第三十一条 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
今まで、精神的自由権、経済的自由権と学んできましたが、今回と次回は、自由権の最後「人身の自由」について学びます。
上の表を見ても分かるとおり、人身の自由は、憲法18条にポツリと奴隷的拘束からの自由が規定され、31条に法定手続の保障が、33条以下に詳細な規定が謳われています。今回は、まず①奴隷的拘束からの自由、②手続き面からの保障を学び、次の第22回で③被疑者や被告人の権利――と3段階に分けて解説します。
Ⅰ.奴隷的拘束からの自由
憲法18条を見てみましょう。
奴隷的拘束とは、身体を拘束されて非人間的な状態に置かれることを指します。例えば、人身売買による拘束や、かつて、土木工事や鉱山採掘のために酷使される労働者が押し込められたタコ部屋がこれに当たります。
また、苦役とは、一般の私たちから見て、普通以上に肉体的・精神的苦痛を受けていると思われる程度の身体の自由の侵害のことです。例えば、明治憲法下における徴兵制などです。
この規定では、奴隷的拘束の禁止には例外を認めていませんが、意に反する苦役の禁止は、犯罪に因る処罰の場合を除くとしていることから、刑事事件における懲役刑は例外として認められていると言えます。
もう一つこの18条の解釈上での注目点は、私人間においても憲法18条の規定が直接適用されると考えられていることです。
つまり、どういうことかというと、第1回で憲法は公権力が国民に対して規制されると学びましたね。ですから、公権力が非人道的な奴隷的拘束をしてはならないことが規定されているのは当然です。でも、奴隷的拘束と意に反する苦役を強いるのは公権力ばかりではありませんね。そこで、私人間同士でも奴隷的拘束と意に反する苦役は、憲法18条で禁止されていると理解されています。
Ⅱ.手続き面からの人身の自由の保障
憲法31条は、憲法学者によると、人権そのものではなく、刑罰により人権を制限する際の手続きが適正であることを保障したものと言われています。
他の人権規定とは少し違うということに気づきましたか? 何でこんな規定が憲法に書かれているのか不思議に思われた方もいらっしゃるかもしれません。少し長くなるかもしれませんが、まず、この規定が憲法に採用された経過をお話しします。ここから人権規定に関する歴史は、少し気楽に予備知識として読み流してください。
「手続きが適正である」という考え方は、古くは1215年に制定されたイギリスの『マグナ・カルタ』に遡ります。この考え方が、イギリスにおける人権の手続的保障を重視する伝統として『コモン・ロー』としての刑事手続の適正の保障として発展しました。その背景には、当時のイギリスの魔女裁判などで重大な人権侵害が行われていたことへの反省があると言えるでしょう。
このイギリスにおける適正手続きの保障の考えは、その後、アメリカに渡り、①法律は適正手続きを定めなければならないこと、②刑事実体法の中身も適正でなければならないこと――という「デュー・プロセス」に発展しました。
一方、フランスやオランダなどヨーロッパの大陸側の国でも、法律を信頼し、法律によって刑事手続や実体の適正化を図る考えが発展していきます。これが、後に学ぶ罪刑法定主義の理念です。
日本国憲法は、第二次世界大戦後、上記の英米の適正手続き重視の流れと、大陸側の実体の適正重視の流れの両方を採用して制定されました。
さて、以上のことを踏まえて、31条を見てみると、文言上では手続きの法定のみを要求しています。つまりこれは、刑事手続は法律によって定められなければならないということです。
しかし、日本国憲法の制定の経緯から、通常では、それに加えて
①法定された手続きの適正
②実体規定の法定
③法定された実体規定の適正――も要求していると考えられています。
①の手続きの適正の中でも特に重要とされているのが、告知と聴聞の手続きです。告知と聴聞の手続きとは、公権力が国民に刑罰その他の不利益を科す場合、あらかじめ当事者に対してその内容を告知し、当事者に弁解と防御の機会を与えるということです。この手続きを経ることで、不利益を受ける個人の権利を保護し、公権力による不利益処分が適正であることになります。
その例として、「第三者所有物没収事件」を見てみましょう。
この事件は、Xが他の者と共謀の上、衣料品などを船に積み込み、韓国に密輸出しようとしましたが、海上保安官に発見されて未遂に終わり、第三者の所有している貨物が没収されてしまいました。それに対して、弁護人は、善意の第三者の所有物を没収することは、憲法29条に違反するし、また所有者が知らない間にその意見や弁解を聴くことなく、所有物を没収することができる旧関税法の規定は、憲法31条に違反するのではないかが争われた事件です。
この判例を読むと、第三者の所有物を没収するときに、その所有者に対して財産権を守る機会を与えないことは、適正な法定手続をとったことにならないので、憲法31条に違反すると言っていることが分かります。言い換えると、刑事事件の犯人であると疑いをかけられた者や関係する第三者への告知や聴聞の権利については保障されているということです。
さて、31条の文面は「刑罰を科せられない」となっていることから、直接的には刑事事件の手続に対して規定していることが分かります。でも、現代の社会では、行政が国民の生活の様々な場面に介入しているので、真の意味で人権を保障するには、行政手続の適正も図ることが重要になってきます。
そこで、個々の具体的な行政手続に応じた修正は行われるものの、原則として、憲法31条の規定は行政手続にも準用すべき、つまり、行政手続においても法定と適正が憲法上求められていることになります。
では、これが明らかにされている「成田新法事件」の判例を見てみましょう。
この事件は、新東京国際空港(現成田国際空港)の開港にあたり、いわゆる過激派集団が新空港内に火炎車を突入させ航空管制塔内に乱入したことから、空港の開港が延期されたことに端を発します。このような事態に対処するため、新空港等における暴力主義的破壊活動の防止を目的として、空港周辺の工作物の使用禁止や封鎖及び除去の措置を定めた「新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法(成田新法)」が制定されました。そして、三里塚芝山連合空港反対同盟所有の通称「横堀要塞」に対して、成田新法に基づく工作物使用禁止命令が出されましたが、その際、成田新法の合憲性が争われた事件です。
判例では、2つのことを言っています。それは、①行政手続でも、刑事手続でないからと言って当然に31条の定める適正手続の保障の対象外とすることはできない、②仮に行政手続に31条の保障が及ぶとしても、要求される適正さは、とられる行政手続に応じて違う――という2点です。この判例は、行政手続への31条の適用または準用を認めたとはいえ、全面的に認めているわけではないことに注意してください。
破防法違反事件(最判平2.9.28)
事例
中核派の幹部であるAは、同派の集会でした 演説が破壊活動防止法(破防法)39条・40 条のせん動罪に当たるとして起訴された。そ こで、Aは、せん動罪は憲法21条1項、31 条に違反すると主張した。
判例の 見解
①せん動は、表現活動としての性質を有す るか。
破防法39条条び40条のせん動は、政治目 的をもって、各条所定の犯罪を実行させる目 的をもって、文書若しくは図画又は言動によ り、人に対し、その犯罪行為を実行する決意 を生ぜしめ又は既に生じている決意を助長さ せるような勢のある刺激を与える行為をする ことであるから、表現活動としての性質を有 している。 ②せん動を処罰することは、憲法21条1項 に反するか。
表現活動といえども、絶対無制限に許容さ れるものではなく、公共の福祉に反し、表現 の自由の限界を逸脱するときには、制限を受 けるのはやむを得ない。せん動は、公共の安 全を脅かす現住建造物等放火罪、騒乱罪等の 重大犯罪をひき起こす可能性のある社会的に 危険な行為であるから、公共の福祉に反し、 表現の自由の保護を受けるに値しないものと して、制限を受けるのはやむを得ない。した がって、せん動を処罰することが憲法21条 1項に違反するものでない。 ③せん動の概念は不明確で憲法31条に違反 するといえるか。
せん動の概念は、破防法4条2項の定義規 定により明らかであって、その犯罪構成要件 があいまいであり、漠然としているものとは いい難い。 (参照条文)破壊活動防止法4条2項 この法律で「せん動」とは、特定の行為を実行さ せる目的をもつて、文書若しくは図画又は言動に より、人に対し、その行為を実行する決意を生ぜ しめ又は既に生じている決意を助長させるような 勢のある刺激を与えることをいう。
判例の POINT
破壊活動防止法39条、40条は、政治目的で 放火罪等のせん動をした者を処罰している。 本判決は、せん動を処罰することが憲法21 条に違反しないことを初めて明らかにした食 料緊急措置令違反事件判決(最大判昭 24.5.18)を引用し、破防法のせん動罪も合 憲であることを確認したものである。
軽犯罪法違反事件(最大判昭45.6.17)
事例
Aは、電柱に無断で「原水爆禁止世界大会を 成功させよう」等と印刷されたビラを糊で貼 り付けたところ、軽犯罪法違反で起訴された ため、「ビラ貼りを禁止する軽犯罪法1条 33号前段は、憲法21条1項に違反する」、 「同規定の『みだりに』貼付してはならない との文言は、あいまい不明確であり、憲法 31条に違反する」と主張した。
判例の 見解
①軽犯罪法1条33号前段は、憲法21条1項 に違反するか。 〔否定〕 軽犯罪法1条33号前段は、主として他人の 家屋その他の工作物に関する財産権、管理権 を保護するために、みだりにこれらの物には り札をする行為を規制の対象としているもの であり、たとえ思想を外部に発表するための 手段であっても、その手段が他人の財産権、 管理権を不当に害するごときものは、もとよ り許されないところであるといわなければな らない。したがって、この程度の規制は、公 共の福祉のため、表現の自由に対し許された 必要かつ合理的な制限であって、憲法21条 1項に違反しない。 ②軽犯罪法1条33号の「みだりに」という 文言は、あいまい不明確で、憲法31条に違 反するか。
「みだりに」とは、他人の家屋その他の工 作物にはり札をするにつき、社会通念上正当 な理由があると認められない場合を指称す るものと解するのが相当であり、その文言が あいまいであるとか、犯罪の構成要件が明確 でないとは認められないから、憲法31条に 違反しない。
判例の POINT
本判決は、ビラ貼りの規制を「この程度の規 制は、公共の福祉のために必要かつ合理的な 制限」であるとして、簡単に21条違反の主 張を退けており、なぜ「必要かつ合理的な制 限」といえるのかを具体的に説明していな い。また「みだりに」についても、「社会通 念上正当な理由があると認められない場合」 とはどのような場合なのかを明らかにしてい ない。
大阪市屋外広告物条例事件(最大判昭 43.12.18)
事例
Aは、大阪市内の電柱にビラを糊で貼り付け たところ、電柱等へのビラ貼りを禁止する大 阪市屋外広告物条例に違反するとして起訴さ れた。そこで、Aは、当該条例は憲法21条 1項に違反すると主張した。
判例の 見解
①大阪市屋外広告物条例の立法目的 大阪市屋外広告物条例は、屋外広告物法に 基づいて制定されたもので、右法律と条例の 両者相まって、大阪市における美観風致を維 持し、および公衆に対する危害を防止するた めに、屋外広告物の表示の場所および方法な らびに屋外広告物を掲出する物件の設置およ び維持について必要な規制をしている。 ②非営利目的のビラは、屋外広告物法及び 大阪市屋外広告物条例の規制対象となる か。
印刷物の貼付が営利と関係のないものであ るとしても、屋外広告物法及び大阪市屋外広 告物条例の規制の対象とされている。 ③大阪市屋外広告物条例は、憲法21条1項 に違反するか。
国民の文化的生活の向上を目途とする憲法 の下においては、都市の美観風致を維持する ことは、公共の福祉を保持する所以(ゆえ ん)であるから、この程度の規制は、公共の 福祉のため、表現の自由に対し許された必要 かつ合理的な制限と解することができる。し たがって、本条例は、憲法21条1項に違反 しない。
判例の POINT
①本件は、電柱等へのビラ貼りを禁止する屋 外広告物条例の合憲性に関するリーディング ケースである。 ②本判決は、屋外広告物条例の立法目的とビ ラ貼りとの関係を十分に検討せず、「この程 度の規制は、公共の福祉のため、表現の自由 に対し許された必要かつ合理的な制限」であ るとして、簡単に合憲の結論を導いている。
関連判例
集合住宅へのビラ配布と表現の自由(最判平 20.4.11) ビラ配布目的で、管理者の承諾なく他人の住居に 立ち入る行為を処罰することは、憲法21条に反す るか。
憲法21条1項も、表現の自由を絶対無制限に保 障したものではなく、公共の福祉のため必要かつ 合理的な制限を是認するものであって、たとえ思 想を外部に発表するための手段であっても、その 手段が他人の権利を不当に害するようなものは許 されない。本件では、表現そのものを処罰するこ との憲法適合性が問われているのではなく、表現 の手段すなわちビラの配布のために「人の看守す る邸宅」に管理権者の承諾なく立ち入ったことを 処罰することの憲法適合性が問われているとこ ろ、Aが立ち入った場所は、防衛庁の職員及びそ の家族が私的生活を営む場所である集合住宅の共 用部分及びその敷地であり、自衛隊・防衛庁当局 がそのような場所として管理していたもので、一 般に人が自由に出入りすることのできる場所では ない。たとえ表現の自由の行使のためとはいって も、このような場所に管理権者の意思に反して立 ち入ることは、管理権者の管理権を侵害するのみ ならず、そこで私的生活を営む者の私生活の平穏 を侵害するものといわざるを得ない。したがっ て、Aの行為をもって刑法130条前段の罪に問うこ とは、憲法21条1項に違反するものではない。 本件は、「自衛隊のイラク派兵反 対」と記載したビラを新聞受けに投函する目的 で、防衛庁の職員用宿舎に管理者の承諾を得ずに 立ち入ったAが住居侵入罪(刑法130条前段)で起 訴されたという事案である。
チェック判例
一般公衆が自由に出入りできる場所は、それ ぞれその本来の利用目的を備えているが、それは 同時に、表現のための場として役立つことが少な くない。道路、公園、広場などは、その例であ る。これを「パブリック・フォーラム」と呼ぶこ とができよう。このパブリック・フォーラムが表 現の場所として用いられるときには、所有権や、 本来の利用目的のための管理権に基づく制約を受 けざるをえないとしても、その機能にかんがみ、 表現の自由の保障を可能な限り配慮する必要があ ると考えられる。…例えば駅前広場のごときは、 その具体的状況によってはパブリック・フォーラ ムたる性質を強くもつことがありうるのであり、 このような場合に、そこでのビラ配布を同条違反 として処罰することは、憲法に反する疑いが強 い。このような場合には、公共用物に類似した考 え方に立って処罰できるかどうかを判断しなけれ ばならない(最判昭59.12.18伊藤裁判官補足意 見)。
第三者所有物没収事件(最大判昭 37.11.28)
事例
密輸を企て、関税法118条1項違反で有罪判 決を受けたAは、没収された密輸貨物の中に 第三者の所有物が含まれていたことから、当 該第三者に財産権擁護の機会を与えないで没 収することは、憲法29条に違反すると主張 した。
判例の 見解
①所有者に告知・弁解・防禦の機会を与え ずに没収することは、憲法に違反するか。
第三者の所有物を没収する場合において、 その没収に関して当該所有者に対し、何ら告 知、弁解、防禦の機会を与えることなく、そ の所有権を奪うことは、著しく不合理であっ て、憲法の容認しないところである。なぜな ら、憲法29条1項は、財産権は、これを侵 してはならないと規定し、また同31条は、 何人も、法律の定める手続によらなければ、 その生命若しくは自由を奪われ、又はその他 の刑罰を科せられないと規定しているが、第 三者の所有物の没収は、Aに対する附加刑と して言い渡され、その刑事処分の効果が第三 者に及ぶものであるから、所有物を没収され る第三者についても、告知、弁解、防禦の機 会を与えることが必要であって、これなくし て第三者の所有物を没収することは、適正な 法律手続によらないで、財産権を侵害する制 裁を科するに外ならないからである。そし て、このことは、右第三者に、事後において いかなる権利救済の方法が認められるかとい うこととは、別個の問題である。 ②関税法 118条1項は、憲法29条、31条に 違反する か。
関税法118条1項は、同項所定の犯罪に関 係 ある船舶、貨物等がA以外の第三者の所有 に属する場合においてもこれを没収する旨規 定しながら、その所有者たる第三者に対し、 告知、弁解、防禦の機会を与えるべきことを 定めておらず、また刑訴法その他の法令にお いても、何らかかる手続に関する規定を設け ていない。したがって、関税法118条1項に よって第三者の所有物を没収することは、憲 法31条、29条に違反する。 ③Aは、第三者 の憲法上の権利が侵害され たことを理由に 違憲の主張をすることがで きるか。
没収の言渡を受けた被告人は、たとえ第三 者の所有物に関する場合であっても、被告人 に対する附加刑である以上、没収の裁判の違 憲を理由として上告をなしうることは、当然 である。のみならず、被告人としても没収に 係る物の占有権を剥奪され、またはこれが使 用、収益をなしえない状態におかれ、更には 所有権を剥奪された第三者から賠償請求権等 を行使される危険にさらされる等、利害関係 を有することが明らかであるから、上告によ りこれが救済を求めることができる。
判例の POINT
①本判決は、31条が手続を法律で定めるだ けでなく、手続の内容が適正であることも要 求しているとする見解を採っている。 ②本 判決は、ともすれば31条違反としてい る点 にのみ目がいきがちであるが、29条違 反と していることにも注意が必要である。 ③本 判決が関税法そのものを法令違憲とした の か、本事案に関税法を適用したことを違憲 (適用違憲)としたのかは明らかではない。 ④本判決は、訴訟において、どのような場合 に憲法違反の主張ができるかという「憲法訴 訟の当事者適格(違憲主張の適格)」の問題 について、第三者の憲法上の権利が侵害され たことを理由に違憲の主張をすることができ るという重要な判断を下している。
大阪市売春取締条例事件(最大判昭 37.5.30)
事例
Aは、売春目的で男性を誘った行為が大阪市 売春取締条例に違反するとして罰金刑を科せ られた。そこで、Aは、条例で罰則を定める ことができるとする地方自治法14条3項は 罰則の内容を包括的に条例に委任しており、 憲法31条に違反するとして上訴した。
判例の 見解
①法律以外の法形式で罰則を定めることは 憲法31条に違反するか。
憲法31条はかならずしも刑罰がすべて法 律そのもので定められなければならないとす るものでなく、法律の授権によってそれ以下 の法令によって定めることもできると解すべ きで、このことは憲法73条6号但書によっ ても明らかである。ただ、法律の授権が不特 定な一般的の白紙委任的なものであってはな らないことは、いうまでもない。 ②本条例は、憲法31条に違反するか。
本件に関係のある地方自治法に挙げられた 事項は相当に具体的な内容のものであるし、 罰則の範囲も限定されている。しかも、条例 は、法律以下の法令といっても、公選の議員 をもって組織する地方公共団体の議会の議決 を経て制定される自治立法であって、行政府 の制定する命令等とは性質を異にし、むしろ 国民の公選した議員をもって組織する国会の 議決を経て制定される法律に類するものであ るから、条例によって刑罰を定める場合に は、法律の授権が相当な程度に具体的であ り、限定されていれば足りる。そうしてみれ ば、相当に具体的な内容の事項につき、限定 された刑罰の範囲内において、条例をもって 罰則を定めることができるとしたのは、法律 の定める手続によって刑罰を科するものとい うことができるのであって、憲法31条に違 反するとはいえない。
判例の POINT
本判決は、条例で罰則を定めるには法律の授 権が必要であるとし、その授権は白紙委任で あってはならないが、相当程度に具体的なも のであればよいとしている。ただ、条例が民 主的な自治立法であることを考えると、そも そもなぜ法律の授権が必要なのかという疑問 が生じる。
徳島市公安条例事件(最大判昭50.9.10)
事例
Aは、徳島市内で行われたデモ行進に参加し た際、車道上で、自ら蛇行進をし、他のデモ 参加者にも蛇行進させる刺激を与えたため、 道路交通法及び徳島市公安条例に違反すると して起訴された。
判例の 見解
①条例が国の法令に違反するか否かの判断 基準 条例が国の法令に違反するかどうかは、両 者の対象事項と規定文言を対比するのみでな く、それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を 比較し、両者の間に矛盾牴触があるかどうか によってこれを決しなければならない。例え ば、ある事項について国の法令中にこれを規 律する明文の規定がない場合でも、当該法令 全体からみて、右規定の欠如が特に当該事項 についていかなる規制をも施すことなく放置 すべきものとする趣旨であると解されるとき は、これについて規律を設ける条例の規定は 国の法令に違反することとなりうるし、逆 に、特定事項についてこれを規律する国の法 令と条例とが併存する場合でも、後者が前者 とは別の目的に基づく規律を意図するもので あり、その適用によって前者の規定の意図す る目的と効果をなんら阻害することがないと きや、両者が同一の目的に出たものであって も、国の法令が必ずしもその規定によって全 国的に一律に同一内容の規制を施す趣旨では なく、それぞれの普通地方公共団体におい て、その地方の実情に応じて、別段の規制を 施すことを容認する趣旨であると解されると きは、国の法令と条例との間にはなんらの矛 盾牴触はなく、条例が国の法令に違反する問 題は生じえないのである。 ②刑罰法規が憲法31条に違反するかどうか の判断基準 刑罰法規の定める犯罪構成要件があいまい 不明確のゆえに憲法31条に違反し無効であ るとされるのは、その規定が通常の判断能力 を有する一般人に対して、禁止される行為と そうでない行為とを識別するための基準を示 すところがなく、そのため、その適用を受け る国民に対して刑罰の対象となる行為をあら かじめ告知する機能を果たさず、また、その 運用がこれを適用する国又は地方公共団体の 機関の主観的判断にゆだねられて恣意に流れ る等、重大な弊害を生ずるからである。しか し、一般に法規は、規定の文言の表現力に限 界があるばかりでなく、その性質上多かれ少 なかれ抽象性を有し、刑罰法規もその例外を なすものではないから、禁止される行為とそ うでない行為との識別を可能ならしめる基準 といっても、必ずしも常に絶対的なそれを要 求することはできず、合理的な判断を必要と する場合があることを免れない。それゆ え、ある刑罰法規があいまい不明確のゆえに 憲法31条に違反するものと認めるべきかど うかは、通常の判断能力を有する一般人の理 解において、具体的場合に当該行為がその適 用を受けるものかどうかの判断を可能ならし めるような基準が読みとれるかどうかによっ てこれを決定すべきである。
判例の POINT
①本判決は、「法律の範囲内」(94条)の 一般的基準を明らかにした初めての最高裁判 決である。 ②本判決によれば、法令が全国的な規制を最 低基準として定めているにすぎない場合に は、法律の定める基準よりも厳しい基準を定 める「上乗せ条例」を定めることも許され ることになる。実際、法令よりも厳しい基準 を定める公害規制条例を制定している地方公 共団体も多い。 ③刑罰法規の内容が不明確であると、どのよ うな行為が処罰の対象となるのか読み取れ ず、憲法31条に違反する可能性がある。本 件では、本条例が集団行進等についての遵守 事項として挙げている「交通秩序を維持する こと」の明確性が問題となった。この点につ いて、本判決は、「交通秩序を維持するこ と」を、道路における集団行進等が一般的に 秩序正しく平穏に行われる場合にこれに随伴 する交通秩序阻害の程度を超えた、「殊更な 交通秩序の阻害をもたらすような行為」を避 けるべきことを命じたものと解し、「殊更な 交通秩序の阻害をもたらすような行為」かど うかの判断はそれほど困難ではないから、憲 法31条に違反しないとしている。
第三十二条 何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。
第三十三条 何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。
今回は、第25回で①奴隷的拘束からの自由、②法定手続の保障――と勉強した人身の自由の続きです。この回で勉強する③被疑者・被告人の権利は、憲法33条から39条にかけて規定されています。
今まで、漠然として概念的で捉えにくかった憲法が、ここから急に刑事事件に特定され、具体的になります。
憲法の条文に沿って、①逮捕の要件、②抑留・拘禁の要件、③住居への侵入・捜索や押収についての保障、④拷問や残虐な刑罰の禁止、⑤刑事被告人の持つ権利、⑥不利益な供述の強要の禁止、⑦遡及処罰の禁止――と、順を追って勉強しますが、今回は、①~④までです。
Ⅰ.逮捕の要件
憲法33条では、人が逮捕される場合の要件を次の2つ規定しています。
①司法官憲が発する令状
②逮捕の理由となった犯罪が明示された令状
司法官憲とは裁判官のことです。そして、逮捕するには以上の2つの要件が必要という原則を「令状主義の原則」と言います。令状主義にはさらに次の2つの意味があります。
①犯罪の捜査に当たる者、つまり警察官が自ら逮捕の可否や要否を判断するのではなく、司法官憲、つまり裁判官が判断することで、不当な逮捕が行われるのを防ぐこと
②逮捕される者に、逮捕される理由を分からせること
条文に令状が裁判官によるものでなければならないと記載されているのは、①のためです。また、②は、逮捕される理由が分からなければ、その逮捕が正当なものであるかどうかも判断できず、防御することもできません。ここでいう、犯罪を明示とは、犯罪名はもちろん、具体的にいつ、どこで、誰を(誰のものを)、どうしたか――すべてを明示する必要があることを言っています。
一方、33条では令状主義の例外として、現行犯逮捕を挙げています。
なお、刑事訴訟法では、現行犯逮捕の場合以外にも令状主義の例外を認めています。それは、緊急の場合です。
緊急の場合には、逮捕した後で直ちに令状を裁判官に請求する方式を認めています(刑事訴訟法210条)。
でも、これって違憲ではないのでしょうか?
これについて判例は、厳格な制約の下に、罪状の重い一定の犯罪ならば、緊急時には逮捕後にすぐ裁判官の審査を受けて令状の発行を求めることを条件に、無令状での被疑者の逮捕を認めることは合憲であるとしています。
Ⅱ.抑留・拘禁の要件
憲法34条は、抑留(一時的に身体を拘束されること)や拘禁(継続的に身体を拘束されること)をされる場合には、①理由を知らされることと、②弁護人を依頼する権利を与えられること――を保障しています。また、①でいう理由とは、❶犯罪の嫌疑=いつ、どこで行った、どのような行為――が拘束の理由となっているのかと、❷身体を拘束する必要性(逃亡や犯罪の証拠を隠滅するおそれがあるなど)――の2つです。
特に拘禁は、長期に渡って身体の拘束をされるので、被告人や被疑者にとっては、重度の人権障害に当たります。被疑者というのは、犯罪の嫌疑をかけられているものの、まだ起訴されていない者のことで、犯罪をしたことが明らかでないのですから、なおさらです。
そこで、拘禁については、ある程度の証拠に基づく正当な理由の存在があること、被疑者や被告人の要求があれば、その正当な理由が公開の法廷で開示されること――が保障されています。これは、不当な拘禁を抑制するための制度の一つです。
Ⅲ.住居への侵入・捜索や押収についての保障
憲法33条では身体拘束についての令状主義が規定されていましたが、この35条では、住居や書類、所持品に対して、家の中に入ったり、家などを探したり、押収したりすることについても令状主義がとられていることを明記しています。重大な人権侵害である捜査機関の住居への立入りや、捜索、押収が、どうしても必要である場合にのみ行われることを確保しようとしているのです。
条文の2項で言っている各別の令状とは、その都度ごとに令状が必要ということです。これは、捜査機関がいつでもどこでも捜索や差押えをできる一般令状を禁止していることを意味します。
さらに、1項の後段で「33条の場合を除いては」と言っているので、33条の場合は令状なしで捜索や差押えができることが推し量れます。ここでいう「33条の場合」とは、現行犯逮捕はもちろん、令状による逮捕の場合も含まれます。現行犯逮捕の場合には、犯罪の嫌疑が十分にあると考えられ、その場に証拠が存在し、放っておくと証拠が隠されたり、どこかに行ってしまったりするから、令状なしでも捜索や差押えができるのですが、令状による逮捕の場合も現行犯と同様の理由が当てはまるからです。
この憲法35条の規定は、刑事手続における令状主義を規定したものですが、行政手続であっても、犯罪捜査との結びつきが極めて密接と考えられるものについては、本条の規定が準用されるものと考えられています。例えば、警察官の所持品検査や収税官吏による犯則事件調査のための臨検などです。これを扱った事件に「川崎民商事件」があります。
この事件の被告人は、川崎民主商工会に属しているお肉屋さんAさんです。川崎税務署が、そこにやってきて税務調査のために帳簿検査などを行おうとしましたが、これを拒んだAさんは、検査拒否罪で起訴されました。そこで、Aさんは、税務署は捜索令状を持っていないのに、むりやり帳簿検査するのはおかしい、そして、もう一点、不利益な事項について供述しなくてもいいはずと主張したのです。
つまり、被告人となったAさんは、税務署の検査は、憲法35条、38条に反するとして争ったのです。(38条については、次回の黙秘権で学ぶ項目です)
判例では、令状主義はもともと刑事手続における保障だけれど、刑事手続ではないというだけで、一切の強制について、令状主義の保障は当然ないとは言えないとしています。ということは、行政手続も令状主義が適用されるということでしょうか?
答えは、NOです。
最高裁は、この事件は、実質上、刑事責任追及のための資料集めではないから、令状主義をとらなくてもいいと言っているのです。つまり、この質問検査は、税金を取り立てる目的なので、人身を拘束するためじゃない、ということです。
その後の判例も基本的にこの川崎民商事件を受け継ぎ、行政手続にも35条が準用され得ることを前提に、行政手続の場合には、①行政目的達成のための制限の必要性、②刑事責任追及のための資料の収集に直接結びつくものかどうか、③強制の度合いは強いか――などを総合的に判断して結審しています。
Ⅳ.拷問や残虐な刑罰の禁止
捜査機関などによる拷問や残虐な刑罰は、洋の東西を問わず古くから行われてきました。憲法36条の規定は、そのような歴史、我が国においては戦前・戦時中の特高警察による拷問などが行われたことを踏まえ、公務員による拷問と残虐な刑罰を絶対に禁じたものです。拷問とは、自白を強要するために肉体的・生理的に苦痛と与える暴行を行うことなどです。
残虐な刑罰とは、憲法における刑罰の一般目的に照らして不必要な苦痛を伴う刑罰と言われています。社会における文化水準に照らして反人道的な刑罰と考えてよく、例えば、江戸時代に行われていた火あぶりや磔(はりつけ)の刑などがこれに当たります。
そして、「絶対に禁じる」と言っているので、他の人権と異なり、拷問や残虐な刑罰は「公共の福祉」のためでも例外を認めないということです。
では、重大な刑事事件を起こした被告人の死刑は、残虐な刑罰に当たらないのでしょうか? 判例では、死刑の方法によっては残虐な刑罰に当たる可能性もあるが、死刑そのものが残虐な刑罰に当たるわけではないとしています【最判昭23.3.12】。
第三十四条 何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。
第三十五条 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
2 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。
京都府学連事件(最大判昭44.12.24)
事例
大学生Aは、京都市公安条例に基づいて許可 された京都府学連主催のデモ行進に参加した ところ、隊列をくずした行進がデモ許可条件 に違反すると考えた警察官から写真撮影され た。写真撮影に抗議し、公務執行妨害罪で起 訴されたAは、本件写真撮影は肖像権を保障 した憲法13条及び令状主義を規定する35条 に違反すると主張した。
判例の 見解
①憲法13条は、みだりに容ぼう等を撮影さ れない自由を保障しているか。
憲法13条は、国民の私生活上の自由が、 警察権等の国家権力の行使に対しても保護さ れるべきことを規定しているものということ ができる。そして、個人の私生活上の自由の 一つとして、何人も、その承諾なしに、みだ りにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」と いう。)を撮影されない自由を有する。これ を肖像権と称するかどうかは別として、少な くとも、警察官が、正当な理由もないのに、 個人の容ぼう等を撮影することは、憲法13 条の趣旨に反し、許されない。 ②本人の同意がなく、かつ、裁判官の令状 がない写真撮影が憲法13条、35条に違反し ないための要件は何か。 次のような場合には、撮影される本人の同 意がなく、また裁判官の令状がなくても、警 察官による個人の容ぼう等の撮影が許容され る。すなわち、現に犯罪が行なわれもしくは 行なわれたのち間がないと認められる場合で あって、しかも証拠保全の必要性および緊急 性があり、かつその撮影が一般的に許容され る限度をこえない相当な方法をもって行なわ れるときである。このような場合に行なわれ る警察官による写真撮影は、その対象の中 に、犯人の容ぼう等のほか、犯人の身辺また は被写体とされた物件の近くにいたためこれ を除外できない状況にある第三者である個人 の容ぼう等を含むことになっても、憲法13 条、35条に違反しない。
判例の POINT
①肖像権は、人格権の一環であるプライバ シー権の一つと位置づけることができる。本 判決は、13条を根拠に肖像権を実質的に認 めた初めての最高裁判決である。 ②本判決は、本人の同意がない写真撮影が 13条違反とならないための要件として、① 現に犯罪が行なわれもしくは行なわれたのち 間がないと認められる場合であること、②証 拠保全の必要性と緊急性があること、③撮影 が一般的に許される相当な方法によって行わ れること、の3つを挙げている。
関連判例
法廷内写真・イラスト画の公表と肖像権(最判 平17.11.10) ①容ぼう等の無断写真撮影について不法行為の成 否を判断する基準 人はみだりに自己の容ぼう、姿態を撮影されな いということについて法律上保護されるべき人格 的利益を有し、ある者の容ぼう、姿態をその承諾 なく撮影することが不法行為法上違法となるかど うかは、被撮影者の社会的地位、撮影された被撮 影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的、撮影 の態様、撮影の必要性等を総合考慮して、被撮影 者の人格的利益の侵害が社会生活上受忍すべき限 度を超えるものといえるかどうかを判断して決す べきである。 ②不法行為の成否を判断するに当たり、容ぼう等 を無断描写したイラスト画の公表を無断撮影した 写真の公表と同列に考えてよいか。
人は自己の容ぼう、姿態を描写したイラスト画 についてみだりに公表されない人格的利益を有す るが、イラスト画を公表する行為が社会生活上受 忍の限度を超えて不法行為法上違法と評価される か否かの判断に当たっては、イラスト画はその描 写に作者の主観や技術を反映するものであり、公 表された場合も、これを前提とした受け取り方を されるという写真とは異なる特質を参酌しなけれ ばならない。 世間を騒がせた和歌山カレーライス 毒物混入事件の被告人Aが、手錠・腰縄を付けら れた自己の写真とイラスト画を週刊誌に掲載した 出版社に対し肖像権侵害を理由として慰謝料を請 求したという事案である。 最高裁は、実質的に肖像権と呼べる「みだりに 自己の容ぼう、姿態を撮影されないということに ついて法律上保護されるべき人格的利益」の侵害 について不法行為が成立することを初めて認め た。
前科照会事件(最判昭56.4.14)
事例
弁護士が弁護士会を通じて京都市中京区役所 にAの前科及び犯罪経歴(以下、「前科等」 という)の有無を照会し、同区長がこれに応 じてAの前科等を回答したため、Aは、区長 の回答はプライバシー権侵害に当たるとして 京都市に対し損害賠償と謝罪文の交付を請求 する訴えを提起した。
判例の 見解
①前科等のある者は、これをみだりに公開 されない法的利益を有するか。
前科等は人の名誉、信用に直接にかかわる 事項であり、前科等のある者もこれをみだり に公開されないという法律上の保護に値する 利益を有するのであって、市区町村長が、本 来選挙資格の調査のために作成保管する犯罪 人名簿に記載されている前科等をみだりに漏 えいしてはならないことはいうまでもない。 ②前科等の照会を受けた市区町村長は、ど のような場合に回答をすることができる か。 前科等の有無が訴訟等の重要な争点となっ ていて、市区町村長に照会して回答を得るの でなければ他に立証方法がないような場合に は、裁判所から前科等の照会を受けた市区町 村長は、これに応じて前科等につき回答をす ることができる。
判例の POINT
①本判決は、「プライバシー」という言葉を 用いていない。そのため、本判決が「前科等 をみだりに公開されない」という法的利益を プライバシーの内容と考えているかは不明で ある。 ②本判決は、前科等の照会を受けた市区町村 長が適法に回答できる場合を厳格に解し、市 区町村長が漫然と弁護士会の照会に応じ、犯 罪の種類、軽重を問わず、前科等のすべてを報 告することは、国家賠償法1条1項の「公権 力の行使」に当たるとした。
関連判例
早稲田大学江沢民講演会名簿提出事件(最判平 15.9.12) 大学主催の講演会の参加者名簿に記載された情報 を参加申込者に無断で警察に開示する行為は不法 行為を構成するか。
参加者名簿に記載された情報を参加申込者に無 断で警察に開示した行為は、大学が開示について あらかじめ参加申込者の承諾を求めることが困難 であった特別の事情がうかがわれないという事実 関係の下では、参加申込者のプライバシーを侵害 するものとして不法行為を構成する。 最高裁は、大学が講演会の主催者と して学生から参加者を募る際に収集した参加申込 者の学籍番号,氏名,住所及び電話番号に係る情 報は,参加申込者のプライバシーに係る情報とし て法的保護の対象となるとした上で、上記のよう に述べている。
住基ネット訴訟(最判平20.3.6)【過去問】23-3 行政機関が住民基本台帳ネットワークシステム (住基ネット)により個人情報を管理、利用等す ることは、憲法13条に違反するか。
【住基ネット】市町村長に住民票コードを記載事 項とする住民票を編成した住民基本台帳の作成を 義務付け、住民基本台帳に記録された個人情報の うち、氏名、住所など特定の本人確認情報を市町 村、都道府県及び国の機関等で共有してその確認 ができる仕組み。 行政機関が住基ネットにより住民の本人確認情 報を管理、利用等する行為は、個人に関する情報 をみだりに第三者に開示又は公表するものという ことはできず、当該個人がこれに同意していない としても、13条に違反しない。 住基ネットが13条に違反しない理由 として、最高裁は、①住基ネットによって管理、 利用等される本人確認情報は、氏名、生年月日、 性別及び住所から成る4情報に、住民票コード及 び変更情報を加えたものにすぎず、これらは、個 人の内面に関わるような秘匿性の高い情報とはい えないこと、②住基ネットにシステム技術上又は 法制度上の不備があり、そのために本人確認情報 が法令等の根拠に基づかずに又は正当な行政目的 の範囲を逸脱して第三者に開示又は公表される具 体的な危険が生じているとはいえないことを挙げ ている。