行政法 国家賠償法1

国家賠償法
(昭和二十二年十月二十七日法律第百二十五号)

国家賠償制度

行政法もいよいよ大詰め、頑張りましょう! 今回は、行政活動によって被害が発生した場合、国や公共団体に賠償責任を負わせ、国民を救済する制度の一つ国家賠償制度を勉強します。
今回の講義の内容は、①公権力の行使に基づく賠償責任、②公の営造物の設置・管理の瑕疵に基づく責任――についてです。

国家賠償は、行政活動が違法な場合に対応する救済制度です。明治憲法下では、国家無答責の原則が通用し、国・公共団体の不法行為責任は否定され、例外的に非権力的な行政活動や工作物によって被害が発生した場合に、民法709条の不法行為の定めによる責任のみが発生するものとされていました。現在の私たちには考えられないことですが、これが当時の常識でした。
第二次世界大戦後、日本国憲法の制定により、国家賠償請求権が保障されることになりました(憲法17条)。国家賠償法は、憲法上の国家賠償請求権が具体化したもので、これにより公務員の不法行為について、国または公共団体の責任が一般に認められることになったわけです。
国家賠償法には、1条に
①公権力の行使に基づく賠償責任
2条で、
②公の営造物の責任――の2つが定められています。

Ⅰ.公権力の行使に基づく賠償責任
まず、公権力の行使に基づく賠償責任を見ていきましょう。簡単に1条責任と呼ばれています。1条責任は、公務員が職務執行に当たり国民に違法に損害を負わせた場合に、公務員が所属する国または公共団体が賠償責任を負うというものです。

違法行為をしたのが公務員(個人)なのに、責任を負うのが国や公共団体というと、民法に似た定めがあったことを思い出しませんか?
715条の使用者責任です。被用者が不法行為をした場合に、使用者が賠償責任を負うというものでしたね。
つまり1条責任を民法715条の特則と考えると、国家賠償法1条の法的性質は、本来公務員が負うところの責任を国または公共団体が負うという、代位責任であると考えられます。
しかし、1条責任を1個人に対する代位責任と考えると、複数いるどの公務員に過失があるか判明しない場合に、賠償責任の要件の成立を認めにくくなります。
そこで、判例では、例えば公務員A、B、Cのうち、どの公務員に過失があるか判明しない場合でも、A、B、Cの誰かに過失があることが確実で、かつ3人がすべて国か、同一の公共団体に属するというように同じ組織に存する場合には、賠償責任の成立を認めています。
次に1条責任の要件です。次の①~⑤が満たされた場合に成立します。
①公権力の行使に当たる公務員の行為であること
②職務を行うについてなされたものであること
③加害行為が違法であること
④公務員に故意・過失があること
⑤損害の発生があること

1.公権力の行使に当たる公務員の行為
1条責任は、加害行為が公権力の行使に当たる場合に認められる、つまり、次の2条1項の営造物の設置・管理作用と私経済的活動を除くすべての行政作用が対象ということです。国家賠償法における公権力の行使の概念は、行政手続法や行政不服審査法、行政事件訴訟法における公権力の行使よりも広い概念と言えます。
具体的には、公務員の不作為はもとより、立法権や司法権も公権力の行使に含まれます。また、加害者は公務員であることが必要ですが、公務担当者であればよく、国家公務員法や地方公務員法に定められた公務員に限定されているわけではありません。
なお、国・公共団体の私経済的活動に基づく損害は、公権力の行使に該当せず、国家賠償法1条ではなく、民法709条以下が適用されます。
下記に判例による公権力の行使の該当性についての肯定例と否定例を挙げますので、確認してください。
☆肯定例
・公立学校のクラブ活動中の事故についての顧問教諭の監督(最判昭58.2.18)
・公立学校の体育授業中の教師の教育活動(最判昭62.2.6)
・行政指導(最判平5.2.18など)
・国による国民健康保険法上の被保険者資格の基準に関する通達の発出(最判平19.11.1)
・拘留されている患者に対して拘置所職員たる医師が行う医療行為(最判平17.12.8)
・県の委託を受けた社会福祉法人の施設職員による養育監護行為(最判平19.1.25)
☆否定例
・国立大学付属病院における通常の医療行為(最判昭36.2.16)
→民法上の責任が生ずる。ただし、強制的な予防注射の接種や措置入院などは肯定

2.職務を行うについてなされたもの
判例によれば、加害行為は客観的に職務行為の外形を備えるものであればよく、公務員個人の主観的意図は問わないとする外形標準説が採られています。
例えば、民間人や警察官でない公務員が警察官の格好をして他人を殺傷したとしても、国家賠償法1条に基づく損害賠償請求は認められないことになります。

3.加害行為の違法性
公権力の行使は原則としてその根拠となる行為規範に基づいて行われます。したがって、違法とは、行為規範である法条に違反して公権力が発動した場合を指しますが、この場合の行為規範には、行為の根拠規範だけでなく、権力の行使を制約するいろいろな制約規範も含まれます。
例えば、職務上、通常、尽くすべき注意義務を尽くさなかった=注意義務を怠った場合も当てはまるとされています。
また、権限の不行使の違法性について、判例では、具体的事情の下、その権限付与の趣旨目的に照らして著しく不合理であると認められる場合でない限り違法の評価を受けるものではないとしています(最判平元.11.24:宅建業法事件)。
違法・合法についての判例を次で確認してください。
☆合法
・宅建業者に対する業務停止ないし免許取消権限の不行使(最判平元.11.24)
・医薬品の製造承認の取消権限の不行使(最判平7.6.23)
☆違法
・鉱山保安法に基づく保安規制の権限の不行使(最判平16.4.27)
・公共用水域の水質の保全に関する法律及び工業排水等の規制に関する法律に基づく規制権限の不行使及び県漁業調整規則に基づく規制権限の不行使(最判平16.10.15)

4.公務員の故意・過失
1条責任における故意とは、当該公務員が職務を執行するに当たり、当該行為によって客観的に違法とされる事実が発生することを認識しながら、職務を執行することです。また、過失とは、当該行政処分が違法であることを認識すべきであったのに、認識しなかったことを意味します。
国家賠償請求をするには、加害公務員を特定することが必要です。しかし、違法行為をした公務員を特定できないからと言って、損害の発生が明らかなのに国家賠償責任を否定することは妥当ではありません。そこで、判例では、ある一定の場合、当該公務員が国、自治体等のいずれかに属するかを明確にすれば、加害公務員を特定する必要はないとされています(最判昭17.4.1)。

5.損害の発生
損害には、生命、健康、財産に関わるもののほか、精神的損害も含まれます。
判例では、認定申請に対し処分が長期間にわたり遅延した場合は、一定の要件のもと、申請者の焦燥感・不安感を抱かされないという利益が法的保護の対象になるとしています(最判平3.4.26:水俣病認定遅延訴訟事件)。
下記に1条に関する様々な判例を挙げますので、確認してください。

次は、効果を説明します。当然ながら1条責任の効果は、国または公共団体の賠償責任です。この場合、民法715条の使用者責任と異なり、国・公共団体が、加害者公務員に対する選任・監督について過失のないことを立証しても、賠償責任を免れることはできません。
ただし、国・公共団体が賠償義務を履行した場合は、加害公務員に故意または重過失があったときは、当該公務員に対して求償権を行使できます(1条2項)。なお、被害者が加害公務員に対して直接損害賠償請求を行うことはできません。

Ⅱ.公の営造物の設置・管理の瑕疵に基づく責任
次に国家賠償法2条に規定されている営造物責任=2条責任について見ていきましょう。公の営造物とは、公共目的のために利用されているもののことで、公の営造物に設置管理の瑕疵に基づいて損害が発生した場合に、国や公共団体が被害者に賠償責任を負うものを2条責任と言います。民法にも類似の責任がありますね。717条の工作物責任です。ただし、営造物責任の定めの適用範囲は工作物に限らないというように、民法717条より拡大されています。
そして、1条責任と違い、明治憲法下でも認められていた賠償責任です。

次に、2条責任の成立要件を見ていきましょう。成立要件は次の2つです。
①公の営造物であること
②設置または管理の瑕疵に基づく損害であること
①について、公の営造物は国や公共団体によって設置・管理される物や施設のうち、公の目的のために供される有体物と定義されていますから、国や公共団体に所有権がなければならないわけではありません。また、条文での道路・河川は例示であり、普通財産以外の公の目的に供されている物は広く該当します。
②については、国または公共団体が事実上設置または管理している状態にあれば足り、必ずしも法令所定の権限に基づく必要はありません。
判例においても、市が法令に基づかず事実上管理していた河川における転落事故でも、河川を市が管理する公の営造物に当たるとしています(最判昭59.11.29)。
また、瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、これに基づく国・公共団体の賠償責任は過失の存在を必要としない無過失責任として、瑕疵の存否は営造物の構造、用法、場所的環境および利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的・個別的に判断すべきとされています。
しかし、無過失責任とは、結果責任ではなく、損害が不可抗力に基づく場合は瑕疵には当たらず、国・公共団体は免責されます。さらに判例では、被害者の通常の用法に即しない行動の結果損害が生じた場合は、営造物の設置・管理者の責任は否定されます。
では、具体的事例を見ていきましょう。
まず道路の瑕疵、国・公共団体の予算不足は免責事由に当たらないとしています。
判例では、道路の安全性が著しく欠如する状態であったにも関わらず、道路の安全性を保持するための措置をまったく講じない場合には、道路管理の瑕疵があるとしている一方で、道路管理者が時間的に対応する余地がなかったことを理由として瑕疵を否定しているので、安全対策をとり得る時間的間隔の有無が、判断上重視されていると言えます。
次に河川の瑕疵です。河川は自然発生的な公共用物であり、自然界にもともと危険な状態で存在しているものですし、治水事業の費用は多額です。そこで、河川の瑕疵については予算不足が免責事由となり得るとしている判例もありますが、瑕疵の有無を画一的に判断しているわけではありません。
まず、同種・同規模の河川管理の一般水準及び社会通念に照らして是認し得る安全性を備えているか否かを基準とし、未改修河川の場合は、河川の改修、整備の過程に対応する過渡的安全性で足りるとされています(最判昭59.1.26:大東水害訴訟)。
一方、改修済河川の場合は、改修がなされた段階で想定されていた洪水に対応し得る安全性を備えていたか否かを基準とします(最判平2.12.13:多摩川水害訴訟)。
また、営造物の瑕疵には、物理安全性の欠如のみならず、対外的・作用的危険性も含まれます。つまり、営造物の利用者との関係では欠如はないものの、周辺住民に騒音等の被害が及ぶような場合も営造物の設置・管理上に瑕疵があるとされています。このような瑕疵を社会的営造物瑕疵あるいは、機能的瑕疵と言います。
2条責任の効果は、国・公共団体の賠償責任です。この場合、ほかに損害の原因について責めに任ずべき者があるとき、国・公共団体は、これに対して求償権を有します。求償の要件は、1条責任と同じく故意・重過失です。また、被害者が直接加害者公務員に対して損害賠償請求を行うことができないことも同様です。
次には公の営造物の設置・管理の瑕疵に関する判例を挙げますので、確認してください。

最後に国家賠償のまとめとして、上記以外の事項をお話しします。

まず、国家賠償責任の主体(賠償責任者)=国家賠償請求訴訟の被告は、国または公共団体です。国家賠償請求の相手方が明らかでないのでは、国民を救済できないので、法律により相手方は定められています。1条責任において、加害公務員の選任・監督者(行政管理者)と費用負担者が異なる場合は、被害者はどちらに対しても損害賠償請求ができます。
また、国が地方公共団体に支出する金銭には、地方交付税のほか国庫負担金、国庫委託金、国庫補助金――の3種類がありますが、このうち国庫負担金と国庫委託金を支出する国には費用負担者としての責任があることは明らかと言えます。また、国庫補助金も、国が法律上一定の負担義務を負う場合には費用負担者に足るとするのが判例です。
☆費用負担者の範囲に関する判例(最判昭50.11.28)
国家賠償法3条1項の設置費用の負担者には、当該営造物の設置費用につき法律上負担義務を負う者のほか、この者と同等もしくはこれに近い設置費用を負担し、実質的には当該営造物による事業を共同して執行していると認められる者で、当該営造物の瑕疵による危険を効果的に防止し得る者も含まれる。
次に国家賠償法に規定のない事項は、民法の規定が適用されます(4条)。具体的には民法の不法行為に関する規定(民法719条)、過失相殺(同法722条)、消滅時効(同法724条)等が補充的に適用されます。また、失火責任法も民法の規定として適用されるという判例も存在します。
なお、国家賠償法による場合と比べて国または公共団体の責任を加重または軽減する規定が民法以外の法律にあるときは、当該規定が優先して適用されます(5条)。
ところで、国家賠償請求訴訟は民意訴訟として提起されます。また、行政処分が違法であることを理由として国家賠償の請求をする場合には、あらかじめ当該行政処分について取消しまたは無効確認の判決を得る必要はありません。
もし、外国人が被害者である場合は国相互の保障がある場合に限り、国家賠償法が適用されます(6条:相互保障主義)。つまり、被害者たる外国人の本国で日本国民が賠償を受けられる場合に限り、当該外国人に国家賠償法が適用されるのです。

第一条    国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
○2  前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。
第二条    道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。
○2  前項の場合において、他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、国又は公共団体は、これに対して求償権を有する。
第三条    前二条の規定によつて国又は公共団体が損害を賠償する責に任ずる場合において、公務員の選任若しくは監督又は公の営造物の設置若しくは管理に当る者と公務員の俸給、給与その他の費用又は公の営造物の設置若しくは管理の費用を負担する者とが異なるときは、費用を負担する者もまた、その損害を賠償する責に任ずる。
○2  前項の場合において、損害を賠償した者は、内部関係でその損害を賠償する責任ある者に対して求償権を有する。
第四条    国又は公共団体の損害賠償の責任については、前三条の規定によるの外、民法 の規定による。
第五条    国又は公共団体の損害賠償の責任について民法 以外の他の法律に別段の定があるときは、その定めるところによる。
第六条    この法律は、外国人が被害者である場合には、相互の保証があるときに限り、これを適用する。
附 則 抄
○1  この法律は、公布の日から、これを施行する。
○6  この法律施行前の行為に基づく損害については、なお従前の例による。

 

 

損失補償

行政救済の二つ目は、損失補償です。損失補償は、適法な公権力の行使によって加えられた特別の犠牲に対し、公平の見地から全体の負担において調節するための財産的保障のことで、適法行為に基づく財産権の損失に対する補償である点で、国家賠償と区別します。
損失補償は、憲法でもある程度勉強しましたので、そこではあまり触れない部分を重点的に解説します。具体的には、①損失補償の意味、内容、方法、②国家賠償と損失補償の谷間――についてです。

Ⅰ.損失補償の意味、内容、方法
損失補償は、国・公共団体の適法な行政活動により加えられた財産上の特別な損失について財産的補てんを行うものです。そこで、損失補償の趣旨は、公益のための権利制限により特別な犠牲を負った人に対して、損失を補てんすることで平等原則を実現することにあると言えます。
適法な行政活動としては、公共事業のための財産の強制的取得(=公用収用)や、公共の利益を満たすために特定の財産に制限を加える場合(=公用制限)などが考えられます。
公用収用の例は、道路やダムなどの建設のための土地の取得、公用制限の例は、砂利採取制限、ため池の堤とう部分の使用禁止、食品添加物としての指定の取消し、自然公園指定に伴う財産権制限――などです。
損失補償には、国家賠償と異なり一般法が存在しません。土地収用法や道路法など個別に定められている以外は、憲法29条3項を根拠に補償請求する余地があると言えます。
権限の制限がある場合では、常に補償が必要なわけではありませんから、補償の要否を判断する必要がありますし、さらに、補償が必要な場合でも、その内容をどの程度と見るのかは難しいところです。憲法でもお話ししましたが、補償の要否については①形式的基準と②実質的基準――を持って判断するのが通説となっています。
また、補償の内容については、原則として当該財産の市場価格を基準とした完全補償が憲法上要求されるとするのが、判例です。
例えば、土地収用における補償額に関する判例では、収用されることを予定した建築制限付き土地の収用においては、収用の前後を通じて財産価値を等しくさせるような補償をすべきであるから、補償額は、建築制限を受けていなければ裁決時において有するであろう価格が基準となっています。
憲法では、損失補償は主に財産権に対する補償を問題として扱われていましたが、行政法では、さらに進んで、損失と考えられるもの一般についての保障を問題としています。
具体的には、憲法的な発想なら財産権が侵害された場合、市場価格による補償が与えられれば完全補償がなされたことになりますが、行政法では、行政活動がなかったのと同様の状態が回復されなければ完全補償とは言えないことになります。発生した損失を特別な犠牲と捉え、その補てんをする必要があると考えると、直接にはく奪された権利以外に発生した不利益についても補償しなければならないというのが、行政法的な発想です。
具体的には、土地収用法を見てみると、土地の一部を収容した結果、残った部分の地価が低下した場合、その分の補償も必要とされます(=残地補償)。また、収用する土地上にある物件を移転するための費用も補償の対象になります(=移転補償)。このように、波及的に発生する損失も補償の対象になるわけです。
また、土地収用法では、上記のように積極的に発生する損失のほかにも、通常受ける損失を補償しなければならないとも定めています(88条)。その例が、離作料、営業上の損失、建物移転による賃料の損失――など得られるべき利益についての補償です。
一方で、経済的価値には当たらない特殊な価値、つまり個人的な思い入れや、文化財的価値は、通常受ける損失には当たらず、補償の対象とはなりません。
次に、補償の方法です。原則として金銭補償です。損害賠償と同じく適切な補償額の調整をしやすいからです。もっとも、例外的に、土地収用法82条1項のように、個々の法律に定めがあれば現物補償も認められています。
補償されるべき人が複数いる場合、金銭の支払い方法は、原則として個別的に支払います。例外として、一括払いが認められている場合もありますが、個別に見積ることが困難な特殊な場合に限られます。
補償の時期は、土地収用をめぐる法律関係は、従来の所有者を売主に、事業者を買主に見立てることができるので、財産供与と補償が同時履行の関係にあるのが適切と言えそうですが、利用制限を考慮すると、常にこのような関係が成り立つとは言えません。
そこで、判例では、財産の供与と補償は当然に同時履行の関係にあるとは言えず、同時履行とするには、その旨の法律の規定なり、契約なりが存在することを要するとしています。

Ⅱ.国家賠償と損失補償の谷間
国家補償を巡る問題として、国家賠償と損失補償の谷間について触れておきます。国家賠償と損失補償の谷間とは、違法無過失な行為に基づいて損害が発生した場合です。
つまり、違法であっても無過失な行為に基づいて損害が発生した場合には、過失責任主義を採る国家賠償の対象にはできません。また、財産上の損失ではないため、損失補償の対象にもできません。となると、この場合に被害者を救済する方法はないのでしょうか?
この問題は、予防接種に伴い副作用が発生した者の救済をどうするかという問題として検討されてきました。副作用の発生の可能性が高い禁忌者に予防接種をすることは違法に当たるでしょうが、そのことに気付かないで接種したことに過失を認定することが困難という場合です。
地裁レベルの判例ですが、損失補償の一種と見て憲法29条3項を類推適用することで解決を図ったものがあります。しかし、判決の主流は、国家賠償の対象として処理を試みています。
具体的には、予防接種の場合には、接種に当たり禁忌者かどうかを区別する点に、実施者に高度な注意義務を課します。そして、この義務に違反していないか、義務違反がなくても副作用が発生する者であったかのいずれかを証明できない限り、過失を推定することにしました。その上で、禁忌者か否かを見抜くのに必要な措置をとる義務を組織の長である厚生労働大臣に負わせることで、国家賠償請求が成立することを認めるとしたのです。
なお、予防接種以外で、違法無過失な場合について賠償請求を認める必要があるときに、営造物や設置管理の概念を緩和して、2条責任を広く認めた判例もあります。

 

スポンサーリンク

スポンサーリンク

関連記事

  1. 5-8 ×問題演習 国家賠償法 0問

  2. 5-9 ×問題演習 行政代執行法 0問