憲法 41条-44条/103条 国会

第四章 国会

 

第四十一条  国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。

 

 

今回から、日本の統治機構について憲法を読みながら勉強していきます。行政書士試験でも、国会・内閣・裁判所のいずれの機関についてもよく出題されます。
前回までの人権では、条文に書かれている内容の意味や解釈の仕方とそれに関する判例を覚えていくことが大切でしたが、これからは、条文の暗記、つまり、条文を覚えていく作業が重要となってきます。もちろん、丸暗記をしてください、というのではなく、キーポイントとなる語句をしっかりと捉えていってくださいということです。
また、条文を読む際に2つのポイントで、捉えることも必要です。①は、「何(誰)がどんな仕事をしているか」といった視線で捉えます。②は、「どうしてか?」と常に考えながら見ていくことです。例えば、「議員の資格争訟の裁判は議員で行う」という55条ですが、①の視点からなら、条文をそのまま読めばいいのですが、②の視点から見ると、「議院の自律性尊重という観点から、司法権なのに裁判所ではなくて議員が行う」と読めるわけです。
さて、手始めは、国会です。ですが、国会の勉強に入る前に、権力分立(三権分立)について、中学校で習った内容をちょっと復習したいと思います。三権分立とは、フランスの政治思想家モンテスキューが提唱した権力分立の考え方で、近代国家の多くで採用されています。
その内容は、国家権力が1カ所に集中することによる権力の濫用や暴走を防ぐため、権能を立法権、司法権、行政権にそれぞれ独立して行使させ、お互いを監視し合うことによって健全な働きをさせる仕組みです。
憲法では、立法は国会が、行政は内閣が、司法は裁判所がそれぞれ担当するものと、それぞれ、41条、65条、76条で規定されています。

今回は、手始めとして国会の地位について解説します。憲法では41条と43条に規定された内容です。

Ⅰ.国民の代表機関

43条1項は、衆参両議院は全国民を代表する国会議員によって構成されるということを規定しています。これは、権力は国民の代表者が行使すると謳っている憲法前文と相まって、憲法が間接民主制を採用することを明らかにしたものです。
まず、「代表」とはどのような概念なのかというと、通説では、選挙によって表明される国民の多種多様な意思が、できるだけ国会にも反映されるべきだということを意味していると言われています。このような意味での代表のことを「社会学的意味の代表」と言います。
次に、「全国民を代表する」についての憲法上の意味ですが、次の2つの内容を持った自由委任(代表委任)の原則があるというのが通説です。
①国会議員は、選挙方法のいかんを問わず、すべての国民を代表する者として、すべての国民のために活動すべきである。
②国会議員は、自分の選挙区の選挙人の個別具体的な指示に法的に拘束されることなく、自分の良心に基づいて自由に意見を表明し、議決する権利を有する。
ところで、43条1項が、自由委任の原則を表明しているものとすると、①政党がその政党に所属する議員を、政党の政治的方針である党議で拘束すること、②比例代表制選挙で選出された議員が、その政党を離脱した場合には議員の資格を失うものとすること――が、自由委任の原則に違反しないか問題になると思いませんか? 次にそれぞれの通説を解説します。

1)党議拘束の問題
通説では、まず、党議に反する言動を行った議員を党から除名することは自由委任の原則に違反しないと理解されています。政党は、国民がその政治的な意思を国政に反映させるための最も有効な媒体の一つと考えられます。そこで、党議に従うことが代表という概念に当たることになるからです。
しかし、党議違反を理由に国会議員としての資格まで喪失させることは認められていません。それは、政党からの除名は政治的責任の追及の範囲ですが、国会議員の資格の喪失は法的責任の追及となり、自由委任の原則に触れるからです。
2)比例代表制と党籍離脱の問題
これには、①議席喪失説、②議席保有説――2つの相反して、かつ、どちらも有力な説があります。
議席喪失説では、比例代表制とは政党に着目した選挙方法だから、比例代表で選ばれながら、その政党を離脱した議員については、国会議員の資格を喪失させることが、国民の意思をより忠実に反映させると考えます。
一方、議席保有説では、自由委任の原則では、選挙方法のいかんにかかわらず、一旦選出された以上は、全国民のために活動すべきなのが議員ということになりますから、国会議員の資格を失うことはできないし、仮に、選挙後に党議自体が変更された場合なら、党議変更に反対して党から離脱した国会議員の方が国民の意思に忠実であると考えます。
これについては、どちらが通説という結論づけはできていません。
次に、43条2項の議員定数については、公職選挙法により衆参両議院の議員定数が定められています。現在のところ、衆議院の議員定数は480人(小選挙区300人、比例代表180人)、参議院の議員定数は242人(選挙区146人、比例代表96人)となっています。

Ⅱ.唯一の立法機関

41条では、まず、国会を「国権の最高機関」と謳っています。ここでの国権とは、一般に立法権、行政権、司法権など、統治活動をする様々な権力の総称を指すと考えられています。
最高機関については、①統括機関説、②政治的美称説――の2つがあります。
統括機関説とは、法的な意味も含むという考えで、行政権(内閣)と司法権(裁判所)など他の国家機関は国会の下位に置かれて、国権の発動の仕方について国会の意思に従わなければならないとする考え方です。
一方、政治的美称説とは、国会が国民の代表者たる議員によって構成されることを踏まえて、国会が重要な機関であることを宣言したに過ぎず、法的な意味は認められないという考え方です。
2つの説を比べ、日本国憲法が採用している三権分立制度を考えたとき、立法権、行政権、司法権の3権が互いに拮抗することで国家権力の横暴を防ごうとしているわけですから、②の政治的美称説が現在の通説となっているのです。
41条は次に、国会は国の唯一の立法機関と謳っています。これは、国会が立法権を独占することを宣言して、行政権についての65条、司法権についての76条1項と合わせて、三権分立を明らかにしています。
また、唯一の立法機関であることは、①国会中心立法の原則、②国会単独立法の原則――の2つの原則を意味します。

1)国会中心立法の原則
国会中心立法の原則とは、国が行う立法は、憲法に特別の定めがある場合を除いては、必ず国会で行わなければならない――という原則です。これは定義なので覚えてください。
この国会中心立法の原則で特に議論されるのは、委任立法(委任命令)がこの原則に違反しないかということです。委任立法とは、法律がその法律で定めるべき事項について、他の国法形式(特に行政権による命令)に委任することです。
例えば、国家公務員法は、国家公務員の政治的行為を制限する際、具体的に制限される政治的行為を何にするかについて、人事院の命令(人事院規則)に委任しています。
委任立法は、①委任立法を認めないのは非現実的であること、②憲法73条6号但し書で、「政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない」とあるので、法律の委任があれば命令の一種である政令によって罰則を設けることも可能ということ――2つの理由で、現在の解釈では可能であるとされています。
しかし、まったく無制限に委任立法を許したのでは国会中心立法原則が骨抜きになってしまいます。そこで、次の3つの制限が付されています。
①基本的な事項は法律で定めなければならず、包括的な委任、白紙委任は認められない。
②憲法上、国会に権限があることが明記されている事柄については、特に解釈上の根拠がない限り委任は認められない。
③委任立法が、法律が委任した範囲を逸脱したかどうかの判断権は国会にある。

2)国会単独性の原則
国会単独性の原則とは、国会の立法手続きには、国会以外の機関の参与を必要としない――という原則です。この定義も覚えてください。
この原則に関しては、現行の内閣法が内閣に法律案提出権を認めていることが、この原則に違反しないか問われることがあります。①憲法72条で謳っている議案に法律案も含まれると解釈するのが一般的であること、②閣僚の大半は国会議員であり、国会議員には法律案提出権があること、③たとえ内閣に法律案提出権を認めたとしても、国会はその法律案を自由に修正したり否決したりできること――などから、内閣に法律案の提出権を認めることは国会単独の原則に違反しないと考えられます。
なお、95条に規定されている「一の地方公共団体にのみ適用される特別法」については、国会の議決だけでなく、その地方公共団体の住民投票による同意が必要とされているので、これは憲法が認める国会単独立法の例外です。

また、別の視点で「唯一の立法機関」を見たとき、立法という言葉の意味には①形式的な意味と②実質的な意味――とがあることに注意が必要です。
形式的な意味の立法とは、その内容にかかわらず、国会の議決によって成立する国法の一形式としての法を制定することです。つまり、○○法という法律の名前が付いているということです。
これに対して実質的な意味の立法とは、法規という特定の内容の法規範を制定することです。そして、41条でいう立法とは実質的な意味です。なぜなら、もし、形式的な意味の立法であるとすると、本条が「国会は法律という名の法を成立させることができる」という、内容のない当たり前のことを宣言しただけになってしまうからです。

 

 

 

 

第四十二条  国会は、衆議院及び参議院の両議院でこれを構成する。

 

国会の2回目の今回は、国会の二院制と衆議院の優越について解説します。

Ⅰ.二院制

憲法42条は、  我が国の国会が衆参両議院によって構成されるという二院制の採用を明らかにしています。
二院性は世界各国で明らかにされていますが、その内容はそれぞれの国の歴史や二院性を採用した趣旨などによって異なります。
各国の二院性は、3つの類型に分かれます。我が国の憲法に直接かかわる事項ではありませんが、我が国の二院制を確かめる手がかりとなるので、少しだけお付き合いください。
1)貴族型
民選の第一院と非民選の第二院とで議会(国会)を構成し、貴族院である第二院はその国の貴族的な要素を代表するとともに、第一院に対して何らかの抑制を加えようとするものです。イギリスの二院性や、戦前の我が国明治憲法下で採用された二院性がこれです。
2)連邦制型
連邦制を採用する国においては、国民全体を代表する第一院のほかに、その国を構成する連邦(アメリカにおいては各州)を代表する議員から成る第二院の存在も認められる制度です。アメリカのほか、インド、オーストラリアなどの二院性がこの類型です。
3)民主的第二次院型
貴族制度が存在せず、連邦制でもない国では、一院制を採用しても差し支えないようにも思われますが、一方の院が他方の院に軽率な判断がないかをチェックするために、二院性を採用するケースがあります。現在の我が国の二院制はこの類型に属します。イタリアやベルギーなどもこの類型です。

さて、ここからが本題です。我が国の二院制が民主的第二次院型であることは、上記のとおりですが、その趣旨には、①一方の院が他方の院をチェックすることのほか、②上院(参議院)が下院(衆議院)と政府のクッションになること、③民意をよりきめ細やかに反映すること――などが挙げられます。
国会議員の任期は、衆議院議員が4年制でしかも解散制度によってその前に任期を終了する可能性もあるのに対し(45条)、参議院議員の任期は6年間で3年ごとに半数ずつ改選され、解散制度はありません(46条)。
この意図は、民意のきめ細かな反映を目指しつつ、参議院議員の身分を衆議院より安定させ、参議院の衆議院に対するチェック機能を有効にしようとしているところにあります。もっとも、現在のように、衆議院と参議院の多数政党が異なると、参議院や衆議院と政府の緩和剤となるという機能はあまり期待できませんが…。

民主的第二次型の二院制である我が国の議会には、①両院独立活動の原則、②両院同時活動の原則――という2つの原則があります。
両院独立活動の原則とは、衆参両議院はそれぞれ独立して議事を行い議決するという原則です。合同して議事を行い議決したのでは、わざわざ二院制をとった意味がありませんから当たり前の原則なのですが、衆議院で可決された法律案が参議院で否決された場合などに開かれることがある「両院協議会」はこの原則の例外なので覚えておきましょう。
両院同時活動の原則とは、衆参両議院は同時に召集され、同時に閉会するという原則です。衆議院が解散した場合には参議院も閉会するという54条2項の規定もこの原則からきています。この原則は、両院がバラバラに活動したのでは参議院のチェック機能が生かせないという二院制から当然に導かれるものと言えます。衆議院解散中の参議院の緊急集会はこの例外ですので覚えてください。

Ⅱ.衆議院の優越
権限の面に着目すると、衆議院と参議院はほぼ対等の関係にあります。しかし、①法律案の再度の議決、②予算の議決、③条約の承認、④内閣総理大臣の指名――において、衆議院の参議院に対する優越が認められています。
憲法が衆議院の優越を認めているのは、議院の任期や解散制度の有無などから、衆議院の方がより民意に近いと判断できることや、両院をまったく対等に置くよりも、安定した政治が期待しやすいことによると考えられています。では、①~④の内容を個々に見ていくことにします。
1)法律案の再度議決の優越

法律案とは、国会によって制定されるべき法律の原案として議院の審議に上げられるもののことを言います。この法律案が法律として成立するには原則として、両議院の可決が必要です(1項)。1項にある「特別の定がある場合」には、①両議院の可決がなくても成立する場合と②両議院の議決に加えて他の要件が必要な場合――の2種類があります。
①の場合はさらに2つあります。一つは、2項で定められている、衆議院で可決→参議院で否決→衆議院で出席議員の3分の2以上の多数で可決――した場合が挙げられます。この場合には衆議院の再議決のみで法律が成立するという衆議院の優越の原則が採用されます。衆議院で可決→参議院で60日以内に議決しない→衆議院の再議決(4項)でも法律が成立します。
もう一つは、参議院の緊急集会(54条)で、この場合も参議院の意思のみで国会の権能を果たせるので、憲法に明記されてはいませんが当然に法律が制定されると理解できます。ただし、この場合、次の国会の開会後10日以内に衆議院の可決を得なければ、効力を失うことになります。
②には、地方自治特別法があります。地方自治特別法は、両議院の議決だけでなく、その特別法の適用される地方の住民投票において過半数の同意が得られなければ法律は成立しません。
59条3項で規定しているのが両院協議会で、両院の議決が異なった場合にその妥協を図るために設けられる機関です。もっとも、衆議院が両院協議会の開催を求めることを妨げないと規定されているのであって、必ず開かなければならないわけではありません。

2)予算案の議決の優越

予算とは、一会計年度における国の歳入歳出の予定的見積りを内容とする国の財政行為の準則のことです。予算は内閣が作成して国会に提出しますが、60条1項により衆議院が先に審議する予算先議権を有します。
予算も法律と同様、両議院の可決で成立するのが原則です。しかし、①衆議院で可決→参議院で否決→両院協議会(法律案と異なり必ず開かれます)でも意見が不一致の場合、②衆議院で可決→参議院受け取り後、国会休会中を除き30以内に議決しない場合――のいずれも衆議院の議決が国会の議決となり、予算が成立します。
①の場合において衆議院の再議決は不要、②の場合において60日ではなく30日以内とされている――これらから、法律案よりもさらに衆議院の優越が強く認められていると言えます。

3)条約の承認の優越

条約を締結するに当たっては、国会の承認が必要ですが、その承認には、60条2項の予算の議決についての衆議院の優越が準用されます。なお、60条1項は準用されませんので、衆議院の先議権はありません。

4)内閣総理大臣の指名の優越

67条では、内閣総理大臣は国会の議決で指名されることが規定されています。内閣総理大臣がいないままで国政を遂行することはできないので、内閣総理大臣の指名は他の案件に先立って行われます。
内閣総理大臣の指名も、両議院がそれぞれ議決し、それらが一致して国会の指名の議決となるのが原則です。
しかし、①両議院の指名が異なり、両院協議会を開いても(必ず開く)意見が一致しない場合、②衆議院の指名後、国会休会を除いて10日以内に参議院が指名しない場合――には、衆議院の議決が国会の議決となります。
なお、衆議院の優越を表にまとめました。表を参考にすべて覚えてください。

 

 

 

 

第四十三条  両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。
2  両議院の議員の定数は、法律でこれを定める。

 

在外日本人選挙権制限規定違憲判決(最大 判平17.9.14)

事例

海外に在住する日本国民Aは、公職選挙法が 衆議院小選挙区及び参議院選挙区における選 挙権の行使を在外国民に認めていな い (*) のは違法であるとして、これらの選 挙においても選挙権を有することの確認と国 家賠償請求を求めた。 (*)平成10年の公 職選挙法改正で在外選挙制度 が創設された が、本件訴訟当時は、衆議院比例代 表及び 参議院比例代表に限って選挙権の行使を認 めていた。

判例の 見解

①選挙権の制限は、どのような場合に憲法 違反となるか。 憲法は、国民主権の原理に 基づき、両議院 の議員の選挙において投票 をすることによっ て国の政治に参加するこ とができる権利を国 民に対して固有の権利 として保障しており、 その趣旨を確たるも のとするため、国民に対 して投票をする機 会を平等に保障している。 憲法の以上の趣 旨にかんがみれば、自ら選挙 の公正を害す る行為をした者等の選挙権につ いて一定の 制限をすることは別として、国民 の選挙権 又はその行使を制限することは原則 として 許されず、国民の選挙権又はその行使 を制 限するためには、そのような制限をする こ とがやむを得ないと認められる事由がなけ ればならない。そして、そのような制限をす ることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙 権の行使を認めることが事実上不能ないし著 しく困難であると認められる場合でない限 り、上記のやむを得ない事由があるとはいえ ず、このような事由なしに国民の選挙権の行 使を制限することは、憲法15条1項及び3 項、43条1項並びに44条但書に違反する。 また、このことは、国が国民の選挙権の行使 を可能にするための所要の措置を執らないと いう不作為によって国民が選挙権を行使する ことができない場合についても、同様であ る。 ②在外国民の選挙権行使を衆参両議院 の比 例代表選挙に限ることは、憲法に違反 する か。

遅くとも、本判決言渡し後に初めて行われ る衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常 選挙の時点においては、衆議院小選挙区選出 議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙 について在外国民に投票をすることを認めな いことについて、やむを得ない事由があると いうことはできず、公職選挙法の規定のう ち、在外選挙制度の対象となる選挙を当分の 間両議院の比例代表選出議員の選挙に限定す る部分は、憲法15条1項及び3項、43条1 項並びに44条但書に違反する。 ③立法不作 為は、いかなる場合に国家賠償 法上違法と 評価されるか。 立法の内容又は立法不作為 が国民に憲法上 保障されている権利を違法 に侵害するもので あることが明白な場合 や、国民に憲法上保障 されている権利行使 の機会を確保するために 所要の立法措置を 執ることが必要不可欠であ り、それが明白 であるにもかかわらず、国会 が正当な理由 なく長期にわたってこれを怠る 場合などに は、例外的に、国会議員の立法行 為又は立 法不作為は、国家賠償法1条1項の 規定の 適用上、違法の評価を受ける。

判例の POINT

本判決は、在外国民の選挙権行使の制限を、 厳格な審査基準を用いて違憲と判断してい る。なお、本判決を受けて平成18年に公職 選挙法が改正され、衆議院小選挙区及び参議 院選挙区における在外国民の選挙権行使が認 められるようになった。

第四十四条  両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない。

 

衆議院議員定数不均衡訴訟(最大判昭 51.4.14)

事例

昭和47年12月に実施された衆議院議員選挙 千葉1区の選挙人Aは、議員1人当たりの有 権者数の格差(いわゆる「1票の格差」)が 最大で約1対5となっていることが投票価値 の平等を保障する憲法14条に違反するとし て、選挙無効の訴えを提起した。

判例の 見解

①憲法は、投票価値の平等を要求している か。

14条1項に定める法の下の平等は、選挙 権に関しては、国民はすべて政治的価値にお いて平等であるべきであるとする徹底した平 等化を志向するものであり、15条1項等の 各規定の文言上は単に選挙人資格における差 別の禁止が定められているにすぎないけれど も、単にそれだけにとどまらず、選挙権の内 容、すなわち各選挙人の投票の価値の平等も また、憲法の要求するところである。しかし ながら、投票価値の平等は、各投票が選挙の 結果に及ぼす影響力が数字的に完全に同一で あることまでも要求するものと考えることは できない。 ②投票価値の不平等は、どの程度に達すれ ば、憲法違反となるか。 投票価値の不平等が、国会において通常考 慮しうる諸般の要素をしんしゃくしてもな お、一般的に合理性を有するものとはとうて い考えられない程度に達しているときは、も はや国会の合理的裁量の限界を超えているも のと推定されるべきものであり、このような 不平等を正当化すべき特段の理由が示されな い限り、憲法違反と判断するほかはない。 ③投票価値の不平等が憲法違反と判断され る程度に達すれば、議員定数配分規定も直 ちに憲法違反と判断されるか。

人口の異動は不断に生じ、したがって選挙 区における人口数と議員定数との比率も絶え ず変動するのに対し、選挙区割と議員定数の 配分を頻繁に変更することは、必ずしも実際 的ではなく、また、相当でもないことを考え ると、…直ちに当該議員定数配分規定を憲法 違反とすべきものではなく、人口の変動の状 態をも考慮して合理的期間内における是正が 憲法上要求されていると考えられるのにそれ が行われない場合に始めて憲法違反と断ぜら れる。 ④投票価値の不平等が憲法違反を生じる場 合、議員定数配分規定は全体として違憲と なるか。

選挙区割及び議員定数の配分は、議員総数 と関連させながら、複雑、微妙な考慮の下で 決定されるのであって、一旦このようにして 決定されたものは、一定の議員総数の各選挙 区への配分として、相互に有機的に関連し、 一の部分における変動は他の部分にも波動的 に影響を及ぼすべき性質を有するものと認め られ、その意味において不可分の一体をなす と考えられるから、配分規定は、単に憲法に 違反する不平等を招来している部分のみでな く、全体として違憲の瑕疵を帯びる。 ⑤選挙が憲法に違反する議員定数配分規定 に基づいて行われた場合、裁判所は、どの ような判決をすべきか。 選挙が憲法に違反する公選法に基づいて行 われたという一般性をもつ瑕疵を帯び、その 是正が法律の改正なくしては不可能である場 合は、行政事件訴訟法31条1項に含まれる 法の基本原則の適用により、選挙を無効とす ることによる不当な結果を回避する裁判をす る余地もありうる。そこで、選挙は憲法に違 反する議員定数配分規定に基づいて行われた 点において違法である旨を判示するにとど め、選挙自体はこれを無効としないこととす るのが、相当であり、そしてまた、このよう な場合においては、選挙を無効とする旨の判 決を求める請求を棄却するとともに、当該選 挙が違法である旨を主文で宣言するのが、相 当である。

判例の POINT

①本判決は、議員定数不均衡訴訟のリーディ ングケースである。 ②本判決は、投票価値の平等が憲法によって 保障されていることを認めつつも、行政区 画、住民構成等の非人口的要素の役割を重視 している。 ③本判決は、投票価値の不平等が生じた場 合、議員定数配分規定は直ちに違憲となるの ではなく、合理的期間内に是正措置がとられ なかった場合に違憲となるとする合理的期間 論を採っている。 ④公職選挙法219条が明文で、事情判決(行 政事件訴訟法31条)の準用を否定している にもかかわらず、本判決が事情判決の法理を 採用している(判例の見解⑤)点には賛否両 論がある。

関連判例

1人別枠方式の合憲性(最大判平23.3.23) 1人別枠方式は、衆議院議員の選挙制度に関し て戦後初めての抜本的改正を行うという経緯の下 に、一定の限られた時間の中でその合理性が認め られるものであり、その経緯を離れてこれを見る ときは、投票価値の平等という憲法の要求すると ころとは相容れないものといわざるを得ない。衆 議院は、その権能、議員の任期及び解散制度の存 在等に鑑み、常に的確に国民の意思を反映するも のであることが求められており、選挙における投 票価値の平等についてもより厳格な要請があるも のといわなければならない。したがって、事柄の 性質上必要とされる是正のための合理的期間内 に、できるだけ速やかに本件区割基準中の1人別 枠方式を廃止し、投票価値の平等の要請にかなう 立法的措置を講ずる必要がある。 1人別枠方式とは、議員定数を配分 する際に、まず各都道府県に1議席を割り振ると いうもので、現行の衆議院議員選挙において採用 されている。この方式は、相対的に人口の少ない 県に定数を多めに配分し、人口の少ない県に居住 する国民の意思をも十分に国政に反映させること ができるようにすることを目的とするものである が、反面、1票の格差を助長する要因になってい ると指摘されていた。本判決は、「議員は、いず れの地域の選挙区から選出されたかを問わず、全 国民を代表して国政に関与することが要請されて いるのであり、相対的に人口の少ない地域に対す る配慮はそのような活動の中で全国的な視野から 法律の制定等に当たって考慮されるべき事柄で あって、地域性に係る問題のために、殊更にある 地域(都道府県)の選挙人と他の地域(都道府 県)の選挙人との間に投票価値の不平等を生じさ せるだけの合理性があるとはいい難い。」と述べ た上で、更に一歩踏み込んで、この方式の廃止と 新たな立法措置を求めている。

参議院議員定数不均衡訴訟(最大判平 8.9.11)

事例

平成4年7月に実施された参議院議員選挙大 阪府選挙区の選挙人Aは、議員1人当たりの 有権者数の格差が最大で1対6.59となってい ることが投票価値の平等を保障する憲法14 条1項、15条1項、44条等に違反するとし て、選挙無効の訴えを提起した。

判例の 見解

①二院制の趣旨と参議院の特殊性 憲法が二院制を採用した趣旨は、衆議院と 参議院とがそれぞれ特色のある機能を発揮す ることによって、国会を公正かつ効果的に国 民を代表する機関たらしめようとするところ にある。参議院議員の選挙制度の仕組みは、 憲法が二院制を採用した前記の趣旨から、ひ としく全国民を代表する議員であるという枠 の中にあっても、参議院議員の選出方法を衆 議院議員のそれとは異ならせることによって その代表の実質的内容ないし機能に独特の要 素を持たせようとする意図の下に、参議院議 員を全国選出議員ないし比例代表選出議員と 地方選出議員ないし選挙区選出議員とに分 け、後者については、都道府県が歴史的にも 政治的、経済的、社会的にも独自の意義と実 体を有し政治的に一つのまとまりを有する単 位としてとらえ得ることに照らし、これを構 成する住民の意思を集約的に反映させるとい う意義ないし機能を加味しようとしたもので ある。 ②参議院選挙区選出議員に都道府県代表的 な意義ないし機能を持たせることは、憲法 43条1項に違反するか。

憲法43条1項は、両議院は全国民を代表 する選挙された議員で組織すると定めるが、 右規定にいう議員の国民代表的性格とは、本 来的には、両議院の議員は、その選出方法が どのようなものであるかにかかわらず、特定 の階級、党派、地域住民など一部の国民を代 表するものではなく全国民を代表するもので あって、選挙人の指図に拘束されることなく 独立して全国民のために行動すべき使命を有 するものであることを意味し、右規定が両議 院の議員の選挙制度の仕組みについて何らか の意味を有するとしても、全国をいくつかの 選挙区に分けて選挙を行う場合には、常に各 選挙区への議員定数の配分につき厳格な人口 比例主義を唯一、絶対の基準とすべきことま でを要求するものとは解されないし、参議院 (選挙区選出)議員の選挙制度の仕組みにつ いて事実上都道府県代表的な意義ないし機能 を有する要素を加味したからといって、これ によって選出された議員が全国民の代表であ るという性格と矛盾抵触することにはならな い。 ③本件選挙当時の投票価値の不平等及び定 数配分規定は憲法に違反するか。

本件選挙当時の投票価値の不平等は、参議 院(選挙区選出)議員の選挙制度の仕組み、 是正の技術的限界、参議院議員のうち比例代 表選出議員の選挙については各選挙人の投票 価値に何らの差異もないこと等を考慮して も、もはや到底看過することができないと認 められる程度に達していたものというほかは なく、これを正当化すべき特別の理由も見出 せない以上、違憲の問題が生ずる程度の著し い不平等状態が生じていたものと評価せざる を得ない。しかし、本件において、選挙区間 における議員一人当たりの選挙人数の較差が 到底看過することができないと認められる程 度に達した時から選挙までの間に国会が定数 配分規定を是正する措置を講じなかったこと をもって、その立法裁量権の限界を超えるも のと断定することは困難である。したがっ て、本件選挙当時において定数配分規定が憲 法に違反するに至っていたものと断ずること はできない。

判例の POINT

①本判決は、参議院議員選挙における投票価 値の不平等が違憲状態にあることを初めて認 めた最高裁判決である。 ②本判決は、最大格差1対6.59を違憲と判断 しているが、その明確な根拠は示されていな い。

関連判例

参議院議員定数不均衡と選挙制度の見直し(最 大判平21.9.30) ①参議院議員定数不均衡訴訟における最高裁の基 本的な判断枠組み 憲法は、選挙権の内容の平等、換言すれば、議 員の選出における各選挙人の投票の有する影響力 の平等、すなわち投票価値の平等を要求してい る。しかしながら、憲法は、どのような選挙制度 が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反 映させることになるのかの決定を国会の裁量にゆ だねているのであるから、投票価値の平等は、選 挙制度の仕組みを決定する唯一、絶対の基準とな るものではなく、参議院の独自性など、国会が正 当に考慮することができる他の政策的目的ないし 理由との関連において、調和的に実現されるべき ものである。それゆえ、国会が具体的に定めたと ころがその裁量権の行使として合理性を是認し得 るものである限り、それによって投票価値の平等 が一定の限度で譲歩を求められることになって も、憲法に違反するとはいえない。 参議院議員の選挙制度の仕組みは、憲法が二院 制を採用し参議院の実質的内容ないし機能に独特 の要素を持たせようとしたこと、都道府県が歴史 的にも政治的、経済的、社会的にも独自の意義と 実体を有し一つの政治的まとまりを有する単位と してとらえ得ること、46条が参議院議員について は3年ごとにその半数を改選すべきものとしてい ること等に照らし、相応の合理性を有するもので あり、国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲 を超えているとはいえない。そして、社会的、経 済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口 の変動につき、それをどのような形で選挙制度の 仕組みに反映させるかなどの問題は、複雑かつ高 度に政策的な考慮と判断を要するものであって、 その決定は、基本的に国会の裁量にゆだねられて いる。しかしながら、人口の変動の結果、投票価 値の著しい不平等状態が生じ、かつ、それが相当 期間継続しているにもかかわらずこれを是正する 措置を講じないことが、国会の裁量権の限界を超 えると判断される場合には、当該議員定数配分規 定が憲法に違反するに至る。 ②現行の選挙制度の見直し 現行の選挙制度の仕組みを維持する限り、各選 挙区の定数を振り替える措置によるだけでは、最 大較差の大幅な縮小を図ることは困難であり、こ れを行おうとすれば、現行の選挙制度の仕組み自 体の見直しが必要となることは否定できない。こ のような見直しを行うについては、参議院の在り 方をも踏まえた高度に政治的な判断が必要であ り、事柄の性質上課題も多く、その検討に相応の 時間を要することは認めざるを得ないが、国民の 意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤 であり、投票価値の平等が憲法上の要請であるこ とにかんがみると、国会において、速やかに、投 票価値の平等の重要性を十分に踏まえて、適切な 検討が行われることが望まれる。 本判決は、平成19年夏の参議院選挙 における「1票の格差」が最大で1対4.86であった ことが14条1項等に違反するかが争われた事件に おける上告審判決である。 ①は、これまでの参議院議員定数不均衡訴訟に 対する最高裁の立場をまとめたものであり、学習 上、大いに参考になる。②は、本判決の最も注目 すべき部分である。個々の選挙における定数不均 衡の合憲違憲の判断にとどまらず、選挙制度自体 の見直しを国会に求めるものであり、主権者であ る国民の意思を反映した選挙の実現に向けて、最 高裁が一歩踏み込んだ見解を示したものといえ る。

公職選挙法の制定又はその改正により具体的 に決定された選挙区割と議員定数の配分の下にお ける選挙人の投票の有する価値に不平等が存し、 あるいはその後の人口の異動により右のような不 平等が生じ、それが国会において通常考慮し得る 諸般の要素をしんしゃくしてもなお、一般に合理 性を有するものとは考えられない程度に達してい るときは、右のような不平等は、もはや国会の合 理的裁量の限界を超えているものと推定され、こ れを正当化すべき特別の理由が示されない限り、 憲法
違反と判断されざるを得ないものというべき である。 もっとも、制定又は改正の当時合憲であった 議員定数配分規定の下における選挙区間の議員1 人当たりの選挙人数又は人口(この両者はおおむ ね比例するものとみて妨げない。)の較差がその 後の人口の異動によって拡大し、憲法の選挙権の 平等の要求に反する程度に至った場合には、その ことによって直ちに当該議員定数配分規定が憲法 に違反するとすべきものではなく、憲法上要求さ れる合理的期間内の是正が行われないとき初めて 右規定が憲法に違反するものというべきである (最大判昭60.7.17)。

選挙制度の仕組みを具体的に決定することは 国会の広い裁量にゆだねられており、同時に行わ れる2つの選挙に同一の候補者が重複して立候補 することを認めるか否かは、右の仕組みの1つと して、国会が裁量により決定することのできる事 項であるから、重複立候補制を採用したこと自体 が憲法前文、43条1項、14条1項、15条3項、44 条に違反するとはいえない(最大判平11.11.10)

 

 

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