。
3.自己株式取得制限
自己株式=自社株は、一定の場合に限り、取得(購入)できると規定されています。つまり、一定の制限を受けるのです。
その理由は、自社株の取得を自由に認めると主に、次の4つの弊害が生じるとされているからです。
①会社の財産的基礎を害する
②株主平等の原則に反する
③株式取引の公正を害する
④会社支配の公正を害する
①の会社の財産的基礎を害することの理由は、会社財産を財源として自己株式を購入すると、実質的に出資の払戻しと同様の結果となり、債権者に不利益を与えるからです。
②の株主平等の原則に反することの理由は、一部の株主のみから買い受けると、株主相互間の投下資本回収の機会に不平等を生じさせるからです。
③の株式取引の公正を害することの理由は、会社が自己株式取得によって株価を操作し、あるいは内部者取引を行い、一般投資家の利害を害するおそれがあるからです。
④の会社支配の公正を害することの理由は、自己株式を買い受けることによって、現経営者による会社支配が完成されてしまうからです。
4.子会社による親会社株式取得制限
子会社は、原則として親会社の株式を取得することができません。
ここでいう子会社とは、会社(親会社)がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社などのことで、親会社とは、他の株式会社(子会社)の総議決権の過半数を有する会社、その他実質的に経営を支配しているものとして法務省令で定める会社のことです。
子会社が自由に親会社の株式を取得できるとすると、親会社と子会社との間の経済的一体性や支配服従関係から、親会社自身による自己株式の取得と同様の弊害が生じるからです。
具体的には、子会社による親会社株式の取得は、実質的に出資の払戻しになるおそれがあります。
また、親会社は子会社を支配しているので、親会社が子会社に親会社株式を取得させることにより、親会社の株式について不当な株価操作や投機的行為を行ったり、親会社の現経営者の支配を固定化することが可能になります。
5.譲渡制限株式
会社は定款に規定することにより、株式譲渡に会社の承認を要する株式である譲渡制限株式を発行することができます。
本来、株主の投下資本回収手段を保障するために株式の譲渡は自由なはずですが、わが国の株式会社には、家族経営の会社などの小規模・閉鎖的な会社が多く、このような会社の場合、会社にとって好ましくない人が株主となって会社経営を妨害したり、会社を乗っ取ったりすることを防止しなければなりません。
そこで、例外的に定款の規定によって譲渡制限を設けることができるようにしたものです。
Ⅱ.株式の動的安全と静的安全
会社法で定められている、株主の投下資本回収の手段である株式の譲渡を簡単にするためや、株式の流通性を高めるための制度を詳しく解説します。
何度もお話ししているように、株式会社は株券を発行しないのが原則です。定款で株券を発行する旨を定めることができ、定めのある会社を株券発行会社、定めのない会社を株券不発行会社と言います。
まず最初は、株券発行会社の各制度から、説明していきます。
目に見えない観念的な権利である株式を有価証券である株券に結合表章した結果、株式を譲渡することは、相手方に株券を交付するだけになりました。株券を交付、つまり手渡すだけで済むので、民法における債権譲渡の手続きに比べてとても簡単です。しかし、安心して買うことができなければ、いくら手続きが簡単でも流通性が高まることにはつながりません。
そこで、株券の所持に次の3つの効力を認めました。
①資格授与的効力
②免責的効力
③善意取得
①の資格授与的効力とは、株券を所持している者は真実の株主と推定されることです。
株券を所持しているといっても、株券を拾ったかもしれないし、盗んだかもしれないのですが、一般的に見て、株券を所持している者が株主である可能性が非常に高いことから、いちいち自分が真実の株主であることを立証しなくても、株券を所持していれば株主としての地位を主張できます。他方、主張された相手方は、株券の所持人は真実の株主ではないことを立証できなければ、その主張を拒むことはできません。
②の免責的効力とは、株券を所持している者を真実の株主として扱った者は、原則としてすべての責任から解放されるという効力です。会社法には明文規定がないので、手形法の規定を類推適用します。
資格授与的効力によって株券を所持している者を真実の株主と推定することで、相手方(会社など)は安心して株主として扱います。それにもかかわらず、そのことに対する責任を追及されるのでは、そこに矛盾が生じます。
例えば、株券を拾ったYさんが、株主のふりをして権利を主張した場合に、会社がこれを信用して権利を認めたときは、真実の株主Xさんに対して責任を負わなくていいのです。
この免責的効力を受けるためには、相手方は善意かつ無重過失でなければなりません。
上記の例で、会社が真実の株主がXさんであることを知っていた場合、または、知らない場合でも著しく不注意であった場合には、会社を保護する必要がないので、免責されません。
③の善意取得とは、株券を所持している者から株券の交付を受けた者は、たとえ譲渡人が無権利者であっても、善意かつ無重過失であれば、株式についての権利を取得できることです。
民法における動産の善意取得(即時取得)の株券・株式バージョンです。
例えば、Xさんを真実の株主、Yさんを株券盗取者、CさんはYさんから株券を買った人――とします。Cさんは、Yさんが真実の株主と推定していたのですから、もし、この場合に株式を取得できなかったら理不尽な不利益を被ります。
そこで、善意取得であるとして、Cさんは、株式を有効に取得できることにしました。この制度の土台は、有価証券である株券の資格授与的効力なのは、もちろんです。
次に株券不発行会社の場合はどうでしょう?
株券不発行会社では、当事者の意思表示のみで株式を譲渡することができるので、何ら問題はありません。
以上は、株式の動的安全でした。
しかし、動的安全を確保するだけでは、真実の株主が善意取得によって株式を失うおそれがあります。
そこで、その対策として次の3つの静的安全の制度を設けました。
①名義書換制度
②株券不所持制度
③株券失効制度
①の名義書換制度は、譲受人が株主名簿(次回説明します)を自分名義に書き換える制度のことです。
自分名義に書き換えてしまえば、株主権行使のために株券を提示する必要もないし、株券を喪失して善意取得される心配も低下します。
②の株券不所持制度は、株主が株券を所持しないという制度です。名義書換制度があるとは言え、株券を自己保管すれば盗取されたり紛失する可能性はゼロではありません。株主が保管していなければ、善意取得される可能性はなくなります。
③の株券失効制度は、株券をなくしてしまった時の制度です。
株券の紛失などの場合に株券を無効とすれば、それ以後、善意取得によって株式を失うおそれはなくなります。ただし、株券失効制度は次のような手続を経なければなりませんので、無効となる前に善意取得されてしまえば、真実の株主には戻れません。
なお、株主失効制度の流れは次のようです。
Ⅲ.株主名簿
今までの解説に何度か出てきた株主名簿ですが、株主名簿とは、株主および株式に関する事項を明らかにするために、会社法上作成を要する帳簿のことです。
株式会社では、株式譲渡によって会社とは無関係に株主が変更されるので、会社が常に真実の株主に権利を行使させなければならないと定めると、事実上その処理は不可能となります。また、株券不発行会社では株券自体が存在しないため、第三者に対する対抗要件も持ち合わせません。
そこで、会社の事務処理上の便宜と株券不発行会社における第三者との法律関係の簡明な処理のために、株主名簿制度が採用されました。株主制度の採用により、株主は会社から各種の通知を受けることができ、権利行使の機会を失わずにすみます。また、権利行使のたびに株券を提示する必要もなくなり、株券を紛失したり盗まれたりする危険を減らすことができます。そして、株券不発行会社の場合には、第三者に対する対抗要件とすることができます。
つまり、株主名簿制度は、会社の事務処理上の便宜ばかりでなく、株主の利益にもなります。
以下は、株主名簿制度での重要なポイントです。
1.名義書換
譲渡・贈与・相続など、取得事由を問わず、株式を取得した者は会社に対して株主名簿の名義書換を請求できます。名義書換の請求に当たっては、株券発行会社の株主は、会社に対し株券を提示しなければなりません。一方、株券不発行会社の株主は、株式譲渡人などとともに請求を行わなければなりません。
名義書換請求を受けた会社は、請求者が、例えば盗んだというように真実の株主ではないことを証明できる証拠がない限り、名義を書き換えなければなりません。
2.株主名簿の効力
株主名簿の効力には、
①資格授与的効力
②免責的効力
③確定的効力――の3つがあります。
①の資格授与的効力とは、株主名簿に株主として記載されている者は、株主と推定されるという効力です。
例えば、ある時点で真実の株主であり株主名簿上の株主Xさんだったものが、後日株式の譲渡により真実の株主がYさんとなっても、株主名簿が書き換えられるまで、会社との関係ではXさんが株主と推定されます。
②の免責的効力とは、株主名簿に株主と記載されている者を株主として扱えば、会社は原則としてすべての責任から解放されるという効力のことです。
例えば、①の例で、会社がXさんに対して剰余金配当を行い、真実の株主であるYさんが会社に対して損害賠償請求した場合でも、会社は原則として責任を負わなくてもいいのです。ただし、会社は善意・無重過失でなければなりません。
③の確定的効力とは、株主は名義書換を行わない限り、会社・第三者(株券発行会社では会社)に対し株主であることを対抗できないという効力です。対抗力とも言います。
会社に対抗できないだけですから、会社側が新しい株主を真実の株主と認めることは可能です。また、会社が株主による名義書換請求を不当拒絶した場合は、株主であることを対抗できます。
3.株主名簿の基準日の制度
会社が一定の日(基準日)を定め、その基準となる日において株主名簿に記載されている株主を、その権利を行使すべき株主と見なす制度です。これは、会社が株主として権利行使をさせるべきものを確定する制度とも言えます。
具体的に説明すると、上の図で、6月30日の株主総会に出席し権利を行使できる株主は、決算日である3月31日現在における株主です。決算日を基準日とし、この日における株主を権利行使できる株主と確定します。
つまり、株主総会に出席し権利を行使できる株主は、基準日である決算日の最終株主名簿に記載された株主とするのです。
株式とは~その3
株式についていろいろ勉強してきましたが、今回がその最終回です。
1株の単位である出資単位の調整について、①出資単位の決定と変更、②株式の消却、併合、分割、無償割当て、③単位株制度、④利益供与の禁止――の順で解説します。
Ⅰ.出資単位の決定と変更
会社法では、出資単位をいくらとするかについて、各会社が自由に決定してよいとしています。
出資単位が大きい場合のメリットは株主管理コストとの均衡がとれること、デメリットは零細な資本しか持たない者は出資できないこと、株式の流通性が低いことです。
一方、出資単位が小さい場合のメリットは零細な資本しか融資ない者も出資できること、株式の流通性が高いこと、デメリットは株主管理コストとの均衡が取れないこと――と、両者のメリット・デメリットが真逆になります。
出資単位は次の数式で表せますので、出資単位を大きくするには会社の財産を減らさずに発行済株式総数を減らし、出資単位を小さくするには会社の財産を増やさずに発行済株式総数を増やせばいいのです。具体的な方法は次のⅡの項で解説します。
また、1株の価値は大きくせず、いくつかの株式をまとめて1単元として、1単元の株式に1個の議決権を与える単元株制度を採用して出資額を大きくすることも可能です。Ⅲ項で詳しく解説します。
Ⅱ.株式の消却、併合、分割、無償割当て
上記で説明したように、出資単位の調節は自由にできますが、その方法を
①株式消却
②株式併合
③株式分割
④株式無償割当――の順に勉強しましょう。
①の株式消却とは、会社が存続中に特定の自己株式を絶対的に消滅させ、発行株式総数を減少させる行為です。取締役会非設置会社(後述します)では取締役が、取締役会設置会社では取締役会が決定します。
②の株式併合とは、複数の株式を合わせて発行済株式総数を減少させる行為で、株式消却が会社の自己株式のみについて行われるのに対し、全株式について一律に行われます。
株式併合は、株主管理コストを抑える、株式単位の適正化を図る目的でなされますが、併合の倍率によっては、少数の株式しか持たない株主が株主としての地位を失うこともあり得るので、取締役は、株主総会で株式の併合が必要な理由を説明し、特別決議による必要があります。
特別決議とは、原則として、株主総会において議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主の出席で、出席した株主の議決権の3分の2以上に当たる多数を持って行われる決議のことです。なお、定款で定足数や議決数を別に定めている場合にはそれに従います。
③の株式分割とは、既存株式を細分化して発行済株式総数を増加させる会社の行為で、株式の市場コストを下げ、取引をしやすくして流通性を高める目的でなされます。
株式分割は既存株主の利益に実質的に影響しないので、株主総会の普通決議によって行います。また、取締役会設置会社においては取締役会の決議で行います。
④の株式無償割当とは、発行済株式総数を増加させる目的で、既存株主に対し、新たな払込みをさせないで株式の割当を行う会社の行為です。
定款に別段の定めがない限り、その都度株主総会の普通決議(取締役会設置会社では取締役会決議)によって行います。
株式分割と株式無償割当の違いは、
a株式分割は同一の種類の株式の数が増加するのに対し、株式無償割当は同一または異なる種類の株式を割当てることが可能
b株式分割は自己株式の数も増加するのに対し、株式無償割当は自己株式には割当が生じない、
c株式分割は自己株式の交付は不可能なのに対し、株式無償割当は自己株式の交付が可能――の3点です。
Ⅲ.単位株制度
単位株制度とは、定款で定めた一定数の株式をまとめたものを1単元とし、1単元株式には1議決権を認めるけれども、単元未満株式には議決権を認めない制度です。単元株制度により、議決権行使に伴う株主管理コストを削減すると同時に、小さな株式単位を維持することで株式の流通性も確保できるメリットがあります。
会社の成立後に、単元株制度を採用し、または単元株式数を増加する場合、株主総会の特別決議による定款の変更が必要です。これに対して、会社が単元株制度を廃止、または単元株式数を減少させる場合は、取締役の決定(取締役会設置会社では取締役会決議)によって、定款を変更することができます。
1.適用範囲
原則として範囲の制限はなく、会社の定款によって1単元の株式を定めることができます。ただし、1単元を構成する株式の数は、1000および発行済株式総数の200分の1以内でなければなりません。議決権を有する株主があまりに少なくなってしまうことを防ぐためです。
また、種類株式を発行している会社では、種類株式ごとに出資単位が異なるのが通常なので、1単元を構成する株式数は種類株式ごとに定めなければなりません。
2.単元未満株主の権利
例えば、1000株を1単元にした場合、500株の株主は単元未満株主となり、議決権は認められません。しかし、単元未満株主には、次の権利が与えられています。
まず、単元未満株主は、会社に対して単元未満株式の買い取りを請求することができます。これにより、投下資本の回収が図れます。
次に、単元未満株主が議決権を行使するために、会社に対して1単元に満たない数の株の売却を請求できます。つまり買い増し請求です。ただし、これは定款に定めがある必要があります。
また、議決権とそれを前提とした権利(例えば株主提案権など)以外の、共益権や自益権については、定款で制限されていない限り原則として認められます。
Ⅳ.利益供与の禁止
会社は、企業経営の健全性を確保するとともに、会社財産の浪費を防止するため、誰に対しても、株主の権利の行使に関して、会社またはその子会社の計算で財産上の利益を供与してはなりません。子会社の計算でとは、子会社に資金を拠出させてという意味です。
一方、財産上の利益供与を受けた者は、それを会社またはその子会社に返還しなければなりません。また、利益供与に関与した取締役などは、供与した利益の額について会社に対して連帯して支払いする義務を負います。