今回から、行政法の学習に入ります。行政法が、憲法や民法と違う点は、行政法という名の法典があるわけではないことです。ですから、その学習は、一つの法典を学習するのではなく、行政に関する法全体を学習することになります。つまり、行政法の分野とされる膨大な量の法律全部が学習の対象というわけです。
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「ええ~っ!!」と恐れおののいてしまった方がいらっしゃると思いますが、そんなに心配しないでください。一つひとつの法律を個々に学ぶのではなく、行政法に分類される法律に共通している原理や原則を覚えればいいのです。
よく行政法を学ぶには、行政法が憲法各論としての位置づけを持つことから、憲法の知識が必要と言われますが、実は民法の知識もとても重要です。なぜなら、実は、行政法は民法を意識して発達した側面を持っているからです。例えば、民法の不法行為の特則として、国家賠償法があるのはすでにご存じですね!
Ⅰ.行政と行政法
では、そもそも、行政ってなんでしょう?
例えば、県などの行政機関が行う各種の営業の許認可などは、この処分しだいで営業ができたり、できなくなったりします。そして、申請者は、課税処分があれば、納税の義務を負います。このように、これらの行為にはすべて私人の権利義務の内容を決定する行為です。これらの行為を行政行為と呼び、これらに共通する性質を研究する学問が行政法と呼ばれているものです。
ところで、行政の主体は国家や公共団体です。言い換えれば、国家や公共団体は政治を行う権力を持っているわけですから、私たちにとっては権力の濫用による権利の侵害をするおそれのある、警戒すべき存在でもあるわけです。一方、警察や消防、ゴミ処理など生活を支えるのになくてはならないサービスを提供してくれるのも国や公共団体です。
これらを総合すると、行政法は、国や公共団体の権力濫用を防ぐために権力に制限を加えると同時に、必要なサービスを提供させる手段を与えるための権限を認めるものと言えます。
この説明を呼んで、皆さんは、行政法が憲法と非常に似た法であると気づかれたでしょうか? 憲法は、国民の自由を保障してその侵害を禁じると同時に、国民に社会権を保障して国に必要な施策を義務付ける法でしたね。しかし、国の権力に制限を加え必要な授権を与える法が憲法ですが、根本的な法典であるため、規定が大まかです。
そこで、憲法が目指す目的を達成するために、特に行政府に権限を与え、その濫用を防ぐために一連の法として行政法が定められました。言い換えれば、行政法には憲法の各論としての位置づけがあるということになります。
Ⅱ.行政法の分類
以上を踏まえて、行政法をどのような単元に分けて勉強していくかをお話しします。
まず、①行政法総論を勉強します。ここでは、膨大にある行政関連法規に共通する用語や事柄等を学習します。初めて学習される方には、難解な用語や抽象的な話になるので、とっつきにくい感じがするかもしれませんが、できる限り具体的にイメージして学習していきましょう。この講義でもできるだけ具体例を挙げてイメージするお手伝いをします。
また、どうしてもうまくイメージできなくても、そこで立ち止まらないでください。その項はそこまでとして、先に進んでください。総論は、後に勉強する各論の集合体ですので、各論をした後に戻ってくると、すんなり理解できることが結構あるのです。
次に②行政手続法を勉強します。ここでは、事前の手続き・権利保護の手続きを定めた法律であることを意識して学習していきましょう。不当・違法な行政活動が行われた場合は、この次に勉強する行政救済法に基づいてクレームをつけることができます。しかし、本来はクレームをつけられるような行政活動は行われるべきではありませんよね! したがって、処分の相手方の意見を十分に聞くなどして、行政活動をより慎重、公正に行わせるためのルールが行政手続法です。
行政手続法は、大きく
①処分する手続き
②行政指導に関する手続き
③届け出に関する手続き
④命令等を定める手続き(意見公募手続)――の4つに分類できます。まずは、全体像を把握し、個々の手続きに関する学習を進めてください。
次は事後を扱う③行政救済法の勉強をします。行政による不当あるいは違法の疑いのある処分をされたとき、私たちがどこにどのように文句を言いに行けばいいかを決めたルールです。
主な行政救済法には、
①行政不服審査法
②行政事件訴訟法
③国家賠償法――などがあります。ここでの、勉強はそれぞれの救済法の同じ点、異なる点を意識して学習してください。
各法の勉強のポイントは、①行政不服審査法では、a異議申し立てと審査請求の対比、b行政不服申立てと行政事件訴訟の対比――です。
②行政事件訴訟法では、近年、改正がたびたび行われているので、この 改正点に注意してください。
③国家賠償法は、たった6条しかない法律です。学習の中心は判例です。特に第1条、2条の重要判例は、行政書士試験では必ず出るといってもいいくらいですから、必ず押さえてください。また、国家賠償法に付随して、損失補償についても確認してください。
最後に、④地方自治法を勉強します。地方分権は、その必要性が主張され、今まさに進行中の問題です。したがって、地方自治法の改正も頻繁ですから、しっかりフォローする必要があります。
学習に当たっては、数多い条文を追っていくより、a直接請求、b議会、c財務――といった具合に重要なテーマごとに理解していく方が効率的です。また、この講座の解説も同様に行いますので、ポイントを絞って覚えてください。
Ⅲ.行政書士試験に向けて
行政法の分野では、択一問題が中心となります。事例問題が主体の民法と異なり単純知識系の問題が多いのが特徴です。また、試験では最も出題数が多く配点も大きい科目なので、最も重要な科目であると同時に学習量と得点が比例しやすいので、学習効果のある科目とも言えます。
また、問題演習も並行して行った方が効率よい学習が行えます。①総論、②行政作用法の学習が終わったら、①テキストで基礎知識を付ける、②過去問等で出題パターンになれる、③答え合わせを行いながら、条文を読んで身に付ける――といった勉強の繰り返しを行って、一つひとつを確実に身に付けていって、得点力をアップしてください。