憲法 10条-12条/103条 人権

第三章 国民の権利及び義務

第十条
日本国民たる要件は、法律でこれを定める。

第十一条
国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。

今回から行政書士試験では必ず出る人権の話をしていきます。インターネットなどで「人権」と検索すると、「人間が人間らしく生きるために、生まれながらに持っている権利」のように出てくることが多いと思います。

でも、そのときは「なるほど」と思っても、では、「人間が人間らしく生きるとはどういうことか」とか、「生まれながらに持っている権利とは何なのか」など、また疑問が出てきてしまうことが多いのではないでしょうか? 具体的には次回から細かく出てきますので、そこで一つずつ覚えていくこととして、今日は、人権の全体像をつかみたいと考えています。
さて、これから人権についての学習を進めるうえで常に頭に置いてほしいのは、「人権は、私たちが社会生活において幸福な生活を営むためにどうしても必要な権利」ということです。これは、よく出てくる「人間が人間らしく…」のくだりと、まったく同じ意味です。少しだけ、分かりやすくなりましたね。
このことは、憲法では第11条に該当し、
「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。」
と規定されています。一般的に言う「基本的人権の尊重」です。

人権は生まれながらに当然持っている権利ですから、本来は、人権は、生物学的な人間(自然人)に認められた権利です。しかし、民法では会社や財団などの法人にも権利の主体となることを認めています。
そこで、憲法でも人権を性質上可能な限り認めることにしています。性質上可能な限りというのは、例えば、人身の自由などは認めたくても認められませんね。そういう人権を除いて認めているのです。
法人の人権で、保障される人権と保障されない人権は次のとおりです。
【保障される人権】
①精神的自由権
②経済的自由権
③刑事手続上の諸権利
④受益権
【保障されない人権】
①選挙権
②社会権
③人身の自由
一方、法人に人権を保障することの意味は、究極的には個人の尊厳の実現につながることにあるわけですから、法人の人権保障がかえって個人の人権の侵害にならないように、特に法人を構成する個人の人権が不当に圧迫されないように慎重に検討する必要があると言えます。
まず、次の判例を見てください。法人に政治献金をする自由が保障されるかが問われた「八幡製鉄政治献金事件」です。

判例では、憲法の人権規定はその性質上可能な限り内国法人にも適用されることを明らかにしています。さらに、政党が議会制民主主義を支える上で、不可欠の存在であることを認めている点も注目してください。
また、「南九州税理士会政治献金事件」を見てみましょう。

こちらの判例では、税理士会が特定の政党に政治献金を行うことは、税理士会の目的外の行為ということで、献金行為を無効としています。
つまり、2つの事件を比べてみると、1企業としての政治献金は、収益をあげるという会社の目的にとって有効であるから認められ、会員同士の連携を図ったり会員相互のレベルアップが目的の特定な職業人の集まりである会にとっては、政治献金は有効とは言えないので、認められない――ということになります。
税理士会と同じような会の司法書士会が、政治献金ではなく災害復興支援のために募金を募ったことがありました。この場合の集金は違憲となるのでしょうか。「群馬県司法書士会事件」をご覧ください。

南九州税理士会事件では違憲だった寄付行為ですが、目的が復興支援金となった群馬司法書士会事件では合憲となりました。
以上の3つの事件を下記に一つの表でまとめます。

法人の人権は?

八幡製鉄事件(最大判昭45.6.24)

事例

八幡製鉄株式会社の株主Aは、同社の代表取 締役Bが同社名で自由民主党に政治献金をし たことは、同社の定款に記載する事業目的の 範囲外の行為であり、かつ、Bの行為は忠実 義務(会社法355条)に違反するとして、責任 追及等の訴え(847条1項)を提起した。

判例の 見解

①憲法は、政党の存在を予定しているか。

憲法は政党について規定するところがな く、これに特別の地位を与えてはいないので あるが、憲法の定める議会制民主主義は政党 を無視しては到底その円滑な運用を期待する ことはできないのであるから、憲法は、政党 の存在を当然に予定しているものというべき であり、政党は議会制民主主義を支える不可 欠の要素なのである。 ②会社が政治資金の寄附をすることは、会 社の定款に記載された目的の範囲内の行為 か。

会社による政治資金の寄附は、客観的、抽 象的に観察して、会社の社会的役割を果たす ためになされたものと認められるかぎり、会 社の定款所定の目的の範囲内の行為である。 ③憲法の人権規定は、法人にも適用される か。適用されるとした場合、会社は政治資 金の寄附をする自由を有するか。

会社が、納税の義務を有し自然人たる国民 とひとしく国税等の負担に任ずるものである 以上、納税者たる立場において、国や地方公 共団体の施策に対し、意見の表明その他の行 動に出たとしても、これを禁圧すべき理由は ない。のみならず、憲法第3章に定める国民 の権利および義務の各条項は、性質上可能な かぎり、内国の法人にも適用されるものと解 すべきであるから、会社は、政党の特定の政 策を支持、推進しまたは反対するなどの政治 的行為をなす自由を有するのである。政治資 金の寄附もまさにその自由の一環であり、会 社によってそれがなされた場合、政治の動向 に影響を与えることがあったとしても、これ を自然人たる国民による寄附と別異に扱うべ き憲法上の要請があるものではない。

判例の POINT

①本判決は、法人が人権享有主体であること を認めた初めての最高裁判決である。法人が 人権享有主体であることの理由については、 判例の見解①の直前で、「自然人とひとし く、国家、地方公共団体、地域社会その他の 構成単位たる社会的実在である」と述べてお り、法人が自然人と同様に社会的実在である ことに求めている。 ②法人がいかなる範囲で人権を享有するかに ついては、個々の人権の性質を検討し、可能 な限り法人にも人権保障を及ぼそうとする性 質説が通説であるが、本判決も性質説を採用 している。 ③人権が保障される程度については、法人は 自然人と異なる制約を受けるというのが通説 である。しかし、本判決は、納税者という立 場で法人と自然人は異なるところがないとの 理由から、法人も自然人と同様の政治資金の 寄附をする自由を有するとしている。この点 は、批判が多い。

南九州税理士会事件(最判平8.3.19)

事例

強制加入団体 (*) である南九州税理士会 は、税理士法を有利に改正させる目的で税理 士政治連盟に政治献金をすることとし、その ための特別会費を会員から徴収する旨の決議 をした。同会の会員であるAは、決議に反対 して徴収を拒否したところ、同会から懲戒処 分を受けたため、特別会費納入義務の不存在 確認の訴えを提起した。 (*)入会が間接的に強制され、かつ、事実上、 退会の自由が保障されていない団体。

判例の 見解

①政治献金をするために会員から特別会費 を徴収する旨の税理士会の決議は有効か。

税理士会が政党など政治資金規正法上の政 治団体に金員の寄付をすることは、税理士に 係る法令の制定改廃に関する政治的要求を実 現するためのものであっても、税理士会の目 的の範囲外の行為であり、右寄付をするため に会員から特別会費を徴収する旨の決議は無 効である。 ②税理士会は、政治団体に対する政治献金 について、会員に協力を義務づけることが できるか。

税理士会は、法人として、法及び会則所定 の方式による多数決原理により決定された団 体の意思に基づいて活動し、その構成員であ る会員は、これに従い協力する義務を負う。 しかし、税理士会は強制加入団体であって、 会員には実質的に脱退の自由が保障されてい ないから、会員に要請される協力義務にも限 界がある。特に、政治団体に対する政治献金 は、選挙における投票の自由と表裏を成すも のとして、会員各人が市民としての個人的な 政治的思想、見解、判断等に基づいて自主的 に決定すべき事柄であるから、会員に協力を 義務づけることはできない。

判例の POINT

①政治献金について、八幡製鉄事件が会社の 目的の範囲内としたのに対し、本判決は、税 理士会の目的の範囲外としている。同じく 「目的の範囲内かどうか」という判断基準を 用いながら、結論が異なるのは、税理士会が 様々な思想信条を有する会員で構成されてい るにもかかわらず、事実上、退会の自由がな い強制加入団体であることを考慮したためで ある。 ②本判決は、政治献金をするかどうかは、選 挙における投票の自由と表裏を成すものであ り、個々人が自主的に決定すべきことと捉え ている。

チェック判例

阪神・淡路大震災により被災した兵庫県司法 書士会に復興支援拠出金を寄付することは群馬司 法書士会の権利能力の範囲内の行為であり、その ために会員から復興支援特別負担金を徴収する旨 の同会の総会決議は,同会がいわゆる強制加入団 体であることを考慮しても、会員の政治的又は宗 教的立場や思想信条の自由を害するものではな いから、その効力は会員に及ぶ(最判平 14.4.25)。

第十二条
この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

では、人権は絶対で無制約なものなのでしょうか?
実は、憲法では人権には限界があるとしています。
第12条に、
「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。」
と定めているのです。これは、ある人の人権を保障することが、他の人の人権を侵すことになることを禁止しています。
例えば、表現の自由も基本的人権の一つですが、他人のプライバシーを侵害する行為である場合は、制約を受けます。取材のためと称して芸能人の自宅に許可なく入って住まいを撮影し、週刊誌などに掲載したりすることが、これに当たります。
そして、この制約を「他者加害防止」と言い、「公共の福祉」とは、すべての人の人権がバランスよく保障されるように、人権と人権の衝突を調整することです。

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