憲法 83条-91条/103条 財政

 

第七章 財政

 

第八十三条  国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。

 

いよいよ憲法の勉強もあとわずか、今回は、憲法83条から91条にわたって規定されている財政について、条文を負いながら解説していきます。
行政書士試験での出題頻度はそれほど高くありませんが、条文にはしっかり目を通してください。

Ⅰ.財政立憲主義

そもそも財政とは、国家がその任務を行う上で必要な財力を調達・管理・使用する作用のことです。具体的には、税金の賦課や徴収、国費の支出、国の財産の管理――などのことです。
83条では、国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づいて行使すると定めています。これは、国の財政を国民の代表機関である国会の管理統制下に置くという、財政面での民主主義の原理を明らかにしたものです。このような原理を財政立憲主義または財政民主主義と言いますので覚えてください。
国会の管理統制下に置くと説明しましたが、必ずしも財政を処理する行為の一つひとつについて国会の議決が必要ということではありません。全体として国会のコントロール下にあればよいと解釈されています。

 

 

 

第八十四条  あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。

 

Ⅱ.租税法律主義

84条は、租税を新設、又は従来の税制を変更するには、必ず法律の根拠がなければならないことを規定しています。このような原則を租税法律主義と言います。これも覚えてください。
これには少し歴史があります。近代市民革命は、専制君主による恣意的な租税の賦課からの解放闘争という面も持っていました。市民革命によって新たに成立した近代憲法では、租税の賦課・徴収については、租税を賦課される国民の代表の意見が反映されなければならないという思想が生まれました。よく聞く言葉に「代表なければ課税なし」がありますが、まさにこの思想です。租税法律主義は、この代表なければ課税なしの思想に由来する原則です。
租税法律主義は、憲法30条の規定中にもありましたが、30条の規定は納税が国民の義務であるとの観点からの規定でした。それに対して84条は、租税の在り方を決めるのは国民の代表から成る国会であるという観点からの規定です。
租税法律主義には次の2つの重要な内容があります。
①課税要件法定主義
②課税要件明確主義
①の課税要件法定主義というのは、課税される条件(課税要件)と課税手続について法律で定めなければならないという原則です。課税要件とは、納税義務者は誰なのか、課税物権は何なのか、税率は何%か――などです。課税手続とは、いつ、どのように税金を納めればよいのか、などです。
②の課税要件明確主義というのは、課税要件と課税手続を定めた規定は、誰でも分かるように明確なものでなければならないという原則です。税制の中心である課税要件や手続が人によって解釈がまちまちにならないような明確な規定でないと、行政権が恣意的な課税の賦課・徴収を行うことも可能になってしまい、租税法律主義の趣旨が損なわれてしまう危険もあるからです。
また、国民にとっては、いつ、どのような条件の下で課税されるのかを予測できることも大切とも言えます。
今日の社会では、税制は非常に複雑になっているので、租税に関する全部の事項を法律で規定することが事実上困難になっています。そこで、国会のコントロール下に置かれていればよいという解釈から、実際には、多くの場合で委任に基づき、命令(省令)などによって課税についての細目は決められています。
上級行政庁から下級行政庁へ対する命令を通達と言いますが、通常、通達は、行政庁内部のみの拘束力しか認められず、一般国民を拘束するものではありません。ところが、税務行政においては、しばしば、通達によって税法の解釈や運用基準が示されます。
また、地方公共団体では、条例によって租税を課すことがありますが、通説では、84条にいう法律には、条例も含まれるとされています。つまり、地方公共団体においては、租税条例主義がとられていることと解釈できます。

 

 

 

 

旭川市国民健康保険条例事件(最大判平 18.3.1)

 

事例

 

旭川市国民健康保険条例では、具体的な保険 料率は定められておらず、市長が定める告示 に委任されていた。旭川市民であり国民健康 保険に加入しているAは、国民健康保険料の 賦課処分を受けたため、市長に対し保険料の 減免を申請したが、減免事由に該当しないと して認められなかった。そこで、Aは、旭川 市国民健康保険条例の賦課総額の算定基準が 不明確であり、保険料率の決定を市長が定め る告示に委任していることは憲法84条に違 反するとして、賦課処分の取消しを求めた。

 

 

判例の 見解

 

①憲法84条は、市町村が行う国民健康保険 の保険料に直接適用されるか。

 

国又は地方公共団体が、課税権に基づき、 その経費に充てるための資金を調達する目的 をもって、特別の給付に対する反対給付とし てでなく、一定の要件に該当するすべての者 に対して課する金銭給付は、その形式のいか んにかかわらず、憲法84条に規定する租税 に当たる。市町村が行う国民健康保険の保険 料は、これと異なり、被保険者において保険 給付を受け得ることに対する反対給付として 徴収されるものである。また、国民健康保険 が強制加入とされ、保険料が強制徴収される のは、保険給付を受ける被保険者をなるべく 保険事故を生ずべき者の全部とし、保険事故 により生ずる個人の経済的損害を加入者相互 において分担すべきであるとする社会保険と しての国民健康保険の目的及び性質に由来す るものである。したがって、保険料に憲法 84条の規定が直接に適用されることはな い。 ②憲法84条の趣旨は、市町村が行う国民健 康保険の保険料に及ぶか。

 

憲法84条は、…直接的には、租税につい て法律による規律の在り方を定めるものであ るが、国民に対して義務を課し又は権利を制 限するには法律の根拠を要するという法原則 を租税について厳格化した形で明文化したも のである。したがって、国、地方公共団体等 が賦課徴収する租税以外の公課であっても、 その性質に応じて、法律又は法律の範囲内で 制定された条例によって適正な規律がされる べきものと解すべきであり、憲法84条に規 定する租税ではないという理由だけから、そ のすべてが当然に同条に現れた上記のような 法原則のらち外にあると判断することは相当 ではない。そして、租税以外の公課であって も、賦課徴収の強制の度合い等の点において 租税に類似する性質を有するものについて は、憲法84条の趣旨が及ぶと解すべきであ る。市町村が行う国民健康保険は、保険料を 徴収する方式のものであっても、強制加入と され、保険料が強制徴収され、賦課徴収の強 制の度合いにおいては租税に類似する性質を 有するものであるから、憲法84条の趣旨が 及ぶ。 ③本条例が保険料率の決定を市長が定める 告示に委任していることは憲法84条に違反 するか。

 

本条例は、保険料率算定の基礎となる賦課 総額の算定基準を明確に規定した上で、その 算定に必要な費用及び収入の各見込額並びに 予定収納率の推計に関する専門的及び技術的 な細目にかかわる事項を、市長の合理的な選 択にゆだねたものであり、また、見込額等の 推計については、国民健康保険事業特別会計 の予算及び決算の審議を通じて議会による民 主的統制が及ぶものということができる。そ うすると、本条例が、保険料率算定の基礎と なる賦課総額の算定基準を定めた上で、市長 に対し、同基準に基づいて保険料率を決定 し、決定した保険料率を告示の方式により公 示することを委任したことをもって、憲法 84条の趣旨に反するということはできな い。

 

 

【財政】

 

通達課税違憲訴訟(最判昭33.3.28)

 

事例

 

パチンコ球遊器は、長年にわたって課税対象 とされてこなかったが、国税庁長官は、「パ チンコ球遊器は、物品税法上の課税物件であ る『遊戯具』に当たるから、物品税を課税す べきである」旨の通達を発した。そこで、パ チンコ球遊器の製造業者Aは、単なる行政官 吏の解釈にすぎない通達に基づく課税は憲法 に違反するとして、課税処分の無効確認を求 める訴えを提起した。

 

 

判例の 見解

 

①パチンコ球遊器は、物品税法上の課税物 件である「遊戯具」に当たるか。

 

社会観念上普通に遊戯具とされているパチ ンコ球遊器が、物品税法上の「遊戯具」に含 まれないと解することは困難である。 ②通達により課税することは、憲法に違反 するか。

 

課税がたまたま通達を機縁として行われた ものであっても、通達の内容が法の正しい解 釈に合致するものである以上、本件課税処分 は法の根拠に基づく処分と解することができ るから、憲法に違反しない。

 

判例の POINT

 

①通達は、上級行政庁が下級行政庁に対して 発する命令であり、一般国民に対して法的拘 束力を有するものではない。そこで、通達に よる課税は、租税は法律に基づいて課税しな ければならないとする租税法律主義(憲法 84条)に反しないかが問題となる。本判決 は、通達の内容が法の正しい解釈(本件の場 合、パチンコ球遊器が物品税法上の「遊戯 具」に当たるという解釈)に合致するもので あれば、違憲ではないとした。 ②通達の内容が法の正しい解釈に合致すると しても、長年にわたって非課税とされてきた パチンコ球遊器に通達で課税したことについ ては、かかる通達は、実質的に課税要件を変 更する通達であり、憲法84条から導かれる 課税要件法定主義に反するから違憲であると の見解が有力である。

 

 

 

 

第八十五条  国費を支出し、又は国が債務を負担するには、国会の議決に基くことを必要とする。

 

Ⅲ.国費の支出

85条は83条に定められた財政立憲主義の理念を、支出の点について明確にしたものです。
国費の支出とは、国の諸般の需要を充たすための現金の支払いのことです。国費の支出についての議決は86条に規定の予算に対する議決という形で執行されます。
国が債務を負担するとは、国の財政上の需要を充たすのに必要な経費を調達するために債務を負うことです。
典型的な例が、国債の発行です。国の債務負担についての国家の議決は、予算に対する議決の形をとる場合と、法律に対する議決の形をとる場合があります。

Ⅳ.予算

予算とは、一会計年度における国の歳入・歳出の予定的見積りを内容とする国の財政行為の準則のことです。予算の種類は、①本予算、②補正予算、③暫定予算――の3つです。
②の補正予算はさらに、追加予算と修正予算に分かれ、追加予算は、本予算成立後に法律上又は契約上、国の義務に属する経費の不足を補う場合や、本予算作成後に生じた事由に基づき特に緊急に必要な経費の不足に対応するために予算を追加する場合をいいます。修正予算は、本予算作成後に生じた事由に基づいて、予算に追加以外の変更を加える場合を言います。
③の暫定予算は予算が新会計年度の開始前に成立しない場合に、内閣が必要に応じて暫定的な予算を組んで国会に提出するものです。暫定的なものですから、当然、その年度の本予算が成立した時には、効力を失います。暫定予算に基づいて執行された措置は、本予算に基づいて行われたものとみなされ、その年度の本予算に組み込まれて国会の議決を事後的に受けます。

予算は内閣が作成して国会に提出し、国会の審議を受けます。この場合60条で学んだように衆議院に先に提出しなければなりません。
国会が提出された予算案に対して可決・否決できることは当然ですが、提出された予算案に修正を加えることはできるのでしょうか?
原案に対して廃除・削減を行う減額修正については、国会に無制限の修正権が認められています。しかし、原案に対して新たな条項を設けたり、条項の金額を増額する増額修正に関しては、原案と同じものとは言えなくなるような大幅な増額修正の場合は認められていないようです。

 

 

 

第八十六条  内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない。

 

第八十七条  予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基いて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる。

 

2  すべて予備費の支出については、内閣は、事後に国会の承諾を得なければならない。

 

Ⅴ.予備費

87条では、予見し難い予算の不足に備えて予備費を設けることができることを規定しています。ここでの予見し難い予算の不足は、次の2つが考えられます。
①予算超過支出:予算にある費目の金額が不足になった場合
②予算外支出:予算に新たな費目を追加する必要が生じた場合
憲法では規定されていませんが、財政法により予備費は予算の中に組み込まれて議決されることが定められています。
予備費は、87条1項で内閣の責任で支出し、2項で事後的に国会の承認が必要とされることが規定されていますが、国会の承諾が得られなかった場合には、内閣の政治的責任問題は発生するものの、すでに行われた予備費の支出の法的効力には影響しません。

 

 

 

第八十八条  すべて皇室財産は、国に属する。すべて皇室の費用は、予算に計上して国会の議決を経なければならない。

 

Ⅵ.皇室財産と皇室費用

88条の趣旨は、皇室の国会による民主的コントロールのため、皇室財産を国有のものとし、8条とともに皇室財産の民主化を図ったものです。
皇室財算とは、天皇の財産および皇族の財産の総称です。88条にある皇室の財産とは公的な性格の強い財産のみで、よく知られた天皇家先祖伝来の三種の神器などは、これに当たりません。
また、皇室財産の国有化を規定していますが、皇室が私有財産を持つことを禁止しているわけではありません。上記の三種の神器などの私有財産や、予算に基づいて国庫から支出される資金を元手に、皇室が私有財産を保持し運用することも可能です。ただし、財産運用についても国会のコントロールが及ぼされることになっていますが…。

 

 

 

第八十九条  公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

 

Ⅶ.公金支出の制限

89条の前段は、公金その他の公の財産を宗教上の組織や団体のために使ってはいけないことを規定しています。これは、20条で学んだ政教分離の原則を財政の面から裏付けようという趣旨です。また、後段では、公の支配に属しない慈善・教育・博愛事業に対する公金支出等の禁止も規定しています。
この趣旨には、3つの説が考えられます。
①公費濫用防止説:目的の公共性や慈善・教育・博愛事業といった名目で公費が濫用されやすいので、それを防ぐため
②自主性確保説:私的な事業に公の財政援助を行うと、公権力が本来自主的に運営されるべき事業に影響を及ぼすことになりかねないので、私的事業の自主性を確保するため
③公の中立性確保説:私的な教育事業等は特定の信念に基づくものであることが多いことから、公の財政援助が行われることで、特定の宗教や信念の助長につながることを防ぐため

 

 

津地鎮祭事件(最大判昭52.7.13) 事例

 

三重県津市は、市立体育館の起工式を神道式 の 地鎮祭として行い、神職への謝礼、供物代 金等 の費用を公金から支払った。そこで、同 市の市 会議員Aは、かかる支出が憲法20 条、89条に 違反するとして住民訴訟を提起 した。

 

判例の 見解

 

①政教分離原則の法的性格 政教分離規定は、い わゆる制度的保障の規 定であって、信教の自由 そのものを直接保障 するものではなく、国家と 宗教との分離を制 度として保障することによ り、間接的に信教 の自由の保障を確保しようと するものであ る。 ②政教分離原則は、国家と宗 教の完全分離 を要求しているか。

 

現実の国家制度として、国家と宗教との完 全な 分離を実現することは、実際上不可能に 近い。 更にまた、政教分離原則を完全に貫こ うとすれ ば、かえって社会生活の各方面に不 合理な事態 を生ずることを免れない。した がって、政教分 離原則は、国家が宗教的に中 立であることを要 求するものではあるが、国 家が宗教とのかかわ り合いをもつことを全く 許さないとするもので はなく、宗教とのかか わり合いをもたらす行為 の目的及び効果にか んがみ、そのかかわり合い がわが国の社会 的・文化的諸条件に照らし信教 の自由の保障 の確保という制度の根本目的との 関係で相当 とされる限度を超えるものと認めら れる場合 にこれを許さないとするものである。 ③憲法20条3項の「宗教的活動」の意味 20条 3項にいう宗教的活動とは、国及び その機関の 活動で宗教とのかかわり合いをも つすべての行 為を指すものではなく、当該行 為の目的が宗教 的意義をもち、その効果が宗 教に対する援助、 助長、促進又は圧迫、干渉 等になるような行為 をいう。そして、ある行 為が右にいう宗教的活 動に該当するかどうか を検討するにあたって は、当該行為の主宰者 が宗教家であるかどう か、その順序作法(式 次第)が宗教の定める方 式に則(のっと)っ たものであるかどうかな ど、当該行為の外形 的側面のみにとらわれるこ となく、当該行為 の行われる場所、当該行為に 対する一般人の 宗教的評価、当該行為者が当該 行為を行うに ついての意図、目的及び宗教的意 識の有無、 程度、当該行為の一般人に与える効 果、影響 等、諸般の事情を考慮し、社会通念に 従っ て、客観的に判断しなければならない。 ④ 憲法20条2項と3項の関係 両者はともに広義の 信教の自由に関する規 定ではあるが、2項の規 定は、何人も参加す ることを欲しない宗教上の 行為等に参加を強 制されることはないという、 多数者によって も奪うことのできない狭義の信 教の自由を直 接保障する規定であるのに対し、 3項の規定 は、直接には、国及びその機関が行 うことの できない行為の範囲を定めて国家と宗 教との 分離を制度として保障し、もって間接的 に信 教の自由を保障しようとする規定であっ て、 後者の保障にはおのずから限界があり、そ し て、その限界は、社会生活上における国家と 宗教とのかかわり合いの問題である以上、そ れ を考えるうえでは、当然に一般人の見解を 考慮 に入れなければならないものである。 右のよう に、両者の規定は、それぞれ目的、 趣旨、保障 の対象、範囲を異にするものであ るから、2項 の宗教上の行為等と3項の宗教 的活動とのとら え方は、その視点を異にする ものというべきで あり、2項の宗教上の行為 等は、必ずしもすべ て3項の宗教的活動に含 まれるという関係にあ るものではなく、たと え3項の宗教的活動に含 まれないとされる宗 教上の祝典、儀式、行事等 であっても、宗教 的信条に反するとしてこれに 参加を拒否する 者に対し国家が参加を強制すれ ば、右の者の 信教の自由を侵害し、2項に違反 することと なるのはいうまでもない。それ故、 20条3 項により禁止される宗教的活動について 前記 のように解したからといって、直ちに、宗 教 的少数者の信教の自由を侵害するおそれが生 ずることにはならないのである。 ⑤本件地鎮祭 は、憲法20条3項の「宗教的 活動」に当たる か。

 

市が主催し神式に則り挙行された市体育館 の起 工式は、宗教とかかわり合いをもつもの である ことを否定しえないが、その目的は建 築着工に 際し土地の平安堅固、工事の無事安 全を願い、 社会の一般的慣習に従った儀礼を 行うという専 ら世俗的なものと認められ、そ の効果は神道を 援助、助長、促進し又は他の 宗教に圧迫、干渉 を加えるものとは認められ ないのであるから、 20条3項により禁止さ れる宗教的活動には当た らない。

 

判例の POINT

 

①本判決は、政教分離に関するリーディング ケースである。①政教分離規定(20条1項 後 段、3項、89条前段)が信教の自由その もので はなく、間接的に信教の自由を確保す るための 制度的保障の規定であること、②あ る行為が政 教分離原則に違反するかどうかの 判断基準とし て、目的効果基準(判例の見解 ③)を採用した 点に意義がある。 ②元来、目的効果基準は、ア メリカの判例法 理で形成されたもので、そこで は、目的、効 果だけでなく、その行為が国家と 宗教との過 度のかかわり合いを促すものかどう かという 3つの要件を個別に検討し、1つでも クリ アーできなければ違憲と評価する厳しい基 準 である。これに比べると、最高裁が採用した 目的効果基準は、かなり緩やかな基準といえ る。また、最高裁は、目的効果基準を適用す る に際し、社会通念に従って判断しなければ なら ないとしているが、社会通念を基準とす ること は、国家と宗教との分離をいっそう緩 やかに し、両者のかかわり合いを広く許すこ とになり かねないとの批判がある。

 

関連判例

 

箕面 みのお 忠魂碑訴訟(最判平5.2.16) ①市 が忠魂碑を移設・再建し、遺族会に忠魂碑の 移 転用地を無償で貸与することは、憲法20条3項 の「宗教的活動」に当たるか。

 

その目的は、小学校の校舎の建替え等のため、 公有地上に存する戦没者記念碑的な性格を有す る 施設を他の場所に移設し、その敷地を学校用 地と して利用することを主眼とするものであ り、その ための方策として、右施設を維持管理 する市遺族 会に対し、右施設の移設場所として 代替地を取得 して、従来どおり、これを右施設 の敷地等として 無償で提供し、右施設の移設、 再建を行ったもの であって、専ら世俗的なもの と認められ、その効 果も、特定の宗教を援助、 助長、促進し又は他の 宗教に圧迫、干渉を加え るものとは認められな い。したがって、箕面市 の右各行為は、宗教との かかわり合いの程度が 我が国の社会的、文化的諸 条件に照らし、信教 の自由の保障の確保という制 度の根本目的との 関係で相当とされる限度を超え るものとは認め られず、憲法20条3項により禁止 される宗教的 活動には当たらない。 ②忠魂碑を所有・維持管 理する遺族会は、憲法20 条1項後段の「宗教団 体」、89条の「宗教上の組 織若しくは団体」に 当たるか。

 

20条1項後段にいう「宗教団体」、89条にいう 「宗教上の組織若しくは団体」とは、宗教と何 ら かのかかわり合いのある行為を行っている組 織な いし団体のすべてを意味するものではな く、国家 が当該組織ないし団体に対し特権を付 与したり、 また、当該組織ないし団体の使用、 便益若しくは 維持のため、公金その他の公の財 産を支出し又は その利用に供したりすること が、特定の宗教に対 する援助、助長、促進又は 圧迫、干渉等になり、 憲法上の政教分離原則に 反すると解されるものを いうのであり、換言す ると、特定の宗教の信仰、 礼拝又は普及等の宗 教的活動を行うことを本来の 目的とする組織な いし団体を指す。…遺族会は、 戦没者遺族の相 互扶助・福祉向上と英霊の顕彰を 主たる目的と して設立され活動している団体で あって、…20 条1項後段にいう「宗教団体」、89 条にいう 「宗教上の組織若しくは団体」に該当し ない。 本件は、大阪府箕面市が、小学校の 増改築工事 に伴い移転の必要が生じた遺族会が管 理する忠 魂碑を、移転用地を取得して移転した 上、同地 を遺族会に無償貸与したことが政教分離 原則に 反するかが問題となった訴訟である。

 

剣道実技拒否事件(最判平8.3.8)【過去問】 21-5 ①信仰上の理由で剣道実技を拒否した生徒 につい て代替措置をとることは、憲法20条3項 に違反す るか。

 

信仰上の真しな理由から剣道実技に参加するこ とができない学生に対し、代替措置として、例 え ば、他の体育実技の履修、レポートの提出等 を求 めた上で、その成果に応じた評価をするこ とが、 その目的において宗教的意義を有し、特 定の宗教 を援助、助長、促進する効果を有する ものという ことはできず、他の宗教者又は無宗 教者に圧迫、 干渉を加える効果があるともいえ ないのであっ て、およそ代替措置を採ること が、その方法、態 様のいかんを問わず、20条3 項に違反するという ことはできない。 ②信仰上 の理由で剣道実技を拒否した生徒に対す る原級 留置処分及び退学処分は、校長の裁量権の 範囲 内か。

 

信仰上の理由による剣道実技の履修拒否を、正 当な理由のない履修拒否と区別することなく、 代 替措置が不可能というわけでもないのに、代 替措 置について何ら検討することもなく、体育 科目を 不認定とした担当教員らの評価を受け て、原級留 置処分をし、さらに、不認定の主た る理由及び全 体成績について勘案することな く、2年続けて原 級留置となったため進級等規 程及び退学内規に 従って学則にいう「学力劣等 で成業の見込みがな いと認められる者」に当た るとし、退学処分をし たという校長の措置は、 考慮すべき事項を考慮し ておらず、又は考慮さ れた事実に対する評価が明 白に合理性を欠き、 その結果、社会観念上著しく 妥当を欠く処分を したものと評するほかはな く、本件各処分は、 裁量権の範囲を超える違法な ものといわざるを 得ない。 本件は、信仰上の理由から剣道実技 の 履修を拒否したため、2年続けて原級留置処分 (留年)、さらに退学処分となった高専の生徒 が、処分の取消しを求めたものである。最高裁 は、目的効果基準を使って代替措置を採ること が 20条3項に違反しないことを明らかにし、代 替措 置を検討もせず生徒を原級留置処分及び退 学処分 にしたことは、校長の裁量権の範囲を超 えると結 論づけた。

 

 

砂川政教分離訴訟(最大判平22.1.20)

 

事例

 

砂川市は、その所有する土地を、町内会に無 償 で提供し、町内会は、その土地を神社施設 の敷 地として利用している。そこで、砂川市 の住民 Aは、市有地を神社の敷地として無償 で使用さ せていることは政教分離原則に違反 し、同土地 の使用貸借契約を解除して神社施 設の撤去と土 地の明渡しを請求しないこと は、違法に財産管 理を怠るものであるとし て、怠る事実の違法確 認を求める訴え(地方 自治法242条の2第1項 第3号を根拠とする 住民訴訟)を提起した。

 

判例の 見解

 

①国公有地を無償で宗教的施設の敷地とし て提 供することが憲法89条に違反するかど うかの判 断基準 国公有地が無償で宗教的施設の敷地とし て の用に供されている状態が、信教の自由の保 障の確保という制度の根本目的との関係で相 当 とされる限度を超えて憲法89条に違反す るか否 かを判断するに当たっては、当該宗教 的施設の 性格、当該土地が無償で当該施設の 敷地として の用に供されるに至った経緯、当 該無償提供の 態様、これらに対する一般人の 評価等、諸般の 事情を考慮し、社会通念に照 らして総合的に判 断すべきである。 ②国公有地を神社施設の敷地 として無償で 提供し利用させることは、憲法89 条、20条 1項後段に違反するか。

 

本件利用提供行為は、市と本件神社ないし 神道 とのかかわり合いが、我が国の社会的、 文化的 諸条件に照らし、信教の自由の保障の 確保とい う制度の根本目的との関係で相当と される限度 を超えるものとして、89条の禁 止する公の財産 の利用提供に当たり、ひいて は20条1項後段の 禁止する宗教団体に対す る特権の付与にも該当 する。 ③本件違憲状態を解消するには、神社施 設 を撤去し、その敷地を市に明け渡さなけれ ば ならないか。

 

本件利用提供行為の現状を違憲とする理由 は、 氏子集団に対し、長期にわたって無償で 土地を 提供していることによるものであっ て、このよ うな違憲状態の解消には、神社施 設を撤去し土 地を明け渡す以外にも適切な手 段があり得る。 例えば、戦前に国公有に帰し た多くの社寺境内 地について戦後に行われた 処分等と同様に、本 件土地の全部又は一部を 譲与し、有償で譲渡 し、又は適正な時価で貸 し付ける等の方法に よっても上記の違憲性を 解消することができ る。そして、市には、本 件各土地、本件建物及 び本件神社物件の現 況、違憲性を解消するため の措置が利用者に 与える影響、関係者の意向、 実行の難易等、 諸般の事情を考慮に入れて、相 当と認められ る方法を選択する裁量権があると 解される。 (トップへ)

 

判例の POINT

 

①本判決は、市有地を神社の敷地として無償 で 提供していることが政教分離原則に違反す るこ とを明らかにした最高裁判決である。政 教分離 原則違反を理由とする最高裁の違憲判 決は、愛 媛玉串料訴訟(最大判平9.4.2)以 来、2例目で ある。 ②本判決の重要なポイントは2つある。 その 1つは、目的効果基準を用いずに政教分離 原 則違反の有無を判断している点である。政教 分離原則違反の有無は、津地鎮祭事件判決 (最 大判昭52.7.13)が示した「目的効果基 準」を 用いて判断するというのが、これまで の最高裁 の立場である。しかし、本判決は、 「目的効果 基準」を用いず、「当該宗教的施 設の性格、当 該土地が無償で当該施設の敷地 としての用に供 されるに至った経緯、当該無 償提供の態様、こ れらに対する一般人の評価 等、諸般の事情を考 慮し、社会通念に照らし て総合的に判断」する という方法を用いてい る(なお、右に挙げた諸 事情は、津地鎮祭事 件判決では、目的効果基準 の適用に当たって 考慮すべき要素として用いら れている)。こ れは、土地の利用提供という継 続的な行為に ついては、地鎮祭のような1回的 な行為と異 なり、どの時点で宗教的な目的と効 果の有無 を判断すべきかが明らかでないため、 目的効 果基準を用いることが難しかったためと 考え られる。したがって、今後、最高裁が目的 効 果基準を用いないということにはならないで あろう。 ③もう1つの重要なポイントは、違憲 状態の 解消手段には、「神社施設の撤去と土地 明渡 し」以外に適切な手段があると明言してい る 点である(そのため、本判決は、他の手段の 検討をさせるため、本件を原審の札幌高裁に 差 し戻している)。理屈から言えば、市有地 を神 社施設の敷地として提供していることが 違憲で あるという以上、お宮や鳥居などの神 社施設を 取り壊し、土地を元に戻して市に返 還させる、 というのがスジであろう。しか し、本件と同様 のケースは全国で数千件ある ともいわれてお り、理屈を押し通すと、大き な社会的混乱を招 くおそれがある。本判決が 札幌高裁に「神社施 設の撤去と土地明渡し」 以外の適切な手段の有 無の検討を命じたの も、社会的混乱を回避し、 現実的な解決を図 るためであったと推測され る。 (トップへ)

 

チェック判例

 

牧会活動(「魂への配慮」と呼ばれるキリス ト教の奉仕活動)は、信教の自由のうち、礼拝 の 自由にいう礼拝に当たる。キリスト教の牧師 が牧 会活動として、犯罪の嫌疑をうけて逃走中 の高校 生を教会に宿泊させ、説得の上警察に出 頭させた 行為は、正当な業務行為として罪にな らない(神 戸簡判昭50.2.20)。

 

 

精神異常者の平癒を祈願するために宗教行為として加か持じ祈き祷とう (仏の力を信者 に加え保たせるこ と。)行為がなされた場合で も、それが他人の生 命、身体等に危害を及ぼす 違法な有形力の行使に 当たり、それにより被害 者を死に致したものであ る以上、憲法20条1項 の信教の自由の保障の限界 を逸脱したものとい うほかなく、これを刑法205条 に該当するもの として処罰することは、何ら憲法 の右条項に反 するものではない(最大判昭 38.5.15)。

 

人が神社に参拝する行為自体は、他人の信仰 生 活等に対して圧迫、干渉を加えるような性質の ものではないから、他人が特定の神社に参拝す る ことによって、自己の心情ないし宗教上の感 情が 害されたとし、不快の念を抱いたとして も、これ を被侵害利益として、直ちに損害賠償 を求めるこ とはできない。このことは、内閣総 理大臣の地位 にある者が靖国神社を参拝した場 合においても異 なるものではない(最判平 18.6.23)。

 

県が玉串料を靖国神社に奉納したことは、そ の 目的が宗教的意義を持つことを免れず、その効 果が特定の宗教に対する援助、助長、促進にな る と認めるべきであり、これによってもたらさ れる 県と靖国神社等とのかかわり合いが我が国 の社会 的・文化的諸条件に照らし相当とされる 限度を超 えるものであって、20条3項の禁止す る宗教的活 動に当たる。また、県が玉串料を支 出したこと は、89条の禁止する公金の支出に当 たり、違法で ある(最大判平9.4.2)。

 

市から戦没者遺族会に配分された補助金の支 出 及び市の職員による右遺族会の書記事務への従 事は、その目的が遺族の福祉増進にあることが 明 らかであり、遺族の福祉増進の面での金銭的 ない し事務補助による援助が結果として右遺族 会の宗 教性を帯びた活動に対する間接的な援助 となる面 があるとしても、その効果は、間接 的、付随的な ものにとどまっており、特定の宗 教を援助、助 長、促進し、又は他の宗教に圧 迫、干渉を加える ようなものとは認められない 等の事情の下におい ては、いずれも憲法20条3 項により禁止される宗 教的活動に当たらない (最判平11.10.21)。

 

 

 

 

 

 

第九十条  国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。
2  会計検査院の組織及び権限は、法律でこれを定める。

 

Ⅷ.会計検査院

90条1項でいう国の収入支出の決算とは、一会計年度における国の収入・支出の実績のことです。決算制度を採用することで、国の予算に基づいて適正に国の収入・支出が行われているかを事後的に監督すべきことを明らかにしていると言えます。一会計年度とは、現行上、4月1日から翌年の3月31日までです。
決算は、まず会計検査院の検査を経た上で、内閣がその検査報告を基に、次の会計年度で国会に提出します。
会計検査院の組織や権限は、会計検査院法で定められ(2項)、3名の検査官から成る検査会議と事務総局によって構成されます。そして、検査官は、衆参両議院の同意を得たうえで内閣が任命し、その任免は天皇が認証することでなっています。
国会は、90条に基づいて提出された決算を審査しますが、この審査はすでに行われた収入や支出が適正なものであったかを事後的に確認するものです。したがって、国会が決算を修正するということはあり得ません。

 

 

第九十一条  内閣は、国会及び国民に対し、定期に、少くとも毎年一回、国の財政状況について報告しなければならない。

 

Ⅸ.財税状況の報告

91条は、財政状況も含めて国政全般について、内閣が国会に対して報告義務を負っていることを定めています。91条の趣旨は、財政状況について国民に対する報告義務を明らかにすることで、納税者である国民が、国の財政を監視できるようにしたものと言えます。
財政状況の報告は、少なくとも1年1回、定期的に行われなければなりません。財政状況の最も基本的なものと言えば、毎会計年度の予算と決算です。

 

 

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