行政法 行政法の一般的な法理論7

前回、行政行為の瑕疵が無効になる場合をいろいろ見てきましたが、行政行為の公定力・不可争力を否定できる場合は、ほかにもあります。それが、公定力や不可争力を勉強した時に出てきた違法性の承継です。
今回は、この①違法性の承継と、②瑕疵の治癒・違法な行政行為の転換――について勉強することにします。

Ⅰ.違法性の承継
違法性の承継とは、先行行為の違法性が後行行為に承継され、後行行為の違法事由となることでしたね。後でなされた行政行為の効力を否定するに当たり、先行行為の違法性を根拠として争えることです。
この場合、先行行為を訴訟の対象とする必要はなく、先行行為について争うことが可能な期間が過ぎてしまっても、後行行為の違法を争う手続きの中で先行行為の違法を主張できることになります。
この結果、先行行為についての公定力や不可争力を否定するのに近い結果が得られることになります。
ただし、違法性の承継を認めて先行行為の違法を主張することは、そう簡単ではありません。ある行為が法律上争えないのに、別の訴えで争えるということが簡単では、行政上の法律関係を早期に安定させるために公定力や不可争力を認めた意味がなくなるおそれがあるからです。
そこで、違法性の承継が認められるのは、複数の行政行為が一体のものと評価できる特殊な場合と決まっています。
具体的には、
①複数の行政行為が、一つの効果の実現を目指しこれを完成するもの、また、そのためには
②先行行為と後行行為が相結合したものであること――の2つの条件をみたした場合です。
例えば、土地収用手続きにおける事業認定とそれに続く収用裁決がこのような関係が認められる場合と言われています。事業認定はある公共事業の完成を目指したもので、そのための具体的な手段が収用裁決になります。同じ目的を目指した一つの手続きの流れを構成する一体の行為であると言えるのです。
同じく、農地買収計画とそれに続く買収処分にも同じ関係が認められます。
このことは、事業認定や農地買収計画の策定の段階では、処分性や原告適格(どちらも行政救済法で詳しく解説します)の問題で、私人がこれを争うことは難しく、収用裁決や農地買収処分があって初めて争えるということと無関係ではないと言えます。
つまり、これらの場合、先行行為に違法があるが争えない…、さらに争うことができる具体的な処分そのものには違法がない…ということが発生してしまうのです。これでは、行政の適法性の維持や権利救済の観点で問題がありすぎですね!
そこで、違法性の承継が認められるのです。
一方、判例では、租税賦課処分とそれに続く滞納処分の間には、違法系の承継がないとしています。理論的には、租税賦課処分は租税の納付義務を発生させることを目的とする処分であるのに対し、滞納処分は履行を強制するためのものであって、両者は別個の効果を目指すものと解釈しているのです。
実質的にも、租税賦課処分については、原告適格、処分性などの観点からみて単独で争うことが可能ですし、違法性の承継を認めて国民を救済する必要もないと言えます。
以上のように違法性の承継は、ある行為について処分性がないとか不可争力により争うことができないということでは不当な結果が導かれる場合に、救済するためのものであり、救済の必要がある場合に認められる理論であると言えそうです。

Ⅱ.瑕疵の治癒・違法な行政行為の転換
行政行為に瑕疵があれば取消せるのが原則です。しかし、違法が重大である場合には取消すまでもなく、行政行為が無効になったのと逆に、瑕疵が軽微であるものなら行政行為の効力を否定するまでのものでない場合もあり得ます。
軽微な瑕疵による行政行為の効力を否定する必要がなく、否定したら弊害が発生することも考えられるなら、行政行為の効力は維持する方がいいに決まっています。
弊害とは、例えば効力を否定することが行政行為が有効であるとする相手方の信頼を裏切るおそれがある場合です。このような場合、法的安定性や行政経済(無駄を省く)という観点から、当初の行政行為の効力の維持を認める方が適切です。
この例として、欠けている要件(通常は手続きや形式的な要件です)が、追完され、瑕疵がなくなった場合を挙げることができます。これを瑕疵の治癒と言います。例えば、農地買収計画の縦覧期間が所定より1日短かった場合、手続的には違法ですが、その間に関係者全員が縦覧を済ませていたとすれば、実質的な問題はないので、瑕疵の治癒を認め、行政行為の効力を維持することをとります。
また、ある会議の招集手続きに瑕疵があったとします。でも、会議に所定の参加者が全員出席して、異議なく議決に参加したとしたら、招集手続きの瑕疵により参加者などの利益を損なう事情はないと言えます。そこで、この場合も瑕疵の治癒が認められます。
一方、ある判例では、行政処分に伴って理由付記が要求されているにもかかわらず、これを行わなかったという違法について、後日不服申立ての裁決の段階で、詳細な理由を申立てて追完を行っても、違法性の治癒が認められていません。
違法性の追完の認否認を考える際には、守られるべき点がなぜ守られるべきなのかを考えると分かりやすいでしょう。
仮に、理由付記の趣旨が単に理由を知らせればそれでよいというなら、いつ知らされるかは重要ではありません。
しかし、理由付記の趣旨が、もっと深いところ、例えば相手にとって不利益なある処分をするに当たって、処分庁に慎重な判断をさせ、処分の合理性を確保するということにあったとしたら、付記のあるなしはとても重要と言えます。
さらに、処分の相手にとって理由が分からないとすれば、不服があっても十分な反論ができないことになります。つまり、理由付記の趣旨は、相手方の不服申立ての便宜を図る点にもあるのです。
とすると、理由は先に書いてなければ意味がないことになりますね。とすれば、審査請求の時点で理由が知らされても瑕疵を治癒するわけにはいかないことになります。これが、前述の判例の判旨です。
次に違法行為の転換です。これは、違法であるから本来の行政行為の効力としては認められない瑕疵ある行政行為を、瑕疵がない別の行政行為として有効なものとして扱うことです。
例として、市役所の空いたスペースを飲食店として利用することを許可する処分の通知を考えてみましょう。この許可通知がされたときに申請した人がすでに亡くなっていたとします。亡くなった方には法的には人権はありません。そこで、行政行為の相手が死者である場合、権利義務を発生させる必要がないので、法律上では、行為は無効となります。
例えば、公務員の採用許可や医師免許などは個人に対して与えられるものなので、当然、原則通り免許は無効となります。
しかし、例のように営業許可だったらどうでしょう? その許可は人の個性を問題としたものではありませんね。申請者が死亡しても店は一緒にやっている息子に相続され、滞りなく経営できる状態にあったとしても、無効となってしまうのでしょうか?
実は、この事例の市役所の一部の使用許可処分は、営業許可を相続されることと考えることにしました。
つまり、この事例の許可処分を、これを受取った相続人に対する許可処分として取扱うのが妥当ということになっています。このため、無効なはずの営業許可処分を、その相続人に対する許可処分に振り替えることとしたのです。これを、違法行為の転換と呼びます。
違法行為の転換には、このほか、小作人からの賠償請求を要するとの定めに基づき買収計画が定立されましたが、買収請求が欠けていた事例があります。この場合に、賠償請求を要件としないで買収計画の定立を認める別の条文を適用して、買収計画を相当とする判断をすることができると、判例はしました。
このような解釈は、誤りを是正する手段として簡便であるし、いちいち手続きのやり直しをする必要がないので、早期に問題を解決できるメリットがあるというわけです。

今日も行政行為のお話です。前回の続きです。
今日は、瑕疵ある行政行為の取消し、と言っても行政庁自身による①職権取消しと②行政行為の撤回――について解説します。

Ⅰ.職権取消し
行政行為に違法な点がある場合には、私人が、それを主張して取消すことができることを前回お話ししましたが、私人からの主張を待たず、行政庁の判断だけで取消すこともできます。
行政庁の側で、ある行政行為は違法であると気づいた場合に、私人からの主張を待たずに取消しが行えた方が、法の遵守という観点から望ましいと言えます。さらに、違法な状態が迅速に解消されるべきだからです。
また、私人からは判断の誤りの可能性がある、不当だというだけでは、行政行為の取消しを求めることは難しかったのでしたね。しかし、行政庁という専門家の判断から見て行為が不当だと気づいたなら、行為の効力を否定できた方が合理的です。
そこで、行政庁は、行政行為が不当と判断した場合は、違法と判断されない場合でも行政行為を取消すことを可能にしました。
このような行政庁の判断に基づく取消しは、行政不服申立てなどの私人の申立てによる取消しと区別するために、職権取消しと呼ばれます。
職権取消しの定義を次に記しますので、しっかり覚えてください。
行政行為に
①取消原因が存在する場合
②権限のある行政庁がその法律上の効力を失わせ
③既往にさかのぼって初めからその行為が行われなかったと同様の状態に服させる行為
定義をもとに、職権取消しの特徴を見ていきましょう。
まず、取消しの対象は当初から違法などの瑕疵がある行政行為です。そのうち、国民からの請求に基づかないものを職権取消しと言います。
これに対して国民からの請求により行政行為を取消すものには、行政不服申立て、行政訴訟による争訟取消しがあります。
そして、以上の取消しには遡及効が認められます。
ところで、職権による取消しの権限は、法律による根拠が必要なのでしょうか?
法の一般理論によれば、ある行為ができる者には、それを取消すことが認められるといわれています。民法なら、契約の申込みは申込者の側から撤回することが認められています。
また、違法状態とは法律による行政に反する状態と言えますし、不当な状態も行政目的に違反した状態です。これは、速やかに排除されるべきなのに、法律の根拠がないと排除できないのは、おかしな話です。さらに、排除されても元に戻るだけですから、基本的に弊害はありません。
つまり、少なくとも処分庁が取消す場合には、法律の根拠は必要ないと言われています。
これに対して、監督行政庁による取消しが行えるかという点は、解釈の仕方が2とおりあります。
まず、監督行政庁は、あくまで監督をする官庁であって、処分そのものをする権限があるとは限らないので、取消す権限はないと考えることができます。
一方、取消し対象になる行政行為は違法か不当かのどちらかなので、処分庁に対してある行為を取消すよう命じるより、直ちに取消しをした方が速やかに違法または不当な状況を解消できます。徹底した監督を行う上でも、監督行政庁が取消しができた方が望ましいとも考えられます。
現在の通説では、行政行為の職権取消しは、監督権限の中に含まれ、監督行政庁は明文の根拠がなくても行政行為を取消すことができるとされています。
ところで、行政庁の行政官は専門的知識があるということから、行政庁による行政行為の取消しは、取消訴訟などに比較して広く認められています。つまり、公定力や不可争力による制限を受けませんし、不当行為も取消しの対象になります。
それでは、職権取消しに何の制限もないかと言えば、そうではなく、例えば、審査請求に対する裁決のような不可変更力ある行政行為は、原則として取消しができません。裁決は紛争を解決するための基準を明らかにするためのものですから、これがしばしば取消されることになると、事件の解決ができません。したがって、不可変更力のある行政行為の取消しはできません。
また、受益的行政行為も原則として取消せません。たとえ行政行為に違法な点が認められても、それが行政側にあるという場合に任意に行政行為を取消すと相手方の信頼を害するからです。
例えば、条件が満たされていないのに、公共施設である文化会館の利用許可を与えてしまった場合、一方的に簡単に取消すというわけにはいかないということです。施設が使える――とぬか喜びさせるのもよくないし、当日のチケットの販売を開始していたりしたらなおさらです。さらに、満たされていない条件も大したものでなかった場合もあるからです。
この場合、行為の成立に相手方の不正行為が関わっているときには、相手方を保護する必要がないので、取消すことができます。
また、相手方に責められるべき事情がなく、その信頼を犠牲にしてもなお取消しを認めるべき公益上の必要性がある場合にも取消しが可能です。
なお、免許の停止、営業停止などの侵害的行政行為は、自由に取消すことができます。取消しにより私人に不都合は生じないから、できるだけ早く問題を解消すべきだからです。

Ⅱ.行政行為の撤回
行政行為の取消しと同じく、行政庁がその判断で行政行為の効力を否定するものとして、行政行為の撤回があります。
行政行為の撤回の定義は次の通りです。
行政行為に
①新たな事由(義務違反、公益上の必要性等)が発生した場合に、
②将来にわたりその効力を失わせるためにする行政行為。
行政行為の取消しとの違いを確認してみましょう。
まず、撤回の原因は、撤回の対象になる行政行為が行われた当初に存在する必要はありません。
例えば、もともと自動車の運転免許が与えられる条件がそろっていないのに、なぜか免許が与えられてしまった場合は、免許を取消すべきですが、免許を受け取ってから、重大な交通違反をしたという場合は、この時点で免許の効力をなくするものです。つまり、これは撤回に当たります。よく、交通違反では、免許の取消しと言いますが、行政法学上では、取消しではなく撤回に分類されますので、注意してください。
また、このことは、撤回のもう一つの特徴が、撤回があってから将来に向かって行政行為の効力が否定されることでも分かります。運転免許を取消したという場合、もしこの取消しに遡及効があるとすれば、取消しまでにした運転はすべて無免許運転になってしまいます。これはおかしいですよね。ですから、運転免許の取消しは、行政学上は取消しでなくて撤回なのです。
このほか、取消しと撤回の違いとして、撤回を行える権限が認められる者は、原則として処分行政庁だけです。取消しの場合、監督行政庁にも認めるのが通説でしたね。撤回が監督行政庁に認められていないのは、撤回は新しい行政行為を行うことだからです。
また、撤回は取消しと同じく行政行為の効力を否定するものなので、取消しと同じで制限される場合があります。特に授益的な行政行為については撤回が制限されます。
では、公益を確保するために授益的行政行為もが、制限されるとしたら、損失補償してくれるのでしょうか? これについての判例をご紹介します。
撤回があり得ることは私人も覚悟できることから、私人は撤回に備えた措置を採るべきだし、公益の実現のためには保障の必要がないとすることが必要かつ相当と言えるので、損失補償は不要。
分かりにくいので、例を挙げます。
市役所の一室が空いているからということで、特別に店舗としての使用を認めていたところ、執務室として使う必要が出てきた場合、使用許可を撤回するには、法的根拠も必要なければ損失の補償はいらないのが原則と言えるということです。

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