環境問題等と消費者保護
今回は、社会分野のポイントの一つ環境問題等を勉強しましょう。また、消費者保護についても補足します。
Ⅰ.環境問題等
我が国では公害問題に対する国民世論の高まりを受け、1967年に公害対策の総合推進を図る公害対策基本法が成立し、環境問題に対する規制等が行われていました。しかし、1993年に廃止され、代わって環境基本法が制定され、現在中心となる法律は、①環境基本法、②環境影響評価法(環境アセスメント法)――の2つとなりました。
①の環境基本法とは、環境行政を計画的に進めるための基本施策を定めた法律です。経済活動などによる環境への悪影響をできるだけ少なくして、社会全体を環境保全型に変更することを基本理念としています。
1994年12月の閣議決定により、環境基本法に基づいて21世紀初頭までの基本的な方向性を占めす環境基本計画が定められました。この第一次環境基本計画は、基本理念として、a循環、b共生、c参加、d国際的取組み――を掲げ、環境影響評価制度の推進や環境税導入に向けた調査・研究について、必要な措置を採ることなどを規定しています。
しかし、2000年12月には計画が見直され、持続可能な社会の構築が第二次計画として、さらに2006年4月に環境的側面、経済的側面、社会的側面の総合的な向上などを盛り込んだ第三次計画が閣議決定されました。
②の環境影響評価法(環境アセスメント法)とは、環境アセスメントの手続き等に関して定めた法律で、1997年制定されました。環境アセスメントとは、大規模な事業や計画、政策などの人的行為が環境に及ぼす影響をあらかじめ回避・低減するため、事業者による自主的環境配慮を促すための制度のことで、環境影響評価法は、大規模公共事業などにおける環境アセスメントの手続きを定めるものです。
1999年に全面施行された環境影響評価法の主な内容は、a対象事業の拡大、b住民意見の提出機会の増加、cスクリーニング、dスコーピング手法の導入、e生物多様性や住民の自然との触れ合いに及ぼす影響を調査内容に加えること、f環境影響の低減に最大限の努力をしたかどうかを評価の判断材料に入れること――などです。これらにより、意思決定段階における環境配慮が大幅に強化されました。なお、スクリーニングとは、アセスメントの対象事業か否かを振分ける手続き、スコーピングとは、環境アセスメントの手法・方法など評価の枠組みを決める方法を確定させるための手続きのことです。
近年の環境問題の柱は地球温暖化です。ここからは、地球温暖化への対応について京都議定書を中心にお話を進めます。
1992年の地球サミットで気候変動枠組条約が結ばれ、温室効果ガスの排出量を2000年までに1990年のレベルまで戻すという目標が定められました。1997年、京都で開かれた気候変動枠組条約第3回締結国会議で、目標が修正され、京都議定書が採択されました。2004年に、京都議定書をロシアが批准したことで発効要件が満たされ、2005年2月に発効しました。
ただし、世界最大の温室効果ガス排出国であるアメリカ合衆国が離脱したほか、排出量の多い中国、インドなどは、途上国であるという理由で削減義務が課されていない――などの問題が残っています。
なお、京都議定書には、削減目的達成のために京都メカニズムという次の3つの仕組みが認められています。
①排出量取引
②クリーン開発メカニズム
③共同実施
①の排出量取引とは、先進国同士で排出量(枠)を取引することで、京都議定書により課せられた温室効果ガスの削減目標を上回った国は、その超過分を他国に売却できるというものです。政府間レベルだけでなく、民間レベルでも排出量取引が行われています。排出量取引は、先進国全体の温室効果ガスの総排出量に影響を与えないという特徴があります。
②のクリーン開発メカニズムとは、途上国において、先進国が発展途上国と共同で温室効果ガス削減を実施した場合は、削減した温室効果ガスの一部を先進国の削減量と見なすこととした仕組みです。先進国は削減分を目標達成に活用できるとともに、途上国は先進国から投資と技術移転が行われるという両者にとってのメリットがあります。
③の共同実施とは、先進国同士で排出削減や吸収などの事業を行い、当該事業を実施するために費用を投資した国がその成果である排出量削減量をクレジットとして獲得できる仕組みです。
なお、京都議定書の概要は、次のとおりです。
発効要件:55カ国以上が批准し、批准した先進国の排出量(1990年時点)の合計が先進国全体の55%以上
削減期間:2008年~2012年までの5年間
対象ガスの種類:原則1990年を基準年として、二酸化炭素やメタンなど6種類のガス
削減目標:対1990年比で、先進国全体で約5%、EU8%、アメリカ合衆国7%(2001年離脱)、日本6%
上記のように我が国は2008年から5年間で温室効果ガスの平均排出量を1990年比で6%削減する義務を負っています。そこで、我が国は、途上国などの温室効果ガス削減プロジェクトに投資し、その削減分の排出量を取得する日本温暖化ガス削減基金を設立しました。また、地球温暖化対策の推進に関する法律(地球温暖化対策推進法)に基づき、京都議定書目標達成計画を2005年に決定、2010年度時点の削減目標を提示するなどの具体的な対応を示しています。2005年の同法改正により、一定量以上の温室効果ガス排出者には、排出量算定と国への報告を義務付け、国が集計・公表する温室効果ガス排出量算定報告書・公表制度が導入されています。改正の主な内容は、①京都メカニズムによる削減の取得、保有および移転の記録を行うための割当量口座簿の整備、②クレジット取引の安全性の確保――などです。
次に、環境関連の条約などを下記にまとめます。条約名と概要を覚えてください。
★ラムサール条約(1971年採択):渡り鳥などの生息地を抱える締約国に、その登録と保護を義務付ける条約
★国連人間環境会議(1972年):公害・環境問題に対処することを目的に、ストックホルムで開催された国際会議で、かけがえのない地球というスローガンのもとで、人間環境宣言が採択された。
★国連環境計画(UNEP/1972年):国連人間環境会議での成果を実施に移すために設立された機関(本部はケニア・ナイロビ)で、国際環境条約の立案等その活動は多岐にわたる。
★ロンドン条約(1972年採択):海洋環境を守るために船舶などからの廃棄物や汚染物質の排出を規制する条約で、我が国は1980年に批准。
★世界遺産条約(1972年):ユネスコが貴重な文化財と自然の保護を目的として採択した条約で、日本は1992年に批准。
★ワシントン条約(1973年):絶滅のおそれのある野生生物の国際取引の規制を目的とする条約で、日本では、種の保存法により国内取引の規制を行っている。
★モントリオール議定書(1987年):オゾン層の保護のためのウィーン条約に基づいて採択された議定書。
★バーゼル条約(1989年採択):廃棄物を廃棄物処理能力のない国に移送した結果、受入国の環境が破壊されることを防ぐための国際的な枠組み。我が国では、特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律が1993年に施行されている。
★生物多様性に関する条約(1992年):生態系・種・遺伝子などあらゆるレベルでの生物多様性の保全、つまり、生息地の自然状態での保全という考えのもとに地球環境を守る重要性を確認した条約
★環境と開発に関するリオ宣言(1992年):環境と開発に関する国連会議(地球サミット)で発表された宣言で、各国には共通だが差異のある責任があり、先進国は持続可能な開発の国際的な追求という責任を有することなどを内容としている。
★砂漠化防止条約(1994年):特にアフリカの国において砂漠化に対処するための条約。
★カルタヘナ議定書(2000年):生物多様性条約に基づき、遺伝子組換え生物が在来種を脅かしたり健康に影響を与えたりしないための措置をとるべきことを定めている。
★地球サミット(2002年):多国間協議での取組みを盛り込んだ政治宣言で、持続可能な開発に関するヨハネスブルグ宣言を採択。
★バラスト水規制条約(2004年2月採択):バラスト水(空荷の船を安定させるために積まれる水)によって外来生物が持ち込まれることを防ぐ条約
ここからは、環境を守るための措置の1つリサイクルに関する法律も見ていきたいと思います。まず、消費者に関係する2つの法律、①容器包装リサイクル法と②自動車リサイクル法――を紹介します。
①の容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進に関する法律(容器包装リサイクル法)は、一般廃棄物の6割を占める容器包装類のリサイクルを促進するため、消費者には商品の容器・包装物の分別排出を、自治体には分別収集を促し、事業者には再商品化を義務付けるものです。
ここで、廃棄物について少しお話しします。廃棄物は大きく分けてa一般廃棄物とb産業廃棄物――に区分されます。a一般廃棄物とは、主に一般家庭から発生する家庭ごみと、オフィスや飲食店から発生する事業系ごみの、産業廃棄物以外のごみのことです。b産業廃棄物とは、事業活動によって生じた廃棄物のうち、法律で定められた20種類の物と輸入された廃棄物のことです。
2006年施行の改正容器包装リサイクル法では、新たに法の目的として、放出の抑制が追加され、aリサイクルの合理化の促進、b事業者から市町村に対し資金を支払う仕組みの創設、c事業者に対する罰則の強化――などが盛り込まれています。
②の自動車リサイクル法は、使用済み自動車を有償で引き取ることによる負担を嫌って、不法投棄が多発して社会問題となったことから、2005年1月に施行されました。
原則としてすべての自動車が対象で、費用は、自動車の使用者が負担します。リサイクル券を発行することで、リサイクル料金の支払いが証明されます。
また、原則として車検証の有効期間内に自動車が適正に解体された場合に限り、所見の残存期間に応じた自動車重量税額の還付を受ける自動車重量税廃車還付制度があります。
上記以外のリサイクル関連法については、下記にまとめます。
★廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法/1970年制定):廃棄物を一般・産業・特別管理廃棄物等に区分し、自治体や排出者の処理責任を定めている。マニフェスト制度導入・法人対象の罰金額の引下げ(最高1億円)・設置者に事前調査の義務付けなど、頻繁に改正がなされている。
★特定家庭用機器再商品化法(家電リサイクル法/2001年施行):家電メーカーおよび小売業者に引取りを義務付け、家電メーカーに廃家電のリサイクルを義務づける法律。対象家電は、テレビ、エアコン、冷蔵庫、洗濯機でリサイクルなどの費用は廃棄時に消費者が負担し、メーカーはリサイクル義務を負う。
★国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(グリーン購入法/2001年施行):政府や特殊法人が、環境にやさしい商品を率先して購入することを推進することを定めている。
★資源の有効な利用の促進に関する法律(資源有効利用促進法・改正リサイクル法/2002年改正):リサイクルの強化、発生抑制、再使用の促進を優先する考え方を明確にし、規制対象となる業種、品目も大幅に増加された。2003年10月からパソコンとディスプレイの回収とリサイクルがメーカーへ義務付けられている。
★特定製品に係るフロン類の回収及び破壊の実施の確保等に関する法律(フロン回収破壊法/2006年改正):オゾン層の破壊や地球温暖化をもたらす3種類のフロンガスを、大気中に放出することを禁止している。
★食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律(食品リサイクル法/2007年改正):外食産業等、食品関連事業者に対し、一定の基準に従い、排出される生ごみや残飯などの食品廃棄物について飼料や肥料などの再資源化の実施を求めている。
Ⅱ.消費者保護
悪質商法や製品事故、食品偽装などの消費者問題に対し、内閣府の外局として消費者庁設置関連法案に基づいて2009年に発足したのが消費者庁です。既存省庁の所管を超えて広く携わり、事故情報の公表や企業への立入検査のほか、問題ある製品には回収命令を出すよう関係省庁に勧告する権限も有しています。
消費者問題を扱う法律として、重要なものの1つが消費者契約法です。2001年4月施行の消費者契約法は、消費者個人が行った労働契約以外の契約に適用されますが、個人で行った場合でも事業としてまたは事業のために契約の当事者となった場合には適用されません。
消費者契約法は2006年5月に改正され、消費者団体が消費者の利益を守るために提訴する権利を認めた消費者団体訴訟制度が導入されました。提訴する消費者団体は、内閣総理大臣の認定を受けた適格消費者団体に限られています。
消費者に取消権が認められる、または無効となる契約は主に3つあります。まず、①不実告知、断定的判断、不利益事実の不告知による誤認による契約で、消費者から取消すことができます。
次に②不退去、監禁など困惑による契約で、やはり取消しの対象となります。なお、民法上の取消権は、追認することができるときから5年、または行為のときから20年で時効消滅しますが、消費者取消権は追認することができるときから6カ月行使しない場合、契約の締結のときから5年経過した場合に時効消滅します。
また、③事業者の損害賠償責任の免除や制限、不当に高額な解約損料、不当に高額な遅延損害金、信義則違反など、消費者に一方的に不当・不利益な契約は、無効となります。
もう一つ覚えていてほしい法律が、電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律(電子消費者契約法/2001年12月施行)です。電子消費者契約法は、消費者が行う電子消費契約の要素に特定の錯誤があった場合や、隔地者間の契約において電子承諾通知を発する場合に関して民法の特例を認めたものです。
この法律の目的は、事業者と消費者間の電子商品取引などでの消費者の操作ミスなどの救済です。つまり、事業者側が消費者の申込内容などの意思を確認するための措置を設けていない場合には、原則として、例えばコンピュータの操作ミスなどによる契約は無効とできるというものです。