行政法 行政法の一般的な法理論3

今回は、様々ある行政活動の中から、①行政立法、②法規命令、③行政規則――を順に取り上げていきます。

Ⅰ.行政立法
行政立法とは、法条の形式をもって一般的・抽象的な定めをすることと定義されていますが、分かりやすくは、行政府が法を作ること、行政府が作った法――です。
ところで、憲法第41条を覚えていますか?
「国会は、……国の唯一の立法機関である」と規定されていましたね。
ということは、行政立法って違憲なのでしょうか?
次は、憲法第73条を思い出してみましょう。
「内閣は、他の行政一般事務の外、左の事務を行う。……
六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。
……」
憲法第73条でいう政令とは、行政府が制定する法のことで、命令と呼ばれます。
ここまで読んで、憲法第41条の規定は、国民の代表である国会の権力を示したことで、文字どおりに国会しか法を制定してはならないということではないと、学んだことを思い出したでしょうか?
行政の実務の上でも、例えば、申請するに当たっての提出書面の書式などの細かな部分は、法律に定めがないことが通常です。すると、現場でルール作りをしなければならなくなります。つまり、行政上の法は様々な場面で必要とされ、現に多く作られています。政令、府令、省令などの命令を合わせるとその数は法律の約3倍になると言われています。
このように細かな定めや修正が法律でなく命令に任されるのは、それらの制定に、政治的中立性や専門・技術的な知識が要求されたり、社会の情勢に応じて迅速に変更する必要があるからです。皆さんもテレビの国会中継などを見て、国会で一つの法律が決議されるまでには、長期間かかることはご存知と思います。時間切れで廃案なんていうのもありますよね。
しかし、前述のように行政庁が法を制定できるとしても、もちろん無制限に制定できるわけではありません。唯一の立法機関としての国会との調整や、その目的である法律への民主的コントロールと人権保障の要請に反するような行政立法は許されません。
そこで、ここからは、それぞれの行政行為の行政立法が可能な範囲などを解説することにします。

Ⅱ.法規命令
行政立法の一つに、国民の権利義務に関わる事項を定めるものがあり、これを法規と呼びます。
例えば、銃刀法という法律では刀剣類を私人が所持することを禁じていますが、美術品として価値ある日本刀については例外として所持を認めています。この例外を定める規則は、国民が財産を所持できるという権利の範囲を決定するものなので、法規としての性質があると言えます。
また、刑事施設に収容された人が幼年者と会って話をしたり物品の受け渡しをする接見を禁じていることは、やはり法規としての性質を有しています。これらの法規制が認められる行政立法を法規命令と呼びます。
一方、法規命令は、国民の権利義務に関わる内容を定めるものなので、民主的コントロールの効かない行政府が制定することは、人権が不当に損なわれることもあり得るということです。
そこで、それを回避するため、憲法では、法規命令は法律の枠内でしか定められないとしています。行政庁による命令の制定は、法律を執行する執行命令や、法律の委任がある委任命令の場合しか許されません。
さらに、委任命令については、その可否や委任にも制限があります。なぜなら、制限のない委任を白紙委任と言いますが、白紙委任が許されると、法規の制定に国会による民主的コントロールを及ぼすことができなくなり、憲法が国会を唯一の立法機関とした意味がなくなってしまうからです。
そこで、委任命令が許されるためには、個別具体的な委任を有することが必要です。
一方、このことは法律が委任した枠を超えて法規を制定することはできないことになります。
これを委任命令の限界と言いますが、過去に在監者の幼年者との接見を禁止する規則の合法性が問題となった判例があります。在監者が幼年者と接見できないという法の規則は、本来の法の目的とは異なる目的から規則が制定されたとして、法律の枠から外れ、法律の委任の趣旨に反するという理由で違憲とされました。
このほか、銃刀法が美術品として価値ある刀剣類の所持を例外的に認めている規則が、対象を日本刀に限定することの可否が問われ合法とされた判例、さらに、農地改革で国が取得した土地を売払う条件として、法の定めより厳しい定めを規則として違法とされた判例――の3つは、覚えてください。
次に法規命令の成立要件を説明します。
法規命令の成立要件は、
①主体
②内容
③手続き
④形式――の4点で法に適合することです。
①は、法規命令を制定した者に正当な権原・授権があるか否かということです。
②は、上級の法令との抵触はないか、内容は明確で実現可能なものであるかなどです。
③は、審議機関の議決を経る必要がある場合にはその機関の議決があるかです。
④は、命令の種類の明記、署名がある文書であるかなど形式を整えているかです。
以上の4点が調えば命令は成立しますが、さらに国民に知らせるために、命令の公布が必要です。
一方、法規命令が消滅する場合は次のとおりです。
①命令の取消しまたは改廃
②法規命令の終期の到来
③法規命令の解約条件の成就
④上級命令の当該命令と矛盾する形の制定・改廃
⑤当該命令の根拠法令の消滅

Ⅲ.行政規制
行政規制とは、行政立法のうちの法規たる性質がないもののことで、国民の権利義務に関係ない事項を定めるものです。例えば、行政事務の分配とか、物的施設の管理に関する定め――などがこれに当たります。
行政規則の制定に当たっては法律の授権は不要です。それは、行政がその担当する作用を執行するためには、規則の制定は不可欠と言えるので、規則の制定は行政権の権能として当然だからです。法規制がないということは、法律による制限も必要ありません。
行政規則の中で、上級行政機関が下級行政機関の権限行使を指揮するために発する命令を通達と言います。通達には訓令といって書面によらないものも含まれます。
通達の目的は、行政運営の統一性を確保することです。
法の解釈によって扱いが変わってしまう場合や、行政機関に裁量が与えられている場合には、それぞれの行政機関によって取扱いがバラバラになってしまうおそれがあります。それを放置すれば、関わった行政機関により国民に有利不利が出てきてしまいます。これでは平等と言えないので、下級行政機関における取扱いの統一を図るために、通達が必要なわけです。
しかし、通達も行政規則の一つですから、行政組織の内部的規範にすぎず、法規でない点で国民や裁判所による拘束を受けません。つまり、通達の制定には法律などによる授権は不必要で、いつでも発することができますし、公布の必要もありません。
逆に、裁判所は通達の拘束は受けませんから、通達に反したことに対する処分は、行政内部の懲戒の対象になることを除いて、直ちに違法と評価されるわけではありません。
また、国民の権利義務に直接影響を及ぼすものではないので、取消訴訟で通達自体を争うことはできません。したがって、通達により国民に事実上の不利益が発生した場合は、当事者が裁判所に提訴して、通達に従って行われた処分の違法性を争うことになります。
裁判所は通達に拘束されないのですから、例え通達どおりに行われた処分でも、違法であって国民の権利を害するものであれば、抗告訴訟による取消しの対象となり、国民は救済されることになります。
このほか、行政規則に当たるものに要綱があります。
例えば、宅地開発指導要綱のように、行政組織内部で定められている行政指導に関する基準のことで、組織的に行政指導が行われる場合に制定されるものです。

要綱は行政指導に当たっての行政の内規にすぎないので法規ではありません。しかし、要綱に基づく規制的な行政指導が行われることで、事実上、国民に損害が生じることがあります。
例えば、マンション建設業者に、教育施設負担金を支払うよう求め、従わない業者には水道の供給を停止するなどの制裁規定を定める場合などです。
判例によれば、この場合の制裁措置の発動は、国民の権利に重大な影響を与え、もはや要綱とは言えないので、制裁措置の発動は認められない――としています。
さらに、行政規則のうち行政手続法などにより外部に表示することが必要な規則も存在し、告示という形式がとられることがあります。
告示とは、行政機関の意思または事実を国民に表示すること、またはその表示の形式のことで、例を挙げれば健康保険医療費の厚生労働省告示などが該当します。しかし、告示には様々なものがあり、行政規則としての性質を持つもののほか、法規命令と考えることのできるものもあります。

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