第九章 改正
第九十六条 この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
2 憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。
憲法改正とは、成文憲法の内容をその憲法が定めた手続にしたがって、意識的に変更することを言います。
考えられる改正は、①既存の条項に加除修正を加える、②新たな条項を追加する――がほとんどと思いますが、全面的に書き直すということもまったくないというわけではありません。
とはいえ、憲法は国の法秩序の根本となるものですので、簡単に改正がなされるようでは困ります。一方、その時々の政治や経済、国際情勢などの社会環境は変わっていくので、変化に応じて憲法を適切に改正することができるようにしておく必要もあります。
そこで、日本国憲法は、通常の法改正より厳格な要件を付して、改正できるようにしました。改正するには、通常の法改正より厳格な要件が必要となる憲法を「硬性憲法」と言い、日本国憲法は、諸外国の硬性憲法と比べても、より硬性が高いものであると言われています。
改正のための手続要件は、
①各議院の総議員の3分の2以上の賛成
②国民投票における過半数の賛成です。
まず、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で国会が発議するのですが、ここでいう発議とは、憲法改正案が国会で議決されることを指します。
通常、発議という場合は、原案を提出することを言うので、注意です。
また、総議員とは、法定の議員数を指すと言われています。つまり、その時点で欠員となっている議員数を引いた数ではないということです。
国会の発議がなされたら、次は国民投票にかけられます。条文では「特別の国民投票」か「国会の定める選挙の際行われる投票」のいずれかの形がとられると規定していますが、
国会の定める選挙とは、衆議院議員の総選挙か参議院議員の通常選挙のことです。
長い間国民投票についての手続法は制定されませんでしたが、9条を中心とする憲法改正論議の高まりで、平成19年5月18日に「日本国憲法の改正手続に関する法律(通称:国民投票法)」が制定されました。
同法によれば、憲法改正の国民投票における投票権者は、18歳以上の日本国民であり、無効票を除いた総投票数の過半数が賛成すれば、憲法改正案が成立することになります。
ここで、「18歳以上??」と感じませんでしたか? 感じた方はずいぶん憲法に慣れてきた方です。
日本では通常選挙の投票権は20歳以上です。
投票方法としては、改正案ごとに1人1票を投じるとされています。改正案ごとというのは、複数の条項について改正案が出された場合には、その一つひとつについて別個にという意味です。
国民投票の結果、憲法改正案が承認されたときは、天皇が、国民の名でこの憲法と一体を成すものとして、直ちに公布します。国民の名でとしたのは、憲法改正が主権者である国民の意思であることを明らかにする趣旨です。
96条では憲法改正の手続については規定していますが、改正の内容については特に規定していません。
そこで、問題とされているのは、憲法改正は手続さえ守れば、内容のいかんを問わず許されるかということです。この点については古くから憲法改正に内容的な限界はないという意見と、限界があるという意見が対立してきました。
限界があるとする意見は、既存の憲法を改正するのではなく、新しい憲法を創設する権力である憲法制定権力と、憲法によって与えられた憲法改正権力とは別次元のものであるという発想を前提として、憲法によって与えられた憲法改正権力をもってその憲法の基本理念を変えるような改正を行うことには矛盾があるから許されないとしています。
一方、限界がないとする意見は、憲法改正権力と憲法制定権力とは同質のものであることや、憲法もその時々の諸事情に応じて変えられるべきであることなどを理由に限界はないとしています。極端に言えば、民主主義を放棄するような改正の内容も認められるということです。
今現在では、限界があるとする意見が多数派です。この意見から、日本国憲法の基本理念である①国民主権、②人権尊重、③平和主義、そして④憲法改正規定については憲法改正の対象にできないということが通説で、仮にこれらを変更しようとするのであれば、それはもはや憲法改正の域を超え、新憲法の制定であることになります。