行政法 行政法の一般的な法理論4

今回は、行政作用法のうち最も基本的でかつ試験頻出の行政行為について勉強します。
まず、最初に勉強するのは、①行政行為の定義です。そして、最後に②行政行為の分類をします。個々の行為については、次回から解説します。

Ⅰ.行政行為の定義
行政行為とは一文で表すと、行政庁が、
①法律の定めるところにより、
②その一方的判断に基づいて、
③国民の
④権利義務その他の法的地位を
⑤具体的に決定する行為――ということができます。
でも、この分を読んだだけでは行政行為というものが見えてきませんね。そこで、細かく見ていくことにしますが、定義としては、文字面どおりに覚えてくださいね。
定義のポイントの1つは、②のその一方的判断に基づくという点で、すなわち、相手の同意がなくても法律行為を変動できるということです。相手の同意がなくても法律関係を変動させることができるということは、当然、法律の根拠が必要です。
また、次のポイントは、④の権利変動の原因となって法的な規制を伴うという点で、行政行為は、行政指導や即時強制(後に解説)とは異なると言えます。即時強制は国民に強度な不利益を与え、行政指導も事実上の不利益を与えることはありますが、国民に法的な義務を発生させるものではありません。
ところで、判例を読んでいくとしばしば、「処分」や「行政処分」等の用語が使われることがあります。処分は、判例によると「国または地方公共団体が行う行為のうち、その行為によって直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの」とされています。つまり、判例でいう処分は行政行為と言えることがお分かりかと思います。

Ⅱ.行政行為の分類
ここでは、皆さんに行政行為にはどのようなものがあるかを把握してほしいと考えています。行政行為と一口に言っても、様々なものがあります。行政行為の分類の方法には、まず、国民に利益を与えるものかどうかという視点で、
①侵害的行政行為
②授益的行政行為――に分ける方法があります。
例えば、国民に義務を発生させる下命(かめい)や禁止行為は不利益を与える侵害的行為に、許可・特許・認可行為は国民に利益を与える授益行政行為に分類されます。個々の行為については次回から解説しますので、ここでは名前だけ憶えてください。
国民に不利益を与える侵害的行政行為は、国民の同意がなければ行えないと考えるべきですし、権力の濫用を防ぐ必要も生じます。
これに対して、国民に利益を発生させる授益的行政行為はそれほど慎重にならなくても大丈夫です。
つまり、この分類は、このような判断をする目安と言えるのですが、侵害的か授益的かの分類は絶対的ではありません。
例えば、建築確認などで建築許可を与えた場合、建築主にとっては授益的であっても、その建築で日照や景観が害される人がいたとしたら、その人にとっては不利益が発生するわけです。ある人にとっては授益的な行政行為が、ある人にとっては侵害的であることがあり得るのです。
ですから、この侵害的か授益的かで分ける分類は相対的なものであると言えます。
次に一般的に言われている、行政庁の意思表示を要素とする分類をお話しします。この点に着目した分類が、
①法律行為的行政行為
②準法律行為的行政行為――に分ける方法です。
①の法律行為的行政行為は行政庁の意思に基づく効果が発生し、準法律行為的行政行為は効果が法定されているものです。

法律行為的行政行為には、①下命、②禁止、③許可、④免除、⑤特許、⑥認可、⑦代理――があり、
準法律行為的行政行為には、⑧確認、⑨公証、⑩通知、⑪受理――があります。
この分類は、行政裁量のあり方に影響します。つまり、法律行為的行政行為では、意思に基づく効果が発生する以上、意思形成の自由に対応して行政裁量が認められるのに対して、準法律行為的行政行為では効果が法定されている以上、自由な効果の発生は認められず、すなわち行政裁量も認められないことになるわけです。
行政裁量が認められるほど、行政行為の適法性も認められやすく、逆に行政裁量がなければ違法と判断されやすいと言えます。
また、法律行為的行政行為は、さらに
①命令的行為
②形成的行為――に分けることができます。
命令的行為とは、義務を命じ、またこれを発する行為のことです。この結果、国民は自由が制限されたり、制限が解かれたりします。
例えば、下命は国民に義務を発生させ、免除はそれを解く行政行為です。禁止と許可も国民に義務を発生させたり、解いたりするものですから、命令的行為に当たります。
一方、形成的行為とは、その行為が行われると法律上の効力が発生・変更・消滅するもの(法律関係が変動するもの)です。その結果、権利や能力、包括的な権利が設定されます。
この例としては特許が挙げられます。また、第三者の行為を補充して効力を完成させたり、第三者に代わって行う行為として許可や代理があります。
つまり、形成的行為には、
①行政庁が主体的に行う行為
②他人の行為に加えて行政庁が行為をすることで行為が完成する――2つの場合があるということです。
命令的行為と形成的行為の分類は、行為に瑕疵がある場合の処理に相違が生じます。
具体的には、命令的行為は、本来私人の自由に任されるところに制限を加えるものですので、みだりに行えません。このために、法の解釈の範囲内でしか裁量が認められず、行政による自由な判断に任せられる部分はありません。このことを覊束(きそく)裁量行為といいます。もちろん、裁判所による審査の対象となります。
また、命令的行為に反して私人がある行為を行っても、本来私人ができる行為であるので、その私人の行為の効力は無効となりません。
一方、形成的行為は、行政行為によって初めて法律関係が設定されるもので、本来私人が持っている自由を制限するものではありません。ですから、行政庁に自由裁量が認められ、形成的行為に反する私人の行為は無効となります。
ただし、命令的行為と形成的行為の区別もどのような場合にも当てはまるものではありませんし、覊束裁量行為か自由裁量行為かという区別も決定的にできるものではありません。
判例では、自由裁量行為でも裁量の逸脱・濫用がある場合、司法審査の対象となると解釈しています。

前回、10種類の行政行為に分類しました。今回は、それを一つひとつ紹介したいと思います。

Ⅰ.下命・禁止・免除
まず、下命・禁止から解説します。下命とは、国民に一定の作為・不作為・給付・受忍を命じる行為のことで、国民の自由を制限して義務を発生させるものと言えます。
例を挙げると、租税納付命令、違法建築物の除却・移転の命令――などです。
この下命のうち、特に一定の不作為を命じる行為を禁止と言います。例えば、営業停止命令、道路の通行禁止、違法建築物の使用禁止――などです。いずれもあることに対して「しない」ことを命じることに注意してください。
禁止を無視してあることをした場合、強制執行または処罰の対象となります。しかし、この場合の行政行為は、命令的行為の一つなので、行ったあることが無効となるわけではありません。
一方、特定の場合に作為・給付・受忍の義務を解除する行為のことを免除と言います。下命によって発生した義務を消滅させるものという点で、免除は下命と裏表の関係であるという性質が認められます。
例としては、納税の猶予(租税納付命令の裏)を挙げることができます。

Ⅱ.許可・特許・認可
次に、とても似ている許可・特許・認可について比較しながらお話しします。
まず、許可とは、一般的な禁止を特定の場合に解除することです。負担を取り去るという観点から免除の一種であると言えます。つまり、下命の中に禁止があったように、免除の中に許可が含まれていると考えてください。
許可があれば、適法に一定の行為をすることができます。
例えば、医薬品の製造の承認、自動車運転の免許、公衆浴場や飲食店の営業許可――などが該当します。どれも、禁止されているものが可能になるという点で共通する点に注意してください。
自動車運転の免許は、免許なのに許可なのかと疑問に思った方がいらっしゃると思います。行政学上では許可に分類されるものの中には、許可以外の言葉が使われることがあり、記述の免許のほか認可という言葉が使われることもあります。
許可とは、もともと私人が持っている自由を回復するものとも言えます。新たに権利を発生させるものではありません。このため、許可の対象となる行為は、私法により規律されます。
例えば、許可を重複して行えるか否かは、その対象となる行為が民法などから自由といえるか否かによって決まり、許可を受けた者の優劣も民法などで決まります。
また、許可は、命令的行為に分類されますので、許可をするか否かの判断では、行政庁に覊束裁量しか認められません。つまり、許可申請が競合した場合は、申請の順がものを言います。申請が先の者が優先されるのです。このルールを先願主義と言います。
次に、特許とは、直接の相手方のために、能力、権利の付与、包括的な法律関係を設定する行為のことです。
例として、鉱業権設定の許可、運送事業の免許、生活保護給付の決定――などが挙げられます。
特許がなされる前提要件を出願と呼び、出願の趣旨に反する特許は有効に成立しません。例えば、公務員が出願し採用されることも特許の一つですが、何かの手違いで出願した人の意思とはまったく異なった職種で採用がなされた場合がこれに相当し、採用(特許)は有効とはなりません。また、特許によっていったん権利や法的地位を与えたとしても、利権の付与を撤回するだけなので、行政庁がこれを剥奪・変更することはたやすいと言えます。
さらに、特許は形成的行為なので、国民が本来持っている自由に干渉するものではありません。そこで、特許は自由裁量行為として行政庁の裁量が広く認められます。
例えば、すでに特許が与えられた者があることを理由に、出願に対する拒否処分を行えます。また、競合者がいる場合には、先願主義の採用はなく、申請者のいずれに特許を与えるのが適切かは、専門的な判断によって決めることができます。
もし、重複して特許が与えられた場合には、すでに特許が与えられた人は新たに特許を与えられた人に対して、自分が優先すると主張できます。
3番目は認可です。認可とは第三者の行為を補充してその法律上の効力を完成させる行為のことです。許可や特許は、それだけで人の法的地位に影響を与えるのに対し、認可は第三者の行為と行政行為が相まって初めて人の法的地位に影響を与えます。許可が行為の適法要件にすぎないのに対して、認可はこれがないと法律行為としての効果が発生しません。
例を挙げると、銀行合併の認可、農地の取得における農業委員会の許可――などです。銀行が合併するには当事者の合併契約と行政庁の認可が必要です。農地の取得も当事者の売買契約と農業委員会の許可(行政法上は認可に当たります)が必要です。
農業委員会の許可のように、行政法学上は認可に分類されるものも、法文上は違う表現がされることもあるので、注意してください。
今までの下命・禁止、免除・許可、特許・認可は、比較的行政書士試験に出題されやすい行政行為の類型なので、しっかり違いを覚えるようにしましょう。なお、文末に行政行為を一覧表にまとめますので、参考にしてください。

Ⅲ.代理
法律行為的行政行為の一つ代理は、第三者が行うべき行為を国が代わって行い、その結果、第三者が行ったのと同じ効果が発生するもののことです。他人がすべき行為を国が行為をすることで完成するという点で認可と似ている面を持っています。
代理の例が、土地収用の裁決、日銀総裁の任命――です。土地収用の裁決は、土地を購入する人と売却する人で売買契約を行って所有権移転の効果が生じるところを、土地収用の裁決があると、売買契約が成り立たなくても購入者に所有権が移転する効果が発生します。日銀総裁の任命も、日本銀行の内部で任命をすべきところ、両議院の同意を得て内閣が任命することになっています。

Ⅳ.確認・公証・通知・受理
続いて準法律的行政行為を
①確認
②公証
③通知
④受理――の4つに分類してお話しします。
まず、確認とは、特定の事実または法律関係に関して、疑いまたは争いがある場合に、公の権威をもってその存否または真否を確認する行為とされています。例を挙げると建築確認や恩給権の裁定などで、間違いがあっては困る内容について、間違いがないように国または公共団体が確認する行為と言えます。
建築確認は、対象となる建築物が建築基準法に定められている条件を満たしているか否かを確認するというだけのことですが、基準を満たさない建築物が無断で建てられると危険なので、基準を満たすことの確認がない限り着工できず、建築確認があるとその建築物が着工可能になるという効果が、行政庁の意思に関わらず発生するので、準法律行為的な行政行為に当たります。
恩給権の裁定も資格の存否を確認するだけのものですが、資格がない人に恩給を支給するのは国家財産の無駄遣いになるので、この裁定を行って権利の存在が確認されてから恩給を受けることができるようになるので、これも準法律行為的行政行為です。
次に公証とは、特定の事実または法律関係の存否を公に証明する行政行為のことで、例えば、運転免許証の交付、選挙人名簿への登録――などがこれに当たります。確認と同じくある事実の存在を明らかにすることですが、対象がその存否に争いがあるのではなく国または公共団体が、ある事実が確かであることをただ証明してくれる行為のことを公証と言います。
公証の結果、自動車の運転が可能になったり、選挙権の行使が可能になったりするという効果を生じます。
一方、通知とは、特定の事項を知らしめる行為のことです。対象は特定の人のほか、不特定の人に対するものも含みます。
例えば、租税納付の督促、代執行の戒告――などです。租税納付の督促があれば納付すべき金額に督促料が発生する、代執行の戒告があると代執行を受けることの受忍の義務が発生する――というように特別の効果が発生します。
最後に受理とは、他人の行為を有効な行為として受領する行為のことです。
例えば、婚姻届が受理されると、婚姻の効果が発生し、婚姻届を提出した人が夫婦になるわけです。

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